半七捕物帳 一 / 岡本綺堂
いわずもがな捕物帳の元祖。 北村さんと宮部さんがセレクトされた傑作選集を本屋さんでぱらばら捲っていたら、全部読まなきゃいかん! という気持ちがムクムクしてきて、急きょ、こちらに切り替えました。 全部読みます!
大正六年から昭和十一年にかけて発表された、全六十八篇のうち、この第一巻には最初の十四篇が収められています。 明治の半ば当時、若い新聞記者であった“わたし”が、隠居暮らしの半七老人から二十六年間に渡った岡っ引き稼業での手柄話、探偵談を聞いて、記録したメモ帳を元に、後に(つまりは、今、このように)読み物として体裁を整えて発表している、という趣向です。
これって・・ 明治半ばから大正初期まで、新聞記者として過ごした著者自身を“わたし”に見立てているのでしょうか? 
時代の生き証人である半七老人。 江戸末期の世相風俗と、四季の風情・・ その面影が空気に染み渡り、綺堂の創作なのに、神田三河町の半七親分が本当に実在していたかのような心持になってしまいます。 言葉の転がり具合がなんとも粋で、読みながら掛け合いの台詞を追っていくのが愉しくて堪らなかった。
一話目の「お文の魂」は、十四歳の少年だった“わたし”が、半七という江戸末期の岡っ引きに興味を持ったエピソードが披露されていて、言ってみれば前段的な一篇です。 岡っ引き時代の半七を知る“小父さん”によって、半七の外見がこんな風に回想されています。
笑いながら店先へ腰を掛けたのは、四十二、三の痩せぎすの男で、縞の着物に縞の羽織を着て、だれの眼にも生地の堅気と見える町人風であった。色のあさ黒い、鼻の高い、芸人か何ぞのように表情に富んだ眼を持っているのが、彼の細長い顔の著しい特徴であった。
次篇以降は半七自身の回想が元になっているので、容姿や風貌についての客観的な描写(記述)が殆ど見られなくなるのは当然といえば当然なのか・・ その意味でもこの一話目のこの件は貴重かもしれない。
そしてもう一つ、この短篇に愛着を感じずにいられないのは、
彼は江戸時代に於ける隠れたるシャアロック・ホームズであった。
の有名な(!)一文が組み込まれているせいだろうなぁーと思う。 解説で都筑道夫さんも言及されていたけれど、実際、綺堂がリアルタイムでシャーロック・ホームズに触れ、刺激を受けたことで、和製ホームズ、半七親分の謎解きシリーズが生まれたんですよね♪
二話目の「石燈籠」では初手柄をあげ、四話目の「湯屋の二階」では遣り損じに苦笑し・・ 職業的な動作や体つきの特徴などが、当たりをつける時の着目点にしばしばなったりするのですが、この辺にホームズの感触が見え隠れするような^^
人はそうそう悪でもないし、そうそう善でもない・・ 欲深さや見栄や嫉妬が単純な事件を複雑にしたりするのだけれど、それが如何にも小才覚止まりの浅知恵なので、半七親分に見破られてしまうんだよね^^; 江戸末期の刹那的で自棄気味な、でも存外根は素直な江戸っ子庶民の感覚と、半七の気の利いた計らい、幕引きがとてもマッチしていて、宮部さんじゃないけど、そう、この感じ!この感じ! と、胸躍らせてしまいます。
抒情性、ドラマ性をことさらにこってり描かないせいか、飽きが来ないから、ずっと浸っていたくなるし、古くなく、むしろ・・とんでもなくハイセンス!と思いました。 隠居老人の昔語りというスタイルが、惜しみなく機能していて、あっさりと淡泊な・・だからこそ、しみじみと余韻を響かせる後日談が、またよくて。
佳いお茶と旨い菓子を挟んで、浮世を離れた時計のない国の住人のように、日の暮れるまでのんびりと語り続ける老人と、衝動される若者。 きりぎりすの鳴く声をきいて江戸の夏を思い出し、濡縁で小さい三毛猫を膝に乗せる半七老人・・ 時代を下った明治の一風景もまた、年を重ねた“わたし”にとっての甘やかなノスタルジーなのです。

第一巻収録作品(十四篇)
「お文の魂」「石燈籠」「勘平の死」「湯屋の二階」「お化け師匠」「半鐘の怪」「奥女中」「帯取りの池」「春の雪解」「広重と河獺」「朝顔屋敷」「猫騒動」「弁天娘」「山祝いの夜」


半七捕物帳 一
岡本 綺堂
光文社 2001-11 (文庫)
関連作品いろいろ
★★
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