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フランス民話 ブルターニュ幻想集 / 植田祐次 & 山内淳 訳編
フランスの中でも特異な文化的背景を持つブルターニュ地方の精選された民話を収めた小集成といえる一冊。 カエサルがガリアを平定してから、現フランスの多くの地域ではローマの神々が奉じられるようになった中で、辺境のブルターニュでは、ケルト人たちの土着宗教だったドルイド教が依然として信仰の対象だったそうですが、五世紀半ば頃になり、既にキリスト教信者となっていたブリテン島のケルト人たちが移住して来るようになり・・という流れなんですね。
へぇ。内陸からじゃなく海からキリスト教が伝わったんですねー。 ローマからの激しい伝道攻勢を受けなかったため、“キリスト教がドルイド教に接ぎ木されるように”両者が混在した風土らしい色彩が民話からも感じられました。
勧善懲悪風の教訓話が多い中、「悪魔のメンヒル」の存在感がいい^^ ブルターニュがまだ異教の地でアルモリカという古名で呼ばれていた遠い昔の、聖人と悪魔が“まだけっこう仲良く”暮らしてもいた頃の話。 聖人が聖人過ぎす、悪魔が悪魔過ぎない大らかさと取るべきか、辛辣な寓話と取るべきか。 契約に忠実で臨機応変さに欠ける悪魔が狡賢い聖人にカモられて可哀想の図・・からもややスピンオフしていて、聖トレフェールがダメダメ聖人なのに澄まーして聖人顔してるところがなんともユーモラス。
↓だってこんな感じ。
聖人 「神様、礼拝堂造って!」
神 「奇跡いっぱい起こしてあげたからもうダメ」
聖人 「悪魔さんは造ってくれる?」
悪魔 「一晩のうちに造るよ。ご褒美に教区の人間の魂ちょうだい」
聖人 「う、うん。わかった」
え〜〜ww 結局、悪魔が最後の一個の石を運ぶ途中で雄鶏が鳴いて聖人セーフなんですが;; で、今もハリエニシダの草地の中に、この時悪魔が落した“悪魔のメンヒル”という巨石が建ってるんだって。
ドルメン(巨石墳墓)の下に棲んでるコリガン、そのコリガンに遭遇しないために上着を裏返しに着たり、農家の守り神だった小妖精たちのためにミルクやバターを置いておく習慣や・・ “ドルメンとメンヒル”のセクションは、わたしの知ってるケルトっぽさが如実に感じられて個人的に好みでした。 巨石文化とケルト人は全く別物なのが実体なんですが、異教の遺物としてケルト文化と親密に語られてきた長い歴史が民話の世界には息づいていますよね。
そして、大好きだったのが“イスの町”の伝説。 かつてはパリに並び立つ権勢を誇った享楽の町“イス”が海の底に沈み、長い呪縛の中で救いの日を待ち続けている・・というロマン掻き立てられる言い伝えを、ロマン派の作家が放っておくはずがないと思うわけで、現に、ここに紹介されている「イスの町」と「イスの町のクリスマス」は、民話というにはあまりに洗練された美しさと詩情を湛えた名編です。
ちょっと異色作の「寒がりやの男」は、こんな事があったのかもしれないと思わせる現実的な怖さが、生者と死者が近接していた基層から仄見えてくるようで、ついと胸を抉られる話。 死神のアンクーはブルターニュ地方のオリジナルなのかな。 本編では「食事に招かれた死者」と「夜の洗濯女」に登場しています。 アンクーが出てくるだけで雰囲気が格別。
あと印象的だったのはリンゴ。 葡萄酒よりも林檎酒が庶民には一般的だったんですね。 話の中にリンゴが頻出していて、時に霊光があったりもする。 ケルト人が西方の楽園をアヴァロン(リンゴ)と呼んでいたことと無関係ではないのかな。 ブルターニュの人々がきのこを“ひき蛙の玉座”と呼ぶというのにも擽られた^^
殆ど単純に物語性を楽しんだり、情景を愛でながら読んでいたんですが、最後の解説では、ケルトとキリスト教が時に折り合い、時にせめぎ合う独特の世界観に対する深い考察に触れさせてもらい、こんな読み方ができるのか!と目鱗ポロポロ。 緩やかな融合といっても、キリスト教が異教に対して異例の寛容さを示しただけであり、ドルイド教がキリスト教に敗北したことには変わりなく、その事実を勝者の側から暗喩的に物語っている話が少なくないのですよね。 ブルターニュ地方に伝わる人魚伝説の祖となったといわれるダユーに象徴されるように“人魚”には、ケルト落日の面影が色濃く滲んでいる気がしてきて、「人魚と漁師」の話にもう一粒の輝きが加わるようでした。
「アーサー王伝説」と親和性を示す「うすのろのペロニク」。 円卓の騎士ペルスヴァルの聖杯を思わせるベロニクの皿には、キリスト教の教義からは少し道を外れたケルト人たちの不死への信仰が現れているというのも興味深いです。


フランス民話 ブルターニュ幻想集
植田 祐次/山内 淳 訳編
社会思想社 1991-07 (文庫)
関連作品いろいろ
★★
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