緋友禅 / 北森鴻
騙しあいと駆けひきの骨董業界を生き抜く美貌の一匹狼・・ならぬ一匹狐(?)の旗師、宇佐見陶子を主人公に据えた“冬狐堂シリーズ”3作目は中短篇集。
前作、前々作に比べて、陶子さんの人間性に滋味が備わっていますねぇ。 シリーズの中での彼女の成長と北森鴻という作家の成長とが共鳴し合った幸福なシリーズだなぁと感じます。
秘かに師と仰いだ同業者、伝説の掘り師、無名の糊染め作家、贋作者相手に古材を売る銘木屋・・それぞれの短篇で横死を遂げるストイックな人々の面影からは、匠の技に魅入られたり、独自の美学に絡め取られた業の残滓が幽鬼のように漂い出て、陶子の感情の海に小石を一つ落していく・・
その声なき声に導かれ、物語の鍵となる美術品に審美眼を刺激されながら、彼らの死の真相へと踏み込み、闇に葬られた想いに耳を傾ける陶子を通して、死者の弔い、情念の浄化のようなしっぽりとした物語を浮かび上がらせています。
同時にそこにもまた、美という魔性に吸い寄せられる古物商、骨董屋の業の深さが介在しているのですが、それだけではなく、陶子という一人の旗師の凛とした矜持が香る辺りも読ませるなぁ〜と思いました。
萩焼の名品、無傷の埴輪、幻の技法のタペストリー、円空仏・・登場する美術品の一つ一つに、オリジナルと模倣、真贋に係わる哲学的な北森印のテーマ性が込められています。 美意識と利害関係の交錯する、常識が通用しない特殊な価値観に支配された骨董の世界を北森さんならではの着想で描いたこのシリーズ、抑制が利いて、安定感がグンと増しています。
一番よかったのは「奇縁円空」。 生涯を造仏に捧げ、諸国を彷徨した江戸初期の造仏聖“円空”とは、固有名詞であると同時に悟りの境地のようなものだ。という考え方から導かれた説には虚を衝かれたし、この異説によって哀切な物語が温かさに包まれているのが泣けてくる。 ラストの情景とあの一行が胸を熱くします。


緋友禅
北森 鴻
文藝春秋 2006-01 (文庫)
関連作品いろいろ
★★
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