夜の底は柔らかな幻 / 恩田陸
日本の中にありながら日本の国家権力が及ばない“途鎖国”が存在しているパラレルワールド。 特殊な能力を持った“在色者”の聖地であり、重なり合わない世界が同時に存在し、見えないものが見え、未来と過去が交差する途鎖国。 お盆と似て非なる“闇月”を迎えた神秘の国で、禁足の地“フチ”を目指して山深い無法地帯に集う悪党どもの狂乱の祝祭が始まり、殺戮の嵐が吹き荒れる。
以下、ネタバレに当たるかもしれませんが、短篇集「図書室の海」に収録されていた「イサオ・オサリヴァンを捜して」の姉妹篇なのだそうで、理解不能な別次元の力を持つ生命体が、太古の昔から世界各国の“奥地”に棲息し、ひっそりと人類の進化に働きかけているという、コズミックホラー的な世界観を共有しているフィールド上の物語、の日本篇。 因みに「イサオ・オサリヴァンを捜して」は、構想を仄めかしておられた「グリーンスリーブス」(ベトナム篇か大穴でアイルランド篇? お蔵入りなのかな?)のバイロット篇でした。
途鎖犬、沈下橋、お遍路・・ 地理的にもですが、途鎖のモデルが土佐なのは明らか。 ただ、土佐固有の伝承や風習とどの程度までリンクしているのかいないのかは知識が乏しく感知できなかったので、むしろ「地獄の黙示録」をやりたかったという恩田さんの初志を、少しばかり心に留め置きながら読みました。 あるいは更にその元ネタの「闇の奥」。 ま、それのB級版といったイメージで。 単に “闇の奥”という言葉の響きに、物理的、心理的、観念的・・ いろんな意味の重層を読んでもいいかもしれない。
ぬるいヒロイズムと酷薄さが綯い交ぜされたガキっぽさや、歪なロマンスが発散するリリカルな色合いが、作りものめいた伝奇的世界と見事に調和していて、アニメやコミック風のライトな映えを見せる。 正直、途中まであまりの茶番臭にしらけモードだっんだけど、根源的な“闇”の香りを隠し持っていて侮れない趣きがあった。 ぷっ壊れた連中の嗜虐的でキャッチーなゼロサムゲームを逸脱し、徐々に底知れない暗黒が支配する理智の外側に足を踏み入れていく不気味さ、マッドサイエンス絡みのサスペンスアクションから超スケールのダークファンタジーへと変貌していく制御不能なストーリーのうねりに惹き込まれました。
悠久の時の底を流れる郷愁に縁取られ、限りなく極楽浄土に似た地獄と同化する即身成仏の夢想を湛えたラストシーンは、禍々しくも神々しい密度の濃い静寂に包まれて・・ 四国八十八箇所霊場の密教的側面をモチーフに、日本篇に相応しい異形の生命体像を捻出してくれたなぁーという感慨も深いです。


夜の底は柔らかな幻 上
恩田 陸
文藝春秋 2013-01 (単行本)
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