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青蛙堂鬼談 / 岡本綺堂
[副題:岡本綺堂読物集二] 春の雪の宵、怪談会の集いに招かれた十二人の客人たちが、代わる代わるに一席ずつ話を披露するという百物語趣向の連作怪談集「青蛙堂鬼談」に、単行本未収載の短篇二篇が付録されています。 大正後期発表の作品群。 平明な語りの品の良さが非常に心地よい・・
中国では、“祀って敬えば福をもたらし、ないがしろにすれば禍を招く”という青蛙神にまつわる民間信仰が杭州地方を中心に広く根付いているらしく、ざっと説話を繙くだけでも様々なバリエーションの変化が確認できるんですね・・と巻末の解題で知りました。 綺堂は本編の導入部で、“金華将軍”という名の三本足の蝦蟇の由来を、清の阮葵生の「茶余客話」を参照しながら紹介してるんですが、これも青蛙神伝説の一つの枝葉ということになるんでしょう。
会を主催した主人は、支那通の知人からこの話を聞いて以来“青蛙堂”と号し、支那みやげに貰った三本足の蝦蟇の竹細工を床の間に飾って珍重している趣味人なのです。 床の間に控える青蛙神が聴き手に加わる恰好で、舞台にちょとした緊張感が生まれています。
で、まず、青蛙神の話の流れを受けて、青蛙堂主人に件の伝説を教えた支那通の客人が第一の話者として、青蛙神にまつわる(明代末期江南の)別の伝説を披露するんですが、ここからはもう綺堂の創作で、以降、江戸末期、維新の動乱期、戦国末期から江戸初期、明治大正期、日露戦時下の満州・・と、話者毎に舞台を転じながら、多彩な怪異の数珠が連なります。
綺堂の創作の淵源には志怪小説の素養の膨大な蓄積があり、その汲めども尽きぬ源泉から吸い上げるエッセンスを大切に扱い、原初の名残りを消し去らないのも魅力なんじゃないかなと感じます。 なんていうか・・東洋人なら誰もがDNAを疼かせずにはいられない懐かしさ。
解題によれば、実に本編の作品もその多くが志怪小説に材を得ているのだそうで、博覧強記の柴田宵曲さんが「綺堂読物の素材」の中で典拠に触れているそうです。 てか、宵曲さんの頭の中に入ってみたい・・ なんで砂漠の中の一粒一粒を見つけ出せるんだ?
“話はあとも先もないほうが面白い”と「捜神記」の水脈を絶やさず、怪談に理屈を持ち込むことを好まなかった綺堂が紡ぐ怪異譚には、非計画的な効果を知り尽くした人が書いた、知的操作を剥き出しにしない洗練された素朴さがあります。
抒情は時空間の質感や温度を匂わせる映像美でのみ表現されていて、そこには、帰趨するところを知らない人心の底なしの闇のようなものが渦巻いて・・といった淡い基調が、実話に根差した本物の伝説のような臨場味を醸し出すのです。
どれもそれぞれに上質感が漂うんですが、「猿の眼」が抜きん出ていたかな。 ぞわっと襲う不穏な感覚のただならなさが美味。 「龍馬の池」も好きでした。 こちらも不合理さが際立つ話なんだけど、寂寞とした幽玄な風情が幻想的で寄る辺なく・・
水戸の城下に伝わる「梟娘の話」と、遠州七不思議の一つとして知られる「小夜の中山夜啼石」という、2つの民間伝承を、江戸期の随筆や資料に取材して紹介したエッセイ風の掌編も、本編の“付録”として好もしく、総じて、時間に汚されることのない名品だと実感しました。


青蛙堂鬼談 −岡本綺堂読物集二−
岡本 綺堂
中央公論新社 2012-10 (文庫)
関連作品いろいろ
★★
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