領主館の花嫁たち / クリスチアナ・ブランド
[猪俣美江子 訳] 本邦初訳なのかな? たぶん。 児童書も手がけたらしいのだけど、ブランドというと毒のある犀利なミステリってイメージしか持ってなくて。 しかも前知識なしで読んだから、あんぐりという感じだった。 紛うことなきノン・ミステリ。 幽霊譚と双子奇譚を絡ませたクラシカルなゴシック・ロマン。 「嵐が丘」や「ジェーン・エア」や「高慢と偏見」辺りの正統派少女小説と、脈々たる系譜を持つイギリス怪奇小説の香気を漂わせつつ、細部の辻褄はかなり強引というか、大時代的な様式性に徹した趣き。 愛に破れた者が手にする憎しみと、それを断ち切り浄化する甘美な自己犠牲・・といった由緒正しいドラマチックな運命悲劇的テーマが踏襲され、亡霊も亡霊とは思えないほど“人間”として描かれていたりするのだけど、ひんやりとした優雅さや入れ替えモチーフなど、随所にブランドの面目は躍如していたと思う。 最後の長篇、そう思って味わうことに意義がありそう。
1840年、ヴィクトリア朝初期の荘園屋敷が舞台。 ウェールズ北部に広大な領地を有する高貴な一族に、かつてエリザベス一世の御代、とある呪いがかけられ、末代までの祟りが宣告された。 一族子々孫々・・未来永劫・・もう二度と・・
低い丘の谷間に佇立し、餌食をその壁の中に囲い込む古い屋敷。 亡霊たちの冷たい手が、暗黒の闇へと、悪意の深みへと手招きしている陰鬱なマナーハウスに、一人の若い女家庭教師がやってくるところから物語は動き始めます。
聡明で薄幸そうな(そして何かいわくありげな)ガヴァネス、無邪気でこの上なく愛らしい双子姉妹(母親を亡くしたばかり)、上の空の父親(Sirの称号を持つ紳士)、屋敷を牛耳る意地悪な小母様、変わり者で謎多き領地の管理人(離れた小屋に一人で住んでいる)など、もうこれだけでご飯三杯いけそうな黄金設定。
設定だけじゃない。 幽霊を隠れ蓑にした推理ものでも、双子を素材としたアイデンティティにまつわる心理サスペンスでもなく、愛をめぐって沸き立つ感情の大仰な振り幅や、“受け継がれる呪い、降りかかる悲劇”を地でいく中世色濃厚なストーリーが、混じり気なしのゴシック感を掻き鳴らしています。 クライマックスなんてオペラの舞台でも観てるみたいな(観たことないけど)気分になったし、それと、やはりジュブナイル・レーベルな印象はあったかな。 どうだろう・・
小さな差でしかなかったのが、成長とともに助長され、増幅されていく双子の個性。 良からぬ方向へ導き伸ばすことに加担してしまう何気ない振る舞いの積み重ねは、それがほとんど無自覚であるがゆえに根が深い。 亡霊たちの冷たい手、その不吉な力を遠い破滅へと繋がりかねない悪しき習慣のメタファーと読むならば、子育てへの警鐘のようなものを孕んでいたのではないかと、大人として読むと、実際その部分が一番こたえた。
お屋敷の外観や内装や調度、令夫人の服装、社交の慣例、使用人の実情といった文化風俗のあれこれや田園地帯の自然美など、物語を支える美術が熟達していて、伝統的英国のパノラマにどっぷりと身を浸すことができます。 19世紀半ばにおける田舎の上流社会の諸相を詳らかに写し撮った質の高い時代小説の印象も強いです。
にしても、お屋敷ものを読んでると、“なぜかドアの前でばったり会う”というシチュエーションが(ほとんど慣用表現のように)出てきて笑える。 英国文芸における一つのお約束ネタなのかな^^


領主館の花嫁たち
クリスチアナ ブランド
東京創元社 2014-01 (単行本)
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