※ ネタバレご注意を ※

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | - |
イラクサ / アリス・マンロー
[小竹由美子 訳] マンロー初体験。 2001年に出版された短編集の全訳。 “チェーホフの正統な後継者”と言われる短篇の女王の、とりわけ傑作と評される作品集のようです。 マンローが舞台に据えるカナダの片田舎は、“アリス・マンロー・カントリー”と呼ばれるらしい。
訳者あとがきを読むと、想像以上に、自身の生い立ちと作品背景が密接していて、身の回りの世界を正攻法で書き綴る作家であることがわかります。 普段あまり読まない・・というか、ちょっと苦手とするタイプなのだけど、そういう小手先のバイアスは吹っ飛んでしまって、噛めば噛むほど広がる風味を反芻するように読みました。
甘さと苦さ、偽りと誠、幸せと不幸せ、高揚と抑制、親密さと距離感・・ 分かち難くうっそりと縺れる曖昧で不確かな意識のひと揺れを鮮烈に浮き上がらせるタッチは、なにかとても官能的なのに硬質で。 無音の激しさとでも言うべき生命の熱を発し、心臓の鼓動と同化するような生身の息遣いがそこにあって。 本心という幻の周辺にさざめく答えのない人間模様を映し出し、透徹した眼差しがそれを射ている。 心に落とされたのは、人生を内側から照らす秘密の匂いだったでしょうか。 決して外側からは、そして当事者さえきっと正確には捉えられない、一瞬と一生が交錯するように穿たれた、平凡で特別な情動の神秘。
個人的には「クマが山を越えてきた」で描かれた、疲弊と虚しさと(たぶん)愛を内包する夫婦像に打ち伏せられるようなカタルシスを感じた。 ナラティブのウィットを楽しめる「恋占い」もよかったり。 「クィーニー」は、義理の姉妹という関係の甘酸っぱい彩色が気に入ってます。 「浮橋」や「イラクサ」や「記憶に残っていること」の大枠は、まるでベタなロマンス小説なのに、無造作にフォーカスされた細部に深い感銘があって通俗を逸している・・かのようなその紙一重さは、作者の挑発だったのではないかと睨んでいる。 総じて、短篇という小さな身体でなんという量感を支えているんだろうと思う。 聞きしに勝る読み応え。


イラクサ
アリス マンロー
新潮社 2006-03 (単行本)
関連作品いろいろ
★★
| comments(0) | trackbacks(0) |
スポンサーサイト
| - | - |
C O M M E N T








トラックバック機能は終了しました。