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青猫屋 / 城戸光子
昔から歌を創り、詠じることに耽溺してきた小さな町。 時空のたわんだ日本の何処かに存在する不思議な町の一角に“青猫屋”はあります。 贋稲荷の祭りで売られる素焼きの狐を細々と拵える人形師でありながら、青猫屋の実の家業は“歌瘤士”。 呪力を持った歌の瘤(魂)を抜くという闇の仕事を引き継ぐ家系です。
亡き父が立ち会った歌仕合の勝負の判定を48年越しに依頼された青猫屋四代目当主の廉二郎を軸に、風変わりな町の住人たちや、妖しの生き物が、くるくると場面転換をしながらクライマックスへ向けてリズミカルに物語を転がします。 ユーモラスでありながら物悲しい・・この作品そのものが、一つの語り歌であったのかもしれません。 そんなイメージ。
夏の一夜の見せ物小屋は夢か現か幻か―― 癒し系な結末かな? と勝手に高を括って気を抜いてました・・orz だから殊更にラストの急展開が水際立って迫ってきて。 美と恐怖と悲壮と解放を捏ね混ぜたような、憎悪を超越してしまったサラリとした禍々しさに鳥肌が。
殆ど雰囲気でノックアウトされてしまったんですが、創作の淵源にあるのは、記憶や信仰や概念として生き続ける“言霊”が宿す負のエネルギーの脅威。 それを上質な寓意性でコーティングしたファンタジーです。 傲慢と不安の振り幅で揺れる、どこか吟遊詩人めいた歌い手たちは、言葉を操り発信する全ての人に敷衍するのだと思いました。 自分の生きる場所を想わずにはいられない・・
世界観も語り口も独特のセンスが光っていて、空気に慣れるのにちょっとコツがいるかな・・と思います。 わたしも読み込めた自信はなくてですね、ま、それの言い訳臭いんだけど、物語の完成度が若干緩いかなぁーというのがあって、不用意に難解な印象を与えてそうな部分が惜しまれます。
朝比奈ハウスの意志のある野菜、少し身体の透けた月見の紋平、山羊とは似て非なるヤギ、憂鬱虫、蝙蝠魚、灰色蟻、花折介、巡る旅団・・ 物質性がどこか希薄な属性への光の当て方、そのユニークな癖球に魅了されました。
思い返せば、登場人物の一人であるツバ老ご自慢の長大な物語歌の傑作“ムサ小間”(前篇&後篇w)の、突っ込んだテキスト論をもっともらしく延々と展開する件のバカバカしさ(遠大なる労力の無駄遣いっぽさというか・・)に心を高鳴らせていた自分って・・;;


青猫屋
城戸 光子
新潮社 1996-12 (単行本)
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