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風車小屋だより / アルフォンス・ドーデー
[桜田佐 訳] 19世紀後半の自然主義作家として名高いドーデーの出世作ともいわれる名品です。 プロヴァンスのアルルにほど近い片田舎に、おんぼろ風車小屋を買い取って居を構えたドーデーから、パリの友人たちに宛ててしたためられた手紙のような調子で綴られています。
北風ミストラル、眩い陽光と青空、突き刺すような蝉の声、羊の群れの鈴の音・・ 地中海の恩恵を受ける南仏の美しい風光や、そこに暮らす人々の営みを、細やかな観察眼と詩人の感性でトレースした短篇群は、ロマンティックで、それでいて質実な生命の息吹きを感じさせる、干からびた心に響く慈愛の鐘のようでした。 光を得てはじめて生きるというプロヴァンスの景観が、瞼の裏にきらきらと残ってしまうような感じです。
“風車がピンで留められた大きな蝶のようにくっついている”緑の丘の、打ち捨てられた風車小屋に着いた晩には、床に車座となって月の光に足を温めていた兎たちに遭遇したり、二階の借家人は哲学者顔した陰気なフクロウの爺さんだったり!
夜話しにやって来る笛吹き爺さんから聞いた昔話は、人々が満ち足りた時にはファランドールを踊らずにはいられなかった頃の、最後の風車小屋の物語。 風車の時代が終わっても、お話はこうやって語り継がれ、今また21世紀の極東にまで届いているんだってことに想いを馳せたくなった「コルニーユ親方の秘密」。 羊飼いの少年が夜空を見上げながら語る星の世界の出来事・・清く守られた山の一夜の物語「星」など大好きです。
風車小屋以前にコルシカ島に滞在していた当時の思い出の中から、灯台守の生活風景を綴った「サンギネールの灯台」の静謐な物悲しさや、逆に幻影的なまでの生彩溢れる自然を前に、夢とうつつが溶け合ってしまうような感覚に曝される「みかん」も絶品でした。
聖母祭にプロヴァンスの名もなき詩人たちが発行する小冊子の中の掘出し物を紹介した「キュキュニャンの司祭」は、善良な司祭のマルタンさんの気の効いた教訓話が何とも可愛らしい。 そして、寂れた宿屋の女主人の心象風景に、皮膚の内側が疼くような気持ちになった「二軒の宿屋」が好きでした。
プロヴァンスの生んだ偉大な詩人、フレデリック・ミストラルとの交友の断片が描かれる「詩人ミストラル」では、失われゆくプロヴァンス語への郷愁と、その時流の前に毅然としてビクともしない詩人への敬愛の念がしみじみと伝わってきます。
風車小屋は・・ パリに住むドーデーが暫し喧騒を離れ、独り詩想に耽るために調達した避難所のような存在だったでしょうか。 牧歌的な暮らしへの憧憬が募れは募るほど、それと裏腹に、自分が紛れもない“パリの旦那”であることを痛いほど噛みしめていたかもしれない。 パリをこよなく愛していることを再確認する時間でもあったんだろうか・・なんて考えると、堪らなく胸がギュッとなるのでした。


風車小屋だより
アルフォンス ドーデー
岩波書店 1958-01 (文庫)
ドーデーの作品いろいろ
★★★
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