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謎の団十郎 / 南原幹雄
主に技芸や商いの分野に焦点を当てた江戸文化の香り豊かな歴史ミステリの短篇集。 史料上のとある事実に着目し、なぜそこに至ったのかという謎や疑問点を独自の発想で追求しながら時代相を浮き彫りにしていくスタイルが鮮やかに花開いています。
東西の二大歌舞伎や物資の流通上の対立をめぐり、江戸と大坂、双方の意趣が錯綜したり、絵師や地本問屋の貪欲で阿漕な生きっぷりと、モデルとなったことで翻弄される芸者や町娘の身過ぎ・・ その核に歴史秘話をさり気なく嵌め込みつつ、物語として深い味わいを醸す腕前が見事。
前半の3篇は江戸末期(嘉永6〜7年)を舞台にした団十郎絡みの連作仕立て。 1話目の「初代団十郎暗殺事件」では、元禄17年、役者の生島半六に舞台上で刺されて非業の死を遂げた初代団十郎の追善興行を企画する八代目が探偵役となって、様々に取り沙汰されるも決定的な説を持たない初代暗殺の謎に迫るという趣向。 その八代目自身にもまた、迫りよる死の足音・・ 第1話と第2話を、3話目の伏線のようにそつなく機能させている辺りに擽られてしまいます。
2話目の「死絵六枚揃」は、視点を変えた団十郎ものといいましょうか。 人気絶頂での突然の死を悼み、300種以上(普通の役者なら10種そこそこ)が版行されたという八代目の死絵(とむらい絵)。 その先陣を切って売りだされた六枚揃いの竹半版が群画を圧して売れまくった経緯を、当の死絵で懐を潤した絵師を主人公に描いています。 死絵から離れられない苦悩が遣る瀬無く沁みる妙品で、わたしはこれが一番好きかなぁ。
3話目の「油地獄団十郎殺し」は、江戸歌舞伎の最大の謎とされる八代目の死(一般的には自殺とされているが動機は諸説いろいろ)を、江戸と大坂の油問屋の対立という切り口から解明しようとした作品。 油相場の駆け引きなどは頗る面白く読んだんだけど、死の真相としてはちょっとなぁ。 あれだけ完膚なきまでに出し抜いておきながら・・了見が狭かぁないかい? 粋が泣くぜ江戸っ子よ。 痛み分ける度量はないのか。 という気持ちになってしまい・・ まぁそれだけ江戸と上方の遺恨は深いということなのかもしれないが。
6篇全部、歴代団十郎モチーフなのかと思っていたら後半3篇はまた別の話。 で、期待と違ったものだから一瞬落胆しかけたんですが、前半に勝るとも劣らぬ佳品揃いで堪能させてまらいました。
南原さんは大坂の豪商、鴻池一族の野望を描いた長編を何作かお書きになっているそうなのですが、4話目の「長州を破った男」は、そこからスピンオフしたかのような一篇で、商業資本と武士階級の対立を描いた力作。 大坂の豪商というキーワードは八代目の死の謎と微かにリンクし、構図の奥行きを深めています。
5話目の「伝説歌まくら」と6話目の「北国五色墨」は、歌麿が残した一枚の美人画に触発され、その背景にキラッと光る物語をでっちあげた浮世絵秘話で、大好きな趣向です。 絵師としての無心さと裏腹の情け深さを持った厄介な歌麿像が、小品ながら巧妙に描出されているのが心憎い。 絵の中にモデルは今も燦然と生きている。 それが絵師から娘たちへの唯一の真心であるのだろう。


謎の団十郎
南原 幹雄
徳間書店 1998-02 (文庫)
南原幹雄さんの作品いろいろ
★★
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