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死都ブリュージュ / ジョルジュ・ローデンバック
[窪田般彌 訳] フランドル出身の象徴派詩人であり作家であったローデンバックの代表作。 世紀末の幻視者が紡ぐ仄暗い夢の世界に誘われてまいりました。 クノップフの「見捨てられた街」が、この小説に触発されて描かれたことを知ってから、ずっとしぶとく気になってたのです。
ベルギーの古都ブリュージュは、今でこそ“北のヴェネツィア”の異称もある風光明媚な世界遺産の街ですが、“黄金都市”と讃えられた15世紀の繁栄は遠く、運河は機能を失い、観光客にも見放され、19世紀には“永遠の半喪期”の趣きを極めた忘却の街さながらだったらしく、そんなブリュージュの厚い霧に閉ざされた憂愁を、悪意とも愛惜ともつかない沈鬱な調べにのせて謳い揚げた、なんとも甘美な作品でした。
妻を亡くした傷心のままに夕暮れのブリュージュを彷徨う主人公ユーグの前に、妻に生き写しの女性が現れます。 人も街もそれぞれの役割に向かって真っ直ぐ突き進んでいく運命悲劇的な色調を帯びた、不安と陶酔とを同時にもたらす寓話的な物語。 惨劇のクライマックスは卑俗な修羅景色であるにもかかわらず、どこか神話のように厳かで、詩美性とでもいうべき翳りある光芒を放っているから不思議だ。
ベギーヌ会修道院をはじめ、数多の教会、聖堂、礼拝堂、鐘楼・・ 歴史を刻む建築物も、降り注ぐカリヨンの音色も、切妻屋根の家並みも、運河に架かる石橋も、岸辺のポプラも、水に浮かぶ小舟も白鳥も、滑るような足取りで黙々と通り過ぎる修道女や老婦人も、何もかもが喪章のように存在している。 それは、ユーグの明度に露出を合わせた心象風景のようでありながら、むしろブリュージュの街そのものが律動し、中世のままの硬直したへブライズムの呪縛で、社会の淵をうろつく余所者のユーグを脅かし、絡め取っていくという感覚の方がしっくりきてしまう。 この物語の神経であり心臓であるのは、ブリュージュであるというほかない気配を漂わせているのです。
死の中に永遠に生き続ける愛によって照らされているばかりの幻影ようなユーグの人生と、重い時間の堆積を充満させた過去が眠る壮大な霊廟のような街との交感、共鳴、同化・・ 聖性と魔性を渾然一体と大気の中に溶かし込む妖しい熱を秘めた灰色の都の魂に魅入られました。うっとり・・


死都ブリュージュ
ジョルジュ ローデンバック
岩波書店 1988-03 (文庫)
関連作品いろいろ
★★★
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