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『秘密の花園』ノート / 梨木香歩
バーネットの傑作、「秘密の花園」の大人向けガイドブックです。 自然観とヒューマニズムが分ち難く融け合った慈しみ深い作品であることは、多くの読み手が感じるところだと思いますが、そこから一歩も二歩も踏み込んで、暗示的な領域を凝望した深い洞察がなされていて、逆立ちしても自力では惟みることのできない梨木色のパノラマに、ただもう、唸らされ、称嘆の溜息がもれるばかり・・ 最近、読書がちっちゃくなりがちなんで^^; 梨木さんのナビゲートは、わたしの“屋敷の奥”あるいは“秘密の庭”に、“ムアの風”を吹き込んでくれる連続で、よき刺激をもらいました。
ご本人も語られているように、果たしてバーネットがどこまで意図を潜ませていたかなんて、もう誰にもわかりません。 共振音を内在させる作品がある、それだけていいのです。 作者の手を離れた物語が、時代や場所を問わずにダイナミックに受容され、読者の奔放な想像力で、様々な解釈が見出されていくことは、まさに本と読者の幸福な関係の裏付けと言えるのではないでしょうか。
心の変化と季節の変化、屋敷と庭・・ 内と外の美しいシンメトリーを象っている作品だなーと、大人になってから一度読み返しているのですが、自分が感じ取れたのはそこまででした。 以下、ほぼ備忘録です。 忘れたくないので要点を書き散らしています。 未読の方はご注意ください。
本書を読んで一番穿たれたのは、メアリは屋敷という自身の内奥をさ迷い歩き、その深淵にコリンという本当の自分を見つけたのだという捉え方、また、メアリとコリンという個人の再生の物語であると同時に、古い家に象徴される幾世代も続く結ぼれのような頑なさを宿した一族の再生の物語であるという捉え方、その二点を踏まえると、メアリにとってコリン(その逆も然り)は分身、あるいは同一体のような存在と置き換えられるため、後半に向かって、主人公だと思っていたメアリからコリンの物語へとシフトしていく不自然さ(弱点のようにさえ言われている構成)が逆に揺るぎのない必然性を帯びて見えてくるという魔法・・ ゾクッとしました。
屋敷内でメアリが出逢う小動物が、彼女の心象世界を表わすように、生命力を取り戻していく過程で変化していくこと、暖炉の火の手入れをするマーサには、メアリの寒い“部屋”を温める役割が与えられていること、外界へ開かれる明るい兆しとともに聞こえはじめたコリンの泣き声は、メアリ自身の内なる叫びに他ならないこと、ディコン(あるいはその一族)は、冷暗所に置かれた種だったメアリ(あるいはその一族)が芽吹くために必要な光の使徒であること、大切な領域で行われる命の法則に基づいたデリケートな行程には、秘密(神秘)が不可欠の条件となること、看護婦は、場面を離れた神の視点的なアクセントとして配置されていること、最低限の庭の生命線を保ち続けていた庭師のベンもまた、メアリ(あるいはその一族)の分身であること、亡きクレイヴン夫人とディコンの母のスーザンという二つの母性は、それぞれが穢れない空と懐深い大地に象徴されていること、メアリの父親の描写が排除されていることで逆に、好むと好まざるとに関わらず、子は親から有形無形の、正負の遺産を受け継ぐ定めなのだという(もう一つの)メインテーマを通奏低音のように響かせていること・・等々。
自分が孤独であることにすら気づいていない初期の段階から、初めて他者への関心を示し、そのフィードバックによって自身を客観視できるようになっていく蘇生への道筋を、散りばめられた様々なメタファとともに辿る新体験。 ハッとするような示唆に富んだ道案内でした。


『秘密の花園』ノート
梨木 香歩
岩波書店 2010-01 (単行本)
関連作品いろいろ
★★
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