小村雪岱 物語る意匠 / 大越久子
[埼玉県立近代美術館 監修] モダーンですねぇ。 典雅にして斬新。 日本の伝統と近代の美意識が溶け合って、魅力的な文化が花開いた大正から昭和初期は、連載小説を目玉にした新聞や廉価な雑誌が発行部数を伸ばし活況を呈した大衆文芸の隆盛期であり、また、 出版社が美術家たちを登用し、意匠を凝らした美装本を競うように世に送り出した時代でありました。
装幀、挿絵の分野を中心に目覚ましい仕事を成し、洗練された感性で人々を魅了した小村雪岱は、そんな気風の中を駆け抜けたデザイナーの先駆的存在です。 生涯に手掛けた装幀二百数十冊、挿絵およそ二百作の中から選りすぐりを集めた他、数少ない肉筆画も紹介する解説つき名品集。
写生や写実には興味が向かず、人の手で拵えられたものが好きだという言葉を残している雪岱は、根っからの“意匠家”であり、“描く”こと以上に“造る”ことを目指した人なのだろうなぁと実感させられます。 日本画を特徴づける構図の大胆さや装飾性を受け継ぎながら、よりフォルム化、形象化することによって突き詰められた先鋭的表現は、同時に、読者を物語の世界に引き込んでいく感覚的な舞台装置にもなっていて淡々とした余情を孕んでいる。 計算し尽くした工夫が凝縮されているんですよね。 一見簡素でありながら実は凝りに凝っていたり、意味深長だったりして、気づいた者だけをほくそ笑ませるような企み、ハッとする驚きを与えようとする心が尽くされていたりする。
泉鏡花を敬愛し、鏡花が描く世界の清澄なロマンチシズムに深く共鳴していた雪岱を、大正3年の新作「日本橋」の装幀者に抜擢した鏡花。 以降、雪岱が最も多く“鏡花本”を手がけることになったそうで、その工芸品のような造りは、今もマニア垂涎の人気なんですね。 画号は、“小さな村から見える雪の泰山(岱山)”ほどの意味。 授けたのは鏡花なのだとか。
挿絵家としての雪岱の名を一躍高めたのが、昭和8年に連載された邦枝完二の新聞小説「おせん」。 春信の錦絵がブロマイドの役割を果たして評判になった江戸明和期の実在の人物である“笠森お仙”をモデルにした小説で、“おせん”に春信の世界観を投影した作者の意向に寄り添うべく“春信調”の造形を追及して描かれているようです。 “昭和の春信”と言われる所以はそこにあったのですね。 完二と雪岱のコンビは続いて翌年、明治期の稀代の毒婦をモデルにした「お伝地獄」でもヒットを飛ばし、こちらは国貞風の仇っぽい絵柄(それでもどことなく春信を想わせるそっけないほどの品の良さが漂う気がするのだが・・)、和洋が混在する風物を織り交ぜた画面構成と構図の冴えで、代表作とされる仕事をこなしています。
ちょっと和風ウィリアム・モリスっぽい図案系も素敵。 ブックカバーあったらいいのに、と思ったら「龍蜂集」は立派なのが販売されてるんだ。 自分は「亜米利加紀念帖」「島の娘・月夜鳥」辺りが欲しい。 もちろん雲母摺りや膠摺り風の光沢つきで。 余談だけどカバー後袖の肖像写真の隣の飾り絵(?)も雪岱の作? 何気に可愛くて栞にしたい^^ 本書の表紙には、雪岱が好んだモチーフ、つがいの蝶と芽柳の銀の箔押しが。 粋なオマージュですね。


小村雪岱 物語る意匠
大越 久子
東京美術 2014-07 (単行本)
関連作品いろいろ
★★★
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