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御書物同心日記 / 出久根達郎
御家人の三男坊で冷や飯食いの身の上だった丈太郎は、古い書物をいじるのに目がなく、市井の古本屋からも頼りにされる本道楽。 縁あって、跡取りのいない御書物方同心役、東雲栄蔵の目に留まり東雲家の養子に迎えられ家督を相続することに。
御書物方同心とは、御書物奉行の配下、天下の奇本珍本がひしめく徳川将軍家代々の蔵書を納める紅葉山御文庫の管理保護を行うお役目。 城内紅葉山の御書物会所へ出仕(二班交代性の隔日勤仕)して、同僚の白瀬角一郎とともに鼠にかじられた本の残骸と顔をつき合わせ、修復作業に精を出す日々。 諸大名から献上された古書を入庫する際の照合点検作業や、重複本や傷本を貸本屋に払い下げる際の入札の立会い等臨時仕事も経験するうちに、夏の土用入りから始まり、およそ六十日にわたって実施される年に一度の最大の行事、“御風干し”の時節を迎えます。
著者らしい古書への愛好目線が濃厚で非常に楽しめました。 紅葉山御文庫を中心にすえた古本蘊蓄の江戸編といった趣きもあるのだけど、実は御文庫に蔵書印はないそうです。え〜〜っ! つまり商いを禁じられた廃棄印のない不法帯出本なんていう存在もそっくりそのまま出久根さんの創作なのだと巻末の著者による解説「附・江戸城内の書物」で知って、そ、そこがガセ? と軽く狼狽した;; かなり真に受けて読んでたので。 全体、考証から少し距離を置いた想像以上に自由な物語空間が広がっていたのかもしれない。 化かされるとこだった・・あぶないあぶない。 一の蔵(歴代将軍の手沢本を所蔵する最も古く重要な書庫)に棲みついている“ヌシ”に供物を捧げる慣わしとか、まさかね・・orz
人擦れしていないウブな好青年風情の丈太郎と、いつか何かをやらかしそうでヒヤヒヤさせる危なっかしい遊び人風情の角一郎との新米同心コンビの友情や、情欲の煩悩に乏しい本の虫の丈太郎に甲斐甲斐しく見合いを仕組む良きタヌキ風情の養父、栄蔵との父息子関係など、深々と描くわけではないのにしみじみする。 上野のお山の桜見物、莨屋の裏商い、暑気払いの泥鰌鍋・・ 江戸情緒を背景に綴られる進展や決着もおぼろな物語の、飄逸洒脱な味わいがふくふくと心地よかった。


御書物同心日記
出久根 達郎
講談社 2002-12 (文庫)
関連作品いろいろ
★★
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