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書物愛 海外篇 / アンソロジー
[紀田順一郎 編] 書物愛をテーマにしたアンソロジーの海外篇。 大御所からマイナー作家まで、愛書狂の生態を赤裸々に暴くその種の珍品逸品を一堂に会したラインナップ。
1835年から1956年までに執筆ないし発表された十篇をほぼ年代順に並べ、背景もバルセロナの路地裏、パリのセーヌ河岸、ロンドンの街頭、ウィーンのカフェー、ドイツの田舎、フィレンツェの街角など、時代性や土地柄を多彩に編み込み、尚且つ対象物に魅入られた蒐集家につきまとう破滅的、終末的匂いを基調音として響かせながらも、ミステリ、ホラー、上質な物語小説、笑劇風、アイデア・ストーリーなどバラエティーも確保し、読者を飽きさせない構成に感服させられます。
手写本や揺籃期本(インクナビュラ)の擦り切れた頁、色褪せた羊皮紙の塵や埃や黴のにおい・・ 幾重にも積もった時間の層のしじまから漏れてくる、古の好事家たちの熱く遣る瀬無い溜息を傍受した心地・・
第一次大戦とインフレを背景に、古きよき庶民的社会意識の黄昏を描いて名状し難い郷愁をそそるツヴァイクの二篇、「目に見えないコレクション」と「書痴メンデル」が珠玉の輝きを放っていました。 老いて視力を失くした田舎者の版画コレクターと、古本学の無名の大家というべき無比の記憶力を備えたユダヤ人古書仲買人。 外界と隔絶した精神世界の住人である彼らが時代の変化に蹂躙されるその、哀れで、滑稽で、手の施しようもない崇高と、無力にも彼らを守ろうとする絶滅間もない無垢が胸に迫るのです。 “本が作られるのは、自分の生命を越えて人々を結びあわせるためであり、あらゆる生の容赦ない敵である無常と忘却とを防ぐためだ”の一文を抱きしめるように心に仕舞いました。
「薪」は、アナトール・フランスの出世作「シルヴェストル・ボナールの罪」の第一部に当たるのだとか。 日本風に言うと“情けは人の為ならず”なハートウォーミング・ストーリーなのだが、語りの妙味が実に魅力的だった。 書物の魔に囚われた筋金入りの書痴と、書痴に人生を狂わされた老嬢とのバトルが炸裂するグロテスクコメディ「シジスモンの遺産」や、古き怪奇小説のモダン香る「ポインター氏の日記帳」も好み。 フローベール少年期の作品「愛書狂」は、一見、皮肉の効いた巧妙なストーリーに映るのだが(そして実際その通りなのだが)、実話をもとに書かれたのだと知れば、西洋における愛書文化のスケールと濃度に眩暈がしそうになるのだった。

収録作品
愛書狂 / ギュスターヴ・フローベール(生田耕作 訳)
薪 / アナトール・フランス(伊吹武彦 訳)
シジスモンの遺産 / オクターヴ・ユザンヌ(生田耕作 訳)
クリストファスン / ジョージ・ギッシング(吉田甲子太郎 訳)
ポインター氏の日記帳 / M・R・ジェイムズ(紀田順一郎 訳)
羊皮紙の穴 / H・C・ベイリー(永井淳 訳)
目に見えないコレクション / シュテファン・ツヴァイク(辻ひかる 訳)
書痴メンデル / シュテファン・ツヴァイク(関楠生 訳)
ロンバード卿の蔵書 / マイケル・イネス(大久保康雄 訳)
牧師の汚名 / ジェイムズ・グールド・カズンズ(中村保男 訳)


書物愛 海外篇
アンソロジー
東京創元社 2014-02 (文庫)
関連作品いろいろ
★★
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