Self‐Reference ENGINE / 円城塔
全ての可能な文字列。全ての本はその中に含まれている。
しかしとても残念なことながら、あなたの望む本がその中に見つかるという保証は全くのところ存在しない。これがあなたの望んだ本です、という活字の並びは存在しうる。今こうして存在しているように。そして勿論、それはあなたの望んだ本ではない。
処女作の冒頭の文章として、カッコいくて痺れる。 勝手に決意表明に違いないと妄想している。 それでも書くぞ!という。 これ、“文字列”“活字の並び”を“数式”に、“本”を“宇宙”“真理”に(逆の方がいいかも?)置き換えたら、理論物理学者たちの声まで被さって聞こえてくる気がして胸熱・・
“イベント”が起こり、時間が壊れて無数の宇宙に分裂してしまった、その様々な宇宙の様々な時間を過ごす人間と巨大知性体たちの話が連作短篇としてランダムに綴られている・・と考えたらいいでしょうか。 独立した短篇として非常に際立ちつつ、そして、当然ながら因果律も機能せず、流れというものがない世界の話なので、長篇としての一般的な体裁もあってないようなものなのに、でも不思議と長篇なんです・・やっぱり。
知識と夢想力の調和が素晴らしいSF。 サイエンスの尻尾をスペキュラティヴの頭が咥えているような・・と言ったら円城さんは気を悪くするかな。 小説の目指していたものは円環ではなく、あくまでも階層だったような気がしたので。 外側にはその外側があり、内側にはその内側があり・・というように。 閉じてないというか。 無限を諦めてないというか。
砕ける以前の時空を取り戻すための戦いはとても不毛に映るんだけど、これを不毛と言ってしまったら身も蓋もないんだよね・・ 未来も過去もぐちゃくちゃな中でさえ、“前に”進もうとする意志は美しくて尊くて、刹那と呼ぶに相応しいキラキラした輝きを放っていてキュンとなる。
ごく当たり前に考えて、人間が宇宙の構成要素の一部である以上、全体である宇宙を繙けないのは自明(だと思うの)だけど、真理を追い求め続けずにはいられない限りある存在へのオマージュというか、限りある知性への賛歌、応援歌だったようにも思えたんです。 そこには詩情とさえいえるほどのロマンが溢れていて・・愛おしかった。 でも、どうだろう。 それら全てを鳥瞰するような冷ややかさも紛れていたのだろうか・・と、ほら。 階層構造にすっかり感化されてる^^;
全体としては、自己言及のパラドックスものを壮大無比にやらかした思考実験風で、イカレ具合はちょっとバカSF的でもあり、理屈っぽいところなどは本格ミステリに通ずる何かを感じるし、やばいくらい好みでした。 惚れました。 入れ子式に思考が入り組んでいて、真理の反転が続々と起こったり、普遍的な相同性をみせたり・・ その揺さぶりの激しさに攪乱されて悪酔いしそうなのが快感です。
アイデアが、イマジネーションが、なんかもう、使い捨てレベルで惜しげもなく注ぎ込まれている細部がまた楽しくて楽しくて。 律儀にふざけている感じはなんなのこれw 特にディスコミュニケーションが誘発する低体温なユーモアのセンスにドツボり。 まだちょっと荒削りな初々しさも堪らんかった。

<後日付記>
フィリップ・K・ディック賞特別賞おめでとうございます! 巨大亭八丁堀のセンスはわかってもらえないんだろうなぁ。 そこが残念で仕方ない。


Self‐Reference ENGINE
円城 塔
早川書房 2010-02-10 (文庫)
関連作品いろいろ
★★★★★
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