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こうしてお前は彼女にフラれる / ジュノ・ディアス
[都甲幸治・久保尚美 訳] 前作「オスカー・ワオの短く凄まじい人生」でオスカーのルームメイトだったモテ男ユニオールが本作の主人公、と知っていれば前作から読んだのに;; まぁ、続篇ではなく姉妹篇のようなので、支障はないのかもしれないけども。
ドミニカ生まれのユニオールは、幼い頃、父の出稼ぎ先のアメリカへ母と兄とともに移り住みますが、父の失踪、兄の病死など、過酷な家庭環境のもとで成長します。 本作は、そんな我らがドミニカ男ユニオールの、半ばユーモラスな、半ば悲愴な、恋の災難を綴るカタログとでもいうべき悩める愛の遍歴の物語。
浮気男ユニオールのアイロニカルな泣き笑いベースで型破りに描かれてはいますが、愛に臆病で、愛から逃げながら、誰よりも愛を渇望している・・ 身に覚えのありそうな身近な心が扱われていて、生身の登場人物と遭遇する感覚がしっかりとありました。
前作では“ドミニカ共和国の独裁制の呪い”が扱われ、本作では“一族を不幸に突き落とす浮気男の呪い”が扱われていると、これは訳者による解説。 社会の諸相を取り入れるのに長けた著者の筆は、物語に貧困の影を染みのように点々と落とし、アメリカ東部に生活するヒスパニック系(主にカリブ系)移民の声を掬い取ります。 貧困との因果が決定的であろう家族の崩壊は、親密さに対する根源的な恐れを子供の心に植えつけて、それはまた、次の世代の家族に伝播していく・・ 時間の堆積、意識の連鎖が充満した深刻な負のスパイラルの問題に主眼が置かれているのは確かなんだけど、重苦しさで威圧するのではなく、ユニオールのチャラチャラした表層的な感情の裂け目からのぞく“真実”に心をそっと添わせるような作品なのです。
反復するエピソードの集積の形を取ると同時に、縦の時間軸を巧みに織り込んで重層的に主題の深化を図りながら一つのストーリーを浮き上がらせる仕掛けが鮮やか。 物語の命題を遂行し完成させるための細心の目配りがなされていたのを感じます。 飾り気もなく剥き出しなほど直截的な、弛緩も冗長もない文体には、自在な境地に到達したかのようなドライブ感あります。
作者には、本書も含めた既刊の短篇を組み直して(おそらく新たな短篇も組み入れて)ユニオールの人生を描いた壮大な小説を作る構想があるらしいのです。 ユニオールはきっと作者にとって特別な存在なんだろうなぁ。 唯一、女性が語り手をつとめ、ユニオールが登場しない一篇「もう一つの人生を、もう一度」の毛色の違いは何なんだろう? と思ったのですが、実は裏設定があって、ラファやユニオールが生まれる前の父親の話に繋がっていたらしい。 高次の構想への補助線がここにも引かれていたんでしょうか。 でもそうすると誰が父親なんだろう。 ラモンは暗示的人物だろうけど本人なはずはないし(それにしても意味深なタイトルだ)、アナ・イリスの息子の一人なのかな?
作品と作者の同一視は慎重に避けなければいけないけれど、著者略歴に目を通す限り、この作品が作者自身の体験の陰画であろうと想像することは、あながち間違いでないように感じます。 「浮気者のための恋愛入門」を書こうとし、書くことに希望を、恩寵を見出だそうとするユニオールの結末は、だから決して暗いものではないと思えるのです。 突き放した自己観察の場を得ることで、深い病根が自ずから精神史として高まる可能性の、その萌芽の兆しを凍土の下に感じることができるのではないかという気がして。


こうしてお前は彼女にフラれる
ジュノ ディアス
新潮社 2013-08 (単行本)
関連作品いろいろ
★★
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