綺羅星波止場 / 長野まゆみ
夜のお話が多いせいか、全体的に青(碧)のイメージが広がります。 そこに明滅するアーク燈、珠を繋ぐ水銀燈、玻璃製の卵、ラヂオの雑音のような微かな雨音、銀紙にくるんだ薄荷糖、凍りついた金魚、緋褪色の古書、紅玉色の柘榴の実・・
それはそれはノスタルジックで透明感のある掌編集。 月、星、埠頭、鉱石、植物、猫、路面電車、少年・・ 賢治と足穂のエッセンスに、細やかな意匠を散りばめた紗をあしらってラッピングしたような。
ヤバイくらいの居心地のよさです。 好きすぎて蕩けてしまいそう。 空間演出にとことん拘る分、そこに配置される人物は何処か希薄で、情理に淡い(淡すぎる)余白がある。 このバランスが長野さんなんだよなぁ。
他愛のない中に、少年×少年の不可侵性が際立っていた「綺羅星波止場」と「雨の午后三時」では、灯影と垂氷が誘われる束の間の不思議体験が描かれています。 異空とのあえかな交響がキラリと眩しい。
本作品集の中では最も長い「銀色と黒蜜糖」は、長野さん曰く、“例によって「野ばら」ができあがるまでの過程で生まれてしまった、亜流のようなもの”なのだとか。 未読なので全く把握できていないんですが、ちょっと調べてみた限りでは、「夏至祭」もそのお仲間のようですね。 賢治が「グスコーブドリの伝記」に至る亜流を沢山書き残していたことと、なんとなく重ね合わせてしまったりして。
「耳猫風信社」の灰色猫や、「黄金の釦」の銀灰猫の、底意のない取り澄ましっぷりが可愛くて可愛くて・・ふふ。 こういう一揺れの波動しか残さない、埋もれてしまいそうな掌編が無性に愛おしくなることがある。
洞窟の中で、水滴の刻む音が絶対的な時間を掌握するように、暗幕に閉ざされた舞台という小宇宙では、綺羅星の如きイミテーションの耀きが、儚くも鮮明な唯一無二の実になる。 そんな魔法をかけられる。
お気に入りの止まり木的小品に寄り添って小閑を得ることの幸せといったら。 帰る場所はここっ♪ とか勝手に思い定めたいくらい、憩いをもらえるわたしの理想郷。
でも、長野作品(特に初期)は中毒性が強いので、時々しか読んじゃだめよと自分を戒めたくもなる。 健康にいい気はあんまりしないんだよね。 波長が合いすぎて魂を抜かれそうで^^;


綺羅星波止場
長野 まゆみ
河出書房新社 1995-08 (文庫)
関連作品いろいろ
★★★★
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