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ダブル/ダブル / アンソロジー
[マイケル・リチャードソン 編] 20世紀に書かれた(アンデルセンの「影」だけ例外)西洋の現代小説の中から双子、分身、鏡像、影といった、“一人が二人で二人が一人”の物語を集めたアンソロジー。 錯綜し分裂する自我、混乱する視点、デジャヴのような二重感覚、選択されなかった可能性、アナグラムのような別の世界・・ “ダブル”モチーフとして括られていても、いや、括られているだけに、そのヴィジョンの多様性に目を奪われてしまいました。
地域を問わず神話の時代から人の営みとともにあったテーマですが、“私”というものに対する意識の昂まりを投影した19世紀文学において、“ドッペルゲンガー”モチーフとして妍を競うように花開いたと言います。 アイデンティティの探求というテーマが深化されていく20世紀文学では、ドッペルゲンガーに代わり、或いはその捉え直しとして“影”の概念が頻出するようになると編者は指摘します。 自己を見つめようとすればするほど自己への違和が見えてしまうのは必然かもしれない。 コスミックな枠に収まりきれず無形化していく現実が、形而上学的な色合いを帯びて濃さを増し、それこそ“影”のように揺らめいている・・ ここに採られた作品からもそんなオーラが漂うような。
なにかしら自己の他者性、二重性という主題への関心を窺わせる作家が並んでいるとも言えそうです。 編者によるちょっとしたナビゲートが短篇ごとに添えられていて(また、そこまできちんと訳出してくださっているのが)喜ばしい。 錚々たる面々の隠れた佳篇的セレクトである本アンソロジーを編む上で霊感の源になったという古典の名作で編んだ架空の書物をドッペルゲンガーと称し、装丁、表紙、題辞、目次・・と頭の中で拵えていく編者の空想が楽しい。 因みにその目次は以下の通り。
分身 / E・T・A・ホフマン
オルラ / ギル・ド・モーパッサン
ウィリアム・ウィルソン / エドガー・アラン・ポー
加賀美氏の生活 / ナサニエル・ホーソーン
並外れた双子 / マーク・トウェイン
大法律家の鏡 / G・K・チェスタトン
書記バートルビー / ハーマン・メルヴィル
秘密の共有者 / ジョゼフ・コンラッド
拾い子 / ハインリッヒ・フォン・クライスト
懐かしの街角 / ヘンリー・ジェイムズ
泣く子も黙りそうなマスタービーズ感です。 しかし、無残にも殆ど読んでおりません。 せめて陳列して飾っとこうかと;;;
さて。 本編にもハズレは一篇たりとてないのですが、特にお気に入りをいくつか。 生と死の、光と影の対比を抒情豊かに刻印した「華麗優美な船」が好き過ぎる。 進化のプロセスの分岐点というものに想いを馳せずにいられない、あの郷愁を揺さぶるイマジネーションにやられてしまった。 現実とは見るものの中にしか存在しないのだということを悪魔的に見せられて震撼した「あんたはあたしじゃない」も好み。 ゴーゴリ的手法を用いてゴーゴリの奇異性に迫った「ゴーゴリの妻」は、グロテスクな誇張法による変種の評伝かと見紛うばかりの押し出しが圧巻。 自分から真に逃れる方法を“抹殺”ではなく“複製”に求めた男を描く「ダミー」は、とぼけた味の中に薄ら寒いものがあって妙に惹かれる。 双子の母親は娘なのか母親なのか? 青い目の男(=私)はマラカイの父親でもあったのか? 魔術的な眩暈を誘う「双子」も凄くよかった。 人の魂と不気味に結びつく物語が多い中で、人生に安心を見出す契機として“有用なやり方”で分身モチーフを調理している「二重生活」は貴重な一篇。 そして縁あって再読となった「パウリーナの思い出に」はエレガントで悍ましくて素晴らしい。 精緻な美しさに改めて魅せられた。

収録作品
かれとかれ / ジョージ・D・ペインター(共同訳)
影 / ハンス・クリスチャン・アンデルセン(菅原克也 訳)
分身 / ルース・レンデル(菅原克也 訳)
ゴーゴリの妻 / トンマーゾ・ランドルフィ(柴田元幸 訳)
陳情書 / ジョン・バース(柴田元幸 訳)
あんたはあたしじゃない / ポール・ボウルズ(柴田元幸 訳)
被告側の言い分 / グレアム・グリーン(菅原克也 訳)
ダミー / スーザン・ソンタグ(柴田元幸 訳)
華麗優美な船 / ブライアン・W・オールディス(菅原克也 訳)
二重生活 / アルベルト・モラヴィア(菅原克也 訳)
双子 / エリック・マコーマック(柴田元幸 訳)
あっちの方では / フリオ・コルタサル(柴田元幸 訳)
二人で一人 / アルジャーノン・ブラックウッド(柴田元幸 訳)
パウリーナの思い出に / アドルフォ・ビオイ=カサーレス(菅原克也 訳)


ダブル/ダブル
アンソロジー
白水社 1994-09 (新書)
関連作品いろいろ
★★★
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