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天使エスメラルダ / ドン・デリーロ
[副題:9つの物語][柴田元幸 他訳] 国際的評価の高い現代アメリカ文学の巨匠デリーロのキャリアを一望するベストセレクション。 2011年刊行だそうですが、なんと初短篇集。 デリーロの主要なテーマがこの一冊の中に網羅されていると言っても過言ではないようで、いきなり大作では尻込みしてしまう(わたしのような)読者のための入門書に持ってこい・・と豪語できるほど残念ながら読みこなせていないのですが・・好きです。 好きと言わせてください。
自然の脅威、戦争、技術革新、犯罪、貧困、パニック、テロリズム、情報、資本主義経済、労働、信仰・・ 社会を象る諸相が多声的に刻印されていて、さながら現代を伝える無数の地図。 これ以外の構成では成立し得ないようなコンセプチュアルな効果をあげていて、選集ですが作品集としての完成度も高いです。
物理的な現実と人間的規模の膨張との狭間で生じる歪みに直面する個人の、内部齟齬のようなものを強く意識しました。 主人公たちはとりとめのない精神的危機に直面しているのだけど、その茫漠さや曖昧さの中に時代をあぶりだす力、あるいは世界の根本的な不安定性を、人が生きる感情の次元に落とし込み可視化して語る力・・ いや、そう容易い感じではなく、この世の実相を観念的に咀嚼した後に具現化したとでもいったらいいのか。 イメージ的鮮烈さでリアル以上に浮き彫りにされたリアルが肌感覚として響いてくるような。
触知可能な実際的事柄と、触知できない哲学的な事柄をコミットさせ、絶えずその接点の汀で潮に打たれている切迫さは、物体とその認識との間の、どんなに接近しようと重なることのできない距離のようなものだったろうか。 “今ここのもの”となった恐怖や不安の中で、どうやって生きたらいいか逡巡し、虚ろな真実を自分の信じる世界像と整合させようとする葛藤は、自我がバラバラに壊れてしまわないために必要な、人間の切実な営みに違いなかった。
緊張を途切らせるような途切らせないような、知らばっくれたユーモアの介入も、作品に独特の優美さをもたらしています。 中世を現代にリメイクしたような「天使エスメラルダ」が圧巻だったけれど、ヌーヴェルヴァーグ的香気を漂わせた「天地創造」や、肌の下にひそむ熱のようなノスタルジーが狂おしい「第三次世界大戦における人間的瞬間」が(相当に)好みです。


天使エスメラルダ −9つの物語−
ドン デリーロ
新潮社 2013-05 (単行本)
関連作品いろいろ
★★★
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