※ ネタバレご注意を ※

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | - |
闇のしもべ / イモジェン・ロバートスン
[副題:英国式犯罪解剖学][茂木健 訳] 18世紀後半を舞台にしたジョージ王朝時代ミステリ。 ゴシックと冒険活劇をミックスした重厚にして絢爛たるエンタメ仕立てで非常に読みやすかったです。
イングランド南部ウエスト・サセックスの田園地方で連続して起こる怪死事件の謎を追う厭世家の解剖学者クラウザーと才気煥発な海軍提督夫人ハリエットの眼前に立ちはだかるのは、広大な領地から周囲を睥睨する大貴族サセックス伯爵家。 その伯爵家を出奔し、ロンドンで楽譜店を営む嫡男一家が“ゴードン暴動”の最中に見舞われる惨事と、アメリカ独立戦争にイギリス陸軍士官として従軍した伯爵家次男のボストンでの体験が同時進行で物語られます。 これら各要素が終盤で一つに収斂されていく構成ですが、そこに想像を超える真相は見い出せないものの、予定調和な物語として存分に楽しめるプラスアルファの素地が光る作品でした。
貴族の腐敗、ブルジョア中産階級の台頭、貧困層の鬱積、自然科学思想や進歩思想の胎動・・ フランス革命が間近に迫るアメリカ独立戦争の最中にあり、植民地支配や産業革命の余波に揺さぶられる英国社会の、様々な光と影が投げかけられています。
特に転換期の世相を反映した階級の流動性や、逆に非流動的な目に見えない桎梏が浮き彫りにされるなど、各々の属性を与えられた登場人物のパーソナリティーに陰翳を刻む微妙な書き分けが達者。
“英国式犯罪解剖学”と副題にありますが、小難しい蘊蓄ものではなく、全体から漂うムードを総称したキャッチコピーなのでしょう。 言ってみれば科捜研や検視官ものの最初期バージョン的な立地にある作品であり、当時の医学や解剖学のレベルに準じて死体に残された殺人の痕跡を探る方法も読みどころではあるのですが、それ以前に、確証が得られない限り何も信じてはいけないことは不道徳な哲学者の警句であり、すべての人間が平等であるという思想は誤りであり、“町の外からやって来た行きずりのならず者の仕業”で一件落着してしまうような治安判事の捜査や王室財産管理官の審理がまかり通る時代にあって、自然科学の神に仕える“闇のしもべ”となり真実を究明しようとするイノベーチブな衝動が眩しかったです。 我らがクラウザー氏は、実在の外科医ジョン・ハンター博士の弟子という設定で、案の定ちょっとした変人扱い物件なんですけど、その辺のグロとユーモアの配分も巧いもんです。
プロローグ感たっぷりなシーンをエピローグに使うセンスが新鮮。 全てが終わったカタルシスの中で眺めるこのシーンには名状し難い痛みがあります。 ヒュー視点でのレイチェル観がおそらくここで初めて明かされていたと思う。 ヒューとレイチェルの悲恋の物語としてもう一つのプリズムが反射し、煌めいた心地がしました。


闇のしもべ 上
イモジェン ロバートスン
東京創元社 2012-09 (文庫)
関連作品いろいろ

| comments(0) | trackbacks(0) |
スポンサーサイト
| - | - |
C O M M E N T








トラックバック機能は終了しました。