高慢と偏見とゾンビ / セス・グレアム=スミス
[安原和見 訳] なにこれw どんなセンスよっ! タイトルは「『高慢と偏見』とゾンビ」ですね^^ 紳士と淑女とゾンビ・・ですからね。 あの名作にオプションでゾンビを放り込んでみましたの巻。 放胆なw まさしくキ印認定級の珍品なんですが、にもかかわらず、全米では誰も予想だにしない(笑)ミリオンセラーを達成。 やだ、需要あり過ぎ♪
オースティンの描いた「高慢と偏見」の舞台である18世紀末頃のイギリスは、神に見捨てられた世紀末世界と化していて、感染するとゾンビ化する奇病が蔓延し、ゾンビがうようよしています。 結婚だの財産だの下世話な処世にかまける傍ら、脳味噌が大好物な生ける屍どもの襲撃に備えるべく、武術の稽古に精進するベネット家の五人姉妹・・そんな(どんなw)御時世なのです。
グロあり、ヴァイオレンスあり、戦闘シーンあり、ちょいちょい際どい下ネタありと、本来の典雅で長閑な物語背景とは全く相容れない装飾が施されていますが、登場人物の人間性は変質していません。 だから少しもイヤにならなかったのかも。
途中で脱線していくこともなく・・徹頭徹尾、オースティンの敷いたレールを忠実に走り抜けつつ、全成分がネタで出来た着せ替えレベルのコンテクストマジックが炸裂しています。 もうね、そのパロ加減が半端なくて。 こういうの、正確にはマッシュアップ小説というらしいです。
作者は日本人じゃないからあり得ないんだけど、あたかも“舞踏”が“武道”に、“紳士”が“戦士”に掛かっちゃったりしてるんじゃないのかと勘繰りたくなりました。 センテンス単位でゾンビ仕様の台詞に置き換えられていたりもするから、原典と逐一読み比べできれば、ニヤニヤが何倍増しになるか計り知れない。
例えば、片田舎ロングボーンの社交生活を自慢するベネット夫人の痛い件は・・
【原作】(阿部知二 訳)
「わたしたちは、二十四もの家族と食事をともにするのですもの」
 ↓
【ゾンビバージョン】
「お食事をごいっしょするお宅が二十四軒もあるのよ。いえ、いまは二十三軒だったわね――ミセス・ロングもお気の毒に」
威圧的なお節介が鬱陶しいレディ・キャサリンに、エリザベスが品定めされる件は・・
【原作】(阿部知二 訳)
「わたしがあなたのお母さまを知っていたとすれば、家庭教師をつけることをぜひともすすめたでしょう」
 ↓
【ゾンビバージョン】
「あなたのお母さまを知っていたら、ぜひともニンジャを何人かお抱えなさいと、強くお勧めしたところですよ」
ダーシーの尽力をエリザベスに打ち明けるガードナー夫人の手紙では・・
【原作】(阿部知二 訳)
買収でもして軟化させないことには、彼女は信頼した人を裏切るようなことはしなかったのだろうと、わたしは想像します。
 ↓
【ゾンビバージョン】
顔や首のあたりに強烈にこぶしをお見舞いしなかったら、この女性が秘密を漏らすことはなかっただろうと思います。
といった具合。
エリザベスは中国で少林拳の師匠について修行したカンフーの達人なんだけど、それは邪道だとレディ・キャサリンは馬鹿にしてるんだよね。 日本のキョートで武士道の修業を積まないと一流じゃないんだって^^; その甥っ子のダーシーも日本武術の使い手で、かつてはキョートに留学してたらしいよ。 へぇー、あのダーシー卿が日本にねぇ♪ ま、その、いろんな誤解はあれど、オタク系欧米人の東洋趣味的な・・その辺の感覚がムズムズと楽しかったです。
枠組み、筋立ては、これ見よがしな程いじられてないんですが、小さな間違い探しは随所に散見され、幾分か、原作を逸脱する個所もあって、そんな中に、ひときわ疑問を抱く場面が二つ。
コリンズ氏はどうしてシャーロットの変容に気がつかないんだろう? リディアはどうしてウィカムとの結婚に満悦でいられるの? 自分の見たいものを見たいようにしか見ようとしない心の在り様が、オースティンが描いた“愚行の絡み合う喜劇”を通り越して、狂気じみて見えてくるのです。
真面目な感想を書くと、恐怖と隣り合わせの日常なのに、社交界のことで頭をいっぱいにしたり、平和主義を逃げ口実にゾンビのことは見て見ぬふりしたい人たち・・ 風穴を忌み嫌う、抑圧された旧弊社会の雁字搦めの停滞感というか、18世紀末イギリスの底部に巣食う退廃の象徴ででもあるかのようなゾンビ・・
なにはともあれ、原作を容赦なく逸脱するのは、詐欺師でジゴロなウィカムと卑屈な自信家コリンズ氏の境遇でしょうねぇ。 ビングリー嬢やレディ・キャサリンと違って報いを受けないから憎さ百倍キャラなんですが、この度のゾンビバージョンで、原作ファンの留飲も下がる・・どころか若干引いてしまうくらいの制裁が加えられておりまして、個人的にはやり過ぎじゃねーかと;; ま、B級だからいいのか。
ビングリーとベネット氏の“この秋最初のゾンビ撃ち”(原作では猟)がツボです。 餌にカリフラワーを置いて罠を仕掛けてました^^ “訳者あとがき”によると、本書へのもっぱらの不満の声は“ゾンビが足りない”だったらしい。 欧米人ってどんだけゾンビ好きなのーw


高慢と偏見とゾンビ
セス グレアム=スミス
二見書房 2010-01 (文庫)
関連作品いろいろ
★★
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C O M M E N T
ご無沙汰しています。
久しぶりに、こちらのブログを拝見し、このレビューに釘付けになりました。原作を読んでいないので楽しさがわからないかもしれませんが、楽しそうです♪
susuさんが変わらず素敵な読書を続けていらっしゃること、嬉しいです。
ご挨拶まで。
| 香桑 | 2011/12/13 |

香桑さん、こちらこそのご無沙汰です。
体たらくなブログへ立ち寄って下さって忝いです。

わーい、ゾンビに反応してもらっちゃいました♪
こればかりはですねぇ・・
読まれる時はくれぐれも“原作とセット”をお勧めしたいシロモノです^^;
意外と原作も読み易いお話なのです・・少女漫画みたいで。

来年はまた香桑さんのブログをたくさん散策させて頂きたいです。
せめてもう少し読書のペースを上げられるといいな;;
| susu | 2011/12/14 |









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