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数奇にして模型 / 森博嗣
前作、前々作と変則気味の作品が続きましたが、シリーズも佳境に入り、本来の軌道へ戻ってきました。 キャスト的にもレギュラーメンバー総出演に近く(更なる新キャラも投入されて)、いよいよ宴もたけなわの9作目。
模型の展示交換会イベント会場の舞台裏で起こった奇怪な猟奇殺人事件。 コスプレモデルの首なし死体の横で昏倒していた模型マニアに嫌疑がかかります。 近接した大学の研究室では相前後して女子学院生の扼殺死体が発見されて・・ 例によってキーワードは密室です。
90年代後半というと、模型の一分野としてのフィギュアが脚光を浴び始めた頃なんですね。 サブカル系というか、ずばりアキバ系が市民権を得ていくプロセスの黎明期といえるのでしょうか。 アブノーマルとトレンドが不思議なバランスで共存しているような・・仄暗い熱気を帯びた、どこか混沌とした空気感が伝わってきます。
森ミスでは度々“犯人の思考の特異性”が提示されますが、今回はそのキワモノ具合がなかなかにディープです。 ミステリの法則性を逆手に取るような“本格マニア泣かせの真相”的スピリットも健在で、そこに繊細で鋭敏なリアリズムが漂うのです。 森さんは本格を書いているようで、実は同時にアンチ本格を書いているような気がして、そんな矛盾をそっくり格納する世界観に吸い寄せられてしまうわたし。
レプリカとモデルの違い・・ 人間や動物を模すのが“人形”であり、人間が作ったものを模すのが“模型”である、という考察に、なるほど! と思う。
残るのは“形”だけであり、形を作った意志である“型”は失われてゆく。 形だけではなく、保存の効かない形と実体との関係性にまで踏み込んで初めて“型を模す”ことができる・・ これって歌舞伎とかも同じなんじゃ?
そんな職人肌のモデラの模型哲学は、森さんの想いを代弁していたのかな。 ちょっと熱く響きました。 破滅的なまでに“形”に執着した犯人は、真のモデラたり得なかったことが暗示されていたのではなかったか・・なんてふと思うのです。
異常と正常の違いとは何か? とか、何を“一個”と考えるか? とか。 人が便意的に無理やり生み出した“境界”という概念を模索するような思考の断片が散在していた印象。 国枝先生のこんな台詞をチョイスしたくなる。 (国枝先生いいなぁーどんどんよくなるー!)
カモノハシが、自分の位置するところが中途半端で気持ちが悪いから、もうちょっと鳥っぽくなろうなんて思わないでしょう?
このシリーズ、暴走の挙句、ピンチに陥る萌絵を危機一髪、犀川先生が助け出すの図がデフォでありまして、今回は特に犀川先生の、らしからぬ(笑)ハードボイルドっぷりが観賞できるのがマニア(何のw)には垂涎かなと。
相変わらず萌絵の直球アプローチをフェイントでかわすかの如きポーズを取っちゃってますけど、んもぉーどんだけ萌絵のこと好きなんよ先生w とツンツンしたい。 それよりなにより、どんなに報われなくても絶対にディフェンスを下げない萌絵のチャレンジャーシップに乾杯! ・・の巻かなこれ。
いやいや金子くん大活躍の巻と言ってあげなくてはいけないね。 順当に言って。 萌絵が自分自身も、他人も拒絶し、そこに何かが触れることを警戒し抜いて生きてきた部分を激しく揺すぶった金子くん・・ また一つ、萌絵の密室の鍵がカチリと外れる予感。

<余談>
“求めるものは創る行為そのものであって創られた物質ではない”的な模型創作論からスライドして“作家が小説を書く”という行為についての見解が、登場人物である作家の言葉として示されているのが興味深いです。 きっと森さんの本音なんだろうなと思う。
一見、小説家としてはボコられそうな発想なんだが、決して間違ってないと言いたい。 どっちかというと純文学の姿勢だよね。 一方、読者へのサービスを重視するのがエンターテインメントかな。 好きな方(或いは好きな配分)を選んで読めばいい。 だけど波長が合ってしまった時の混じり気のない前者ほど震えるものはない・・とわたしは思っているのです。 そのかわり波長が合わなかった時は悲惨・・orz


数奇にして模型
森 博嗣
講談社 2001-07 (文庫)
関連作品いろいろ
★★
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