ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語 / ゾラン・ジフコヴィッチ
[山田順子 訳] ジフコヴィッチは東欧(旧ユーゴスラビア)の現代作家で超ジャンル的な幻想小説の書き手。 70年代に、先鋭的なSF研究(いわゆる“スペキュラティヴ・フィクション”化していくSFへの関心)を出発点として文学活動に入ったという経歴が、なるほど(そう言われてみると)作品から匂い立ち、鼻腔を擽る感じがしてきます。 截然たる別世界というよりは、なんとなく内的思考の飛翔に由来するマインドスペース的な幻想である辺りが・・
本書は三つの短篇を収めた小セレクト集で、どちらかというと、日本の読者にジフコヴィッチを紹介するパイロット編?といった趣きなんですが、わたし、波長が合いました。 とても好きです。 更なる邦訳を心待ちにしたいです。 代表作といわれる「The Library」を是非とも。どうか。
常識や保守という自制の中で堅実に生きているけれど、そこからはみ出した世界への感受性を無意識下に温めているような主人公たちが遭遇する不思議の追体験なので、日常という地表の確かさを意識しながら読むことができ、決して難渋な印象ではないと思うのです。 プロットにもはっきりとした輪郭があり、どこか原初的な作話本能を感じさせる物語の愉しさに夢中になることができました。
その背後に、人間がまだ解き明かせない摂理の秘密が物思わしげに横たわっているような・・ 普遍なるものの本質を探る手触りが霊妙な奥行きを醸し出し、漠とした実存の不安にグラッとくる感覚もあり、怖いのかたわやかなのかわからないような不思議な静けさに包まれている。
一話目は寓話チックで、二話目はホラーチックで、三話目はちょっとミステリ。 一話目の「ティーショップ」が、今年のマイベスト短篇ってくらい好き。 語り終えたところから語り継ぎ、どこまで転調していくの?って思ったら、内宇宙と外宇宙を繋ぐニュアンスが有るか無きかといった円環構造で閉じられてるという・・だけではなかった。 最後の最後で鳩が飛び出すような展開になるのが素敵すぎて、極上のマジック・ショーに一観客として拍手喝采を贈りたくなります。 語る、聞く、伝える・・ 物語を物語たらしめるすべてが詰まった粋な作品でした。
非業の焼失を遂げた古代叡智のシンボル、アレキサンドリア図書館の御霊を、あの世の淵から呼び起こしてしまった恐怖と陶酔が、昏く激しい火焔の中で遠い遺恨と縺れ合う「火事」も、必然と偶然、運命と意志の神秘的概念を流麗かつアイロニカルに織り上げた「換気口」も、三篇それぞれにこよなく美味。


ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語
ゾラン ジフコヴィッチ
Kurodahan Press 2010-10 (単行本)
関連作品いろいろ
★★★★
| comments(0) | trackbacks(0) |
C O M M E N T








http://favorite-book.jugem.jp/trackback/832