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パロール・ジュレと紙屑の都 / 吉田篤弘
かつて一つの国家であった小国群の物語。 “離別”によって分裂して以来、煮詰まってグスグスになった覇気のない対立関係を燻ぶらせている国々。
特務機関の諜報員、十一番目のフィッシュは、北の街・キノフで起こる奇怪な現象を探る任務を託されます。 キノフでは、口にする言葉が凍りつき、“パロール・ジュレ”と呼ばれる結晶体になるという。 また、凍りついた言葉を秘術によって解凍する“解凍士”が存在するという・・
このフィッシュなる諜報員。 書物に潜り込んで“紙魚”と化し、頁を泳ぎ渡ることを生業としています。 本の中の魚(のイメージ)なんですねー♪ で、書物に潜伏し、複数冊を適宜乗り換えながら、越境(密入国)し、目的地キノフへ“漂着”したり、書物に封じられた人物に同期(つまり変装みたいなものなんですが)して、現実世界に“再登場”したり。
なぜ凍るのか、どのようにして凍るのか・・ あわよくば優位に立つ為に、情報をいち早く入手しようという、なんとも曖昧模糊とした目論見のために命じられた神秘の解明が、やがて国家の、街の、人の過去を焙り出す機軸へと変容していく。
他国から侵入した諜報員と、国内で活動するレジスタンス。 それを取り締まるべく体制に従事する(素振りの)刑事ロイドの真の目的が、物語に切ない陰影を落としています。
監視、尾行、罠・・ 追って追われるスパイごっこを演じているような。 緊張感を欠いた、優雅とも倦怠ともつかぬ終わりのないカードゲームに興じているような。 堪らなくナンセンスな空気感なのですが、どこにでもありそうで、唯一無二のようで、孤立と親密さを漂わせた静謐で猥雑なキノフという街によく映える。
半ばフェイクのように添景的人物を織り交ぜつつ、視点をずらして剥ぎ合せていく手法や、本筋を外れて散りばめられるギミックのコラージュに眩惑翻弄されて、物語のビジョンが微塵も思い描けないまま、五分の四くらいまで隔靴掻痒の感と共に(ある意味それを楽しみながら)読み進めていたんですが、最後の最後でグングン惹き込まれました。 風呂敷の畳み方に快哉を叫びたくなりました。 真実を概念でコーティングした、真実以上に真実味を帯びた偽の報告書! これが秀逸なんだ。
発した本人の記憶にさえ残ることなく、誰にも気づかれず、塵屑のように捨てられた(それゆえに真摯で無垢な)呟き。 その粒子の一瞬震わせた空気の微動が結晶化され、冷たいコイン状の欠片として痕跡を残すという現象に、ふと、人物や書物を重ね合わせてしまいました。 時流に疎まれて踏みつけられ、忘れ去られて取り残された一人(一冊)が、長い眠りを経て時空の襞の中らか再発見される・・って素敵すぎるから。 マイノリティの格好よさってこれだよなって思う。
有史以来、永遠に解凍されず、この世には無いものとみなされているパロール・ジュレが、もしかしたら我々の世界にだって、まだ秘められているやもしれない・・ そんなところにまで想いが及ぶのも満更ではないんです。 吉田作品のモヤモヤと仄かに哲学的なところ、とても好きです。 パロール・ジュレは、眠れる思想や哲学の原石のようなもの・・なのかもなぁ。


パロール・ジュレと紙屑の都
吉田 篤弘
角川書店(角川グループパブリッシング) 2010-03 (単行本)
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