壊れやすいもの / ニール・ゲイマン
[金原瑞人・野沢佳織 訳] 様々な媒体に発表された詩と短篇を詰め込んだ作品集・・といってしまっては身も蓋もないのですが、テーマありきというよりは、集めてみたら共通項として浮かび上がってきたのが“壊れやすいもの”でした、って感じに近いかな。 物語は壊れやすく、そこに描かれる人の心や夢もまた儚いけれど、物語によって人生の一頁がどんな風に色づいたかを想う時、儚さは強さへと変容するのだと信じて、熱いハートを文字に乗せるゲイマン。 比類なき物語り巧者が紡ぐ、小品ならではの妙趣をたっぷりと味わい尽くせる一冊♪
きめ細かい気配りで構成され、陳列された31篇は、SF、ホラー、ファンタジーのジャンルを股に掛けながら、ゴシック、ノワール、官能、ユーモア、諷刺・・と、多種多様な彩りで味付けされています。 全篇を通して澱みなく香る詩情。 一筋縄ではいかない機知。 そして可視化され難い感情の渦が物語の深部で息を詰めているような気配に、胸がぎゅっとなる感覚に見舞われたり、気持ちを掻き乱されたり。 陰翳に富んだ物語世界にずぶずぶと埋没いたしました。
イギリスで暮らした過去と、アメリカに暮らす現在と。 記憶や、そこから育まれた空想、素養、培った感受性の全ての堆積が、当たり前なんだけれど強靭なバックポーンとなっているのだろうなぁと。 そこからゲイマンをゲイマンたらしめる配合比が導き出され、この世界観が形作られているのだなぁと、感慨に耽ってしまいました。 物語とは心の共鳴装置であるという考え方に、なんかこう、求道的なまでに立脚している気構えが、世界観のブレのなさに繋がっているのかな。
太古の昔から繰り返される怪物と人間のせめぎ合いというモチーフや、神と悪魔の鏡像関係に切り込んだテーマ性が印象深かったです。
大好きなのは、シャーロック・ホームズがH・P・ラヴクラフトの世界に遭遇する「翠色の習作」、異形のサーカス団が、地下の穴蔵の夜の夢劇場で持て成す「ミス・フィンチ失踪事件の真相」、散文詩のようで、そしてどこかサイレント映画のような香気を纏う「ハーレクインのヴァレンタイン」、「ナルニア国物語」のスーザンの処遇をめぐる考察を滋味深い物語に昇華させた「スーザンの問題」、ラストの抒情と余韻が堪らんかった「ゴリアテ」、父と娘がおとぎ話を共有する原風景が愛おしい「髪と鍵」なとなと他多数。
現実と幻想の概念が逆転している世界を皮肉とユーモアで描いた「顔なき奴隷の禁断の花嫁が、恐ろしい欲望の夜の秘密の館で」や、「アメリカン・ゴッズ」(未読です;;)から二年後、スコットランド滞在中のシャドウを描いた「谷間の王者」辺りもめっちゃ好み。 「コララインとボタンの魔女」は間違いなく「メモリー・レーンの燧石」に登場したイギリスの古い邸宅に触発されて書いたのでしょうね!って発見が嬉しい。


壊れやすいもの
ニール ゲイマン
角川書店(角川グループパブリッシング) 2009-10 (単行本)
関連作品いろいろ
★★★
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