狼少女たちの聖ルーシー寮 / カレン・ラッセル
[松田青子 訳] マイアミ生まれの米国人若手注目作家による初作品集。 宝石、おもちゃ、がらくた、ゴミ、残骸が一緒くたになった箱をひっくり返したみたいに奔放でクレイジーな夢想煌めく空間に、大人と子供の境目だけに与えられた特別な時間が封じ込められている感じ。 青田さんの“十個のスノードームを目の前に並べられたような気持ち”とは言い得ているなぁと思いました。
ワニ園、悪魔のゴーグル、子供用星座観察者の銀河ガイド、ボート墓場、睡眠矯正キャンプ、人工雪の宮殿、ウミガメの卵、ミノタウロス、貝殻の街、海に浮かぶ老人ホーム、海賊の子孫の少年合唱団、狼少女・・ 目に見えないものが目に見える影を投げかける場所、街は、さながらそれごとアミューズメント・パーク。 大抵みんな何かの幻に“取り憑かれて”いて、境界の向こうに感応しているのだけど、もしかするとそれは思春期流の“自分を魔法にかける能力”なのかもしれない。 でも、こうあって欲しいと願う理想型はぺしゃんこに押しつぶされ、ここぞというタイミングはいつも拍子抜けて、美しくない。
少年少女に対すてこういう突き放し方ができるのは、逆に若さの成せる技なのかもしれないと、ふと思った。 偽善に対してとても敏感になっている人の筆だと感じる。 奇跡も感動も起こらず、精神の飛翔もなく、地べたでもがき、無様に足掻いている姿を、変奏を織り成しながら繰り返し描いていく無慈悲色に、それでも読んでいて心が擦り減ることはあまりなかった。 ひりつく痛みだけは彼ら彼女らにとっての紛れもないリアルであり、人がどこかで経験する誰も教えてくれない大事な悲しさに触れるような感覚があって、何かとてつもなく眩しかった。 特に愛する人の絶対性が揺らぐ時の孤独が峻烈。
全体的にキッチュなメルヘンの趣きなんだけど、破天荒なシチュエーションは、現実に対する悪辣なパロディ、神経に障るグロテスクなジョークとしての側面を有し、この世に存在する事物を別様の光や影によって照らし出す、まさに魔術的写実の世界。 作家の小説観を端的に伝えるショーケースのようでした。 ポップな比喩表現の連打で物語をグイグイ牽引する文章の呼吸と、カラフルな発想の放射に、若い力の横溢を感じます。


狼少女たちの聖ルーシー寮
カレン ラッセル
河出書房新社 2014-07 (単行本)
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