なまみこ物語 / 円地文子
「栄花物語」の合わせ鏡のように存在したといわれる「生神子物語」を円地さんが「なまみこ物語」として現代に蘇らせてくれた・・とすっかり信じてしまった。 あとがきを読むまでは・・ 物語の誕生にまつわるエピソードまでも、壮大なフィクションなのだった。 ところどころに挿入される原文(ということになっている)もすべて円地さんの創作って・・すごすぎる。 円地さんのお父さんが上田萬年氏、日本文学研究者のチェンバレンが英国へ帰国する際、蒐集していた蔵書一万巻以上を上田氏に譲ったというのは実話。 その中に、円地さんが幼い頃それとはなしに読みふけった「生神子物語」が含まれていた・・というところからがフィクションのようだ。
「栄花物語」が道長の栄華を称えた書であり、つまり道長側の物語であるのに対して、「なまみこ物語」は定子中宮の数奇な運命とその愛の強さを称えた、定子中宮側の物語ということになる。 権力闘争を勝ち抜き宮廷を牛耳った道長ではあるけれども、定子中宮と一条帝の絆だけは断ち切ることができなかった・・というところに重きを置いて描かれている。
「生神子物語」の原典は「栄花物語」の原典をそのまま引用している箇所が少なくない(・・と円地さんは騙る)。 それは作者の筆の未熟さ故か、あるいはパロディ的なねらいがあるのか・・みたいなことまでさり気なく示唆するほどに余念なく心憎い。 すっかり騙された。
わたしは田辺聖子さんの「むかし・あけぼの」を読んで以来、聡明でお優しい定子中宮と、気位高く勝気な女として定評のある清少納言の心意気に惚れてしまっている。 御心が沈んでしまわぬように、定子中宮の笑顔のために枕草子は書き続けられたのではないかとさえ思えてきて、清少納言の筆が生き生きとしているほどに、その健気さに想いを馳せてウルっときてしまう。 その想いを「なまみこ物語」は甘美な夢想へと昇華させてくれた。


なまみこ物語
円地 文子
新潮社 1972-08 (文庫)
円地文子さんの作品いろいろ
★★★
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