夢違 / 恩田陸
フロイトが「夢判断」を執筆してから一世紀余り、夢そのものを映像データとして保存する“夢札”という技術が開発され、肉眼で夢を視る、本物の“夢判断”が行わるようになったパラレル現代(ちょっと近未来?)の物語。
“夢を目で見る”という新しい共通認識が出来た子供世代の間で多発する集団白昼夢や集団神隠しなどの不可解な現象はいったい何の兆しなのか。
究極のプライバシーである夢札を“視て”夢の解析を行う“夢判断”を生業とする野田浩章は、図書館の渡り廊下で見かけた死んだはずの女性の面影に突き動かされ、狂言回しさながら、これら無意識をめぐる事件の追跡者となるのですが、その最中、職業病である“夢札酔い”に襲れ、微妙にずれつつ重なり合う現実と幻覚の狭間を彷徨うような・・奇異な感覚に苛まれていきます。
“夢は外からやってくる”。 自分が誰かを好きだからその人の夢を見るのではなく、自分のことを好きな誰かが夢の中にやってくると考えた古代の日本人。 夢そのものを依り代として“何か”がやってきて、また帰っていく・・ 能を想わせるような夢思想が、ミルク色の濃霧に包まれた奈良の都の中で瘴気のように妖しさを際立たせています。 小さな迷宮のような古い集落、満開の桜に覆われた吉野の山肌、春日大社の若宮おん祭、蔵王堂、法隆寺の夢殿・・を巡り歩く、ひんやり湿った旅情。 そこに立ち込める魔都的な風情が芳しい都市綺譚です。
夢とは本来、忘れることでその役割を果たしているだろうに・・ それを無理やり可視化したら、イケナイものまで暴いて、いかにも“何か”を呼び起こしてしまいそうで怖いです。 人間の意識下に蠢く、理解の範疇を超えた“何か”が、個々の内側から離れ、人類全体を覆う巨大な集団的無意識として外側に蔓延してしまった世界というのは想像するだけで恐ろしい。
でも、一昔前までは少数派や通人の特権だったことが“次の世代になるとみんなできる”という現象を、生きていれば知らず知らず目の当たりにしていることに、ふと気づかされます。 夢の可視化というのは途方もない例だけど、世の中が、あらゆるものを可視化する方向へ押し流されていることは確か。
ネットの中の情報の洪水、宇宙の仕組みや素粒子の発見、街の中の無数のレンズ・・ それらが次世代の共通認識をどのように変容させ、どんな影響を与えていくのか、その評価はずっと未来に委ねなければならないのかもしれなせん。 ちょっと警鐘めいたものも嗅ぎとれるSFチックなサスペンスでした。


夢違
恩田 陸
角川書店(角川グループパブリッシング) 2011-11 (単行本)
関連作品いろいろ

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「夢違」恩田陸
「何かが教室に侵入してきた」。学校で頻発する、集団白昼夢。夢が記録されデータ化される時代、「夢判断」を手がける浩章のもとに、夢の解析依頼が入る。悪夢は現実化するのか? 戦慄と驚愕の幻視サスペンス。 夢を映像として記録し、デジタル化した「夢札」。夢を
| 粋な提案 | 2014/01/24 |