※ ネタバレご注意を ※

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | - |
停電の夜に / ジュンパ・ラヒリ
[小川高義 訳] ラヒリは、ロンドン生まれのアメリカ育ち。 カルカッタ出身の両親を持つインド系移民の二世です。 アメリカにおいて、二十世紀末頃から新たな潮流の一つとして脚光を浴びている移民・マイノリティ文学。 そのスタイルも拡散、細分化が進み、様々な資質にそってフレキシブルに継承させているであろうと想像しますが、そんな昨今にあっても、一際輝きを放つのではないかと思える短篇集。
アメリカとインドの間に身を置く人々が織り成す9篇。 家を飾る調度品に民族的な衣装や化粧、既にアメリカナイズされていても何処かに残るふとした習慣、香辛料の匂いが立ち込めていそうな日々の料理・・
ほんのり色づけされるエスニックな情緒。 でも、そこを殊更に強調するような物語ではなく、ましてや民族のへ不当評価に対するメッセージ性などといった居丈高さもなく、ラヒリの眼はむしろ、人間の普遍性に注がれているように思います。
だからいっそ、アメリカという国の血肉となって、確実に根を張る移民文化の強かさや、自身の源流でもあるインドへ向ける愛惜と敬意が、しんしんと伝わってくるのかもしれません。
他人の痛みに触れることへの恐れや戸惑い、それでもシンパシーを求めておずおずと手探りせずにはいられない寄る辺なさ、語りつくせぬ疎外感など、誰もが日常のどこかで抱いたことがあるような、相互理解と孤独の間で揺れる距離感の不確さを、インド系アメリカ人や、彼らを見つめる眼差しに投影させて、繊細かつ抑揚のない筆致で浮き彫りにしてみせる。 それは何時しか、特別な人たちではなく、現代を生きる不特定多数の人々の心にシンクロしてしまうのです。
どの物語にも瑞々しい感性が脈打っているのですが、最終話の「三度目で最後の大陸」が、やはり一押しかな。 一連の物語群の集大成のような醍醐味が感じられるというか、なんかもう愛が詰まっていて素敵すぎる!
移民二世の少女が、遠いバングラデシュ独立戦争の痛みに初めて触れた感覚をノスタルジックに描いた「ビルザダさんが食事に来たころ」や、白人少年の眼を通して描かれる、祖国を離れたインド人女性の喪失感が切なく沁みる「セン婦人の家」など、とても好みでした。
が、一番印象深いのは、表題作の「停電の夜に」。 もはや主人公がインド系夫婦であることの必然性すら感じられないんだけれども、傷つけ合うという行為によって、最後の愛を交わしているかのような二人の濃密な時間が愛しくて遣る瀬無くて・・ 密やかで鮮烈な・・美しい物語。 久しぶりに抉られた恋愛小説(といっていいのか)だったなぁ。
お恥ずかしい話ですが、インド(とバングラディシュ、パキスタン辺り)の歴史や宗教や民族や言語について無知過ぎる自分と改めて向き合いました。 この本がわたしのインドIQを跳ね上げる契機になればよいのに・・


停電の夜に
ジュンパ ラヒリ
新潮社 2003-02 (文庫)
関連作品いろいろ
★★
| comments(0) | trackbacks(0) |
スポンサーサイト
| - | - |
C O M M E N T








トラックバック機能は終了しました。