月の部屋で会いましょう / レイ・ヴクサヴィッチ
[岸本佐知子・市田泉 訳] 現代奇想SFの書き手、ヴクサヴィッチの初邦訳作品集。 2001年刊行の第一短篇集で三十三の短篇と超短篇が収められています。 岸本佐知子さんセレクトの既刊アンソロジーで読んだ三作「僕らが天王星に着くころ」「セーター」「ささやき」が、どれも好きだったので、否応なく期待値が跳ね上がってましたが裏切られなかった。 凡打なし。 概ねポテンヒット級なのだが、その“ポテン”感に偏愛心を擽られ、作者の術中に落ちまくった。
価値観の隔絶がもたらす孤独や、理不尽に対する静かな叫びを、数奇な秩序が支配する空間の中で奔放にイメージ化して見せてくれる手並みの確かさ、そらとぼけた味で緊張の腰を折りつつも、笑いの影に戦慄を隠し持つ油断のなさ、ロマンとアイロニー(ときどきグロ)がダンスを踊るような叙情性、疑似科学や観念論的な理屈っぽさのちょっとしたアクセント・・ それら配分の調合が作家独特の個性を生んでいます。
皮膚が少しずつ宇宙服に変化していく奇病が蔓延してたり、手に被せた靴下が意志を持って動き出したり、乗り物と人間が一体化した種族が生息してたり、小さな相棒を肩から生やした異星人が向かいに住んでたり、人体内にナノピープルがコロニーを作ってたり・・ イマジネーションの陳列ケースのように、突拍子もなく出し抜けなシチュエーションがつるべ打ち状態で現出するんですが、次々気持ちをリセットし、手っ取り早く順応するのが勿体無くてガツガツ読めなかったです。
自分の一部が異物に乗っ取られてしまうモチーフの多さ。 その根底には個の連続性にかかわる問題が横たわっていたように感じました。 自己(或いは世界)の輪郭の不明瞭さは、認知のブレとなって他者との齟齬を際立たせずにおかない。 そこから生じる悲喜劇が主人公の心理衝動として刻々と記録されていくのですが、自分の中にもある看過できない一面を、拡大鏡を通して見せられているような、歪みのあるところへ刺さってくるような、キュッと胸が締め付けられるような、でも気づけばクスクス笑いがこぼれていて・・ 気持ちを絞りきれないざわざわ感覚に占拠された。
マイベストは「バンジョー抱えたビート族」だったかな。 苦い感動と切ない痛みにやられました。 人はわかり合えなくてもいたわり合えるという哀しい慰安に満ちた認識に、綺麗に昇華されていたと思う。 結文がふるってる作品が多いのだけど、本篇のいなし方は白眉。 結文的には、変なギア入っちゃう主人公がヤバ可愛い「ピンクの煙」もお気に入り。 「最高のプレゼント」の底無しの不毛さが怖くて哀しくて心を去らない。


月の部屋で会いましょう
レイ ヴクサヴィッチ
東京創元社 2014-07 (単行本)
関連作品いろいろ
★★
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