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聊斎志異の怪 / 蒲松齢
[志村有弘 訳] 清代(17世紀末)に著された中国古典の快作「聊斎志異」。 作者の蒲松齢は、科挙の試験に落ち続ける傍ら、二十余年の歳月を費やして、口碑に取材した世界最大級の怪異譚アンソロジーを集成しました。
本書は、(現存するだけで)400篇を越える膨大な原話の中から訳出した40篇を、幽霊、神、妖怪、狐、女、龍、首、とカテゴライズして紹介する抄録集。
人間と異形のものが戯れ合うように交錯する幽艶奇抜な世界観が、因果律や血筋の支配という基調低音としなやかに共鳴しています。
恋愛や情交、結婚譚が比較的多いんですけど、あっけらかんと抑揚のない民話ならではの雰囲気なので、ひゅーっと一陣の風が吹き抜けるような飄然とした佇まい。 それでいて、玄妙な趣きを帯びた空気の微動がふと目に沁みたりもして。
エピソードを書き留めました的な簡素なものから、物語としての体裁を備えたものまで、事もなげに此岸と彼岸を往還するフットワークの軽さといったら・・
マイベストは「書物から出てきた龍(蟄龍)」。 まるで詩情が結晶化したみたいな奇跡の一篇でした。 どこかユーモラスな妙味のある「幽霊のにせもの(周克昌)」や、「狐の嫁女(狐嫁女)」なんかも好きだし、そぞろに寂しさを覚える冥土の村のイメージが心に留め置かれてしまった「死者の結婚(公孫九娘)」もよかった。
そして、本書における最大の特徴はといえば、「聊斎志異」に材を得た芥川龍之介の「酒虫」と、太宰治の「清貧譚」「竹青 ―新曲聊斎志異―」の三篇が巻末に併録されているということ。
芥川によって、正鵠を射るように命題に光を当てられた「酒虫」。 背反する事象とは相補的であり、切り離せない表裏であるのだと突き付けられることで、原話の大らかな余白は埋められてしまうんだけど、“気づく”ことでもたらされる知的感慨は、これがねぇ。一入なんです・・
一方、原話の「黄英」に息吹きを注入して豊かな物語性を引き出した太宰の「清貧譚」。 「竹青」は、原話そのものが改変され練り直されていました。 どちらも主人公の個性がいい。 うざったくてメンドい奴なくせに、癪だけど妙に憎めないってところが太宰印。 正直「竹青」はイマイチ(自分は原話のが好きだ・・)な気がしたんだけど、「清貧譚」は瑞々しい佳作に生まれ変わっていたなぁと思う。 太宰が言ってるように原話の「黄英」自体が、“読んでいるうちに様々な空想が湧いて出て、優に三十枚前後の好短篇を読了した時と同じくらいの満酌の感を覚える”魅惑の一篇なんだよね・・ほんと、その通りだと思った。
こうして比べ読むことで、目の付けどころというか・・インスパイアのされようにニヤっとするし、この不世出の古譚集が、汲めども尽きぬ物語の源泉であることを再発見する思いでした。


聊斎志異の怪
蒲 松齢
角川書店 2004-08 (文庫)
関連作品いろいろ
★★
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