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今はもうない / 森博嗣
「夏のレプリカ」が異色作なら、こちらは異端作といったところでしょうか。 なんと文系じゃねーかミステリ! 非常に感想が書きにくいのですが、8作目は、シリーズにメリハリを与えるロマンティックが止まらない名品です。
この1作によって小説フィールドに立体感というのか、奥行きが生じ、より一層の愛着を誘発させる策略が心憎いほどに巧みです。 その分、単品で読んだのでは、このアクセントの妙味を堪能するのは難しいかもしれません。 シリーズ読者への御褒美的な旨味に舌鼓を打つのが吉でしょう。
“嵐の山荘”での美女姉妹密室殺人事件を回想する、とある一人称の手記(本篇)と、西之園家の別荘へ向かう遠乗りドライブの最中、その回想録の詳細を萌絵が犀川先生に語って聞かせているという場面(幕間)とを交互に描く構成。 アンティークな舞台演出や、密室トリック解明の思考錯誤が面白くて夢中になっていたもので、(絶えまなく違和感につきまとわれながらも)ここまで華やかなトラップにまんまと嵌ったのは幸せというものです。 そして密室の解がまた、パラドックスを操る森さんらしいことこの上ない・・
手記を綴る一人称がいい味出てます。 (世間の価値観から乖離した観念的な思考パターンに意外と共通項が多いと見受けましたが)頭脳明晰で完璧主義者で(実は)ビビリの犀川先生とは対照的で、回転が遅く、のらりくらりと図々しい鈍感力を発揮する“頭の中が発砲スチロール”気味な憎めない人物造形。 でも深読みすればこの愛嬌、どこまでがフェイクだかわらかない食わせ者加減も見え隠れしていて、底知れない打たれ強さが犀川先生にはない魅力。 (後でわかることですが)職業的な対比としても興味深いなぁ。
犀川先生と萌絵のシャープな掛け合いも深奥を究めてきましたね。 意味なしジョークの斜め上をいく“スーパー・ヘテロダイン・ジョーク”まで飛ばし始めた犀川先生の御守りは、萌絵じゃなきゃ無理ですw 表層的には萌絵が一方的に犀川先生に対して、かまってちょーだいビームを浴びせているわけですが、案外真相はその逆なんじゃないかと思うこの頃。 犀川先生の童心を包み込む萌絵の母性を感知する瞬間が多くなったよ。 2人のリレーションシップの軌跡がとても素敵。
最適でないことを許すことが洗練・・そんな洗練さを暗黙で共有できるまでに同調している大人になった2人を一抹の寂しさとともに噛みしめつつ、人里離れた山奥でひっそりと自然に還りつつある森林鉄道の、廃線跡の朽ちた美しさと甘やかな郷愁・・その残影が読後いつまでも目蓋の裏に残るようでした。

<ネタバレな呟き>
わたしの最大の違和感は、一人称人物と西之園嬢が一緒に“熱いコーヒー”を飲むシーンだったかなぁ。 性格や趣味は変質しても体質はなかなか・・ねぇ。

<後日付記>
幼少の萌絵と一緒に西之園家の別荘でサッカーボールを蹴って遊んでいた萌絵より“数歳年上の2人の男の子”は、大御坊さんの“年の離れた2人の弟”に違いない! のか?


今はもうない
森 博嗣
講談社 2001-03 (文庫)
関連作品いろいろ
★★
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