クリスマス・キャロル / チャールズ・ディケンズ
[池央耿 訳] 1843年の発表以来、今日まで連綿と読み継がれ、愛されてきた名作。 古き佳きクリスマス精神を讃えた中篇です。 古典新訳文庫から出てるのを見かけて思わず手にとってしまいました。 懐かしい。 昔読んだのは新潮文庫版の村岡花子訳でした。 訳者さんが変わると雰囲気ずいぶん違くなるね。 村岡訳は柔靭で味わい豊かな感じ。 池訳はクールで硬質な感じ。
“イギリスのクリスマスを創始した男”の異名を持つといわれるくらい“クリスマス精神”の大切さを説くことにエネルギーを費やしたディケンズを象徴する作品。 ヒューマニズム、運命への反抗が躍動しています。 そして、経巡る時空にイギリス庶民のクリスマス風俗が凝縮しているかのようでした。
ラスト、偏屈老人のスクルージがサンタクロースに大変身するところが、これぞクリスマス・ストーリ! みたいで粋なんだよねー! と、上澄みを掬いとるようにイヴの奇跡ものとして読んでもいいし、凝視して紐解けば、精霊とは内部に宿る声の隠喩であり、魔法の力を借りて悪人が善人に生まれ変わったのではなく、自己と向き合う作業を乗り越え、封印してきた心を開放したのだということがきっちり描かれてもいる。 その点を踏まえたプロット展開や場面描写が本当に緻密で巧みなのですね。 改めて気づかされました。
過ぎ去ったクリスマスの精霊は、神話伝説に出てくる小人のような姿、現在のクリスマスの精霊は、魔法の松明で香油をふりかけ祝福を与える巨人、未だ見ぬクリスマスの精霊は、黒衣に頭巾姿の口を閉ざした影法師・・ スクルージを導く精霊たちのフォルムがお気に入りなのだ。
一番強く印象に残っているのは、現在のクリスマスの精霊と別れる場面。

<後日付記>
産業革命によって昔ながらの生活体系が失われたこの時代、クリスマスを祝う風習は衰えていたそうですが、かつての清教徒革命の名残りも手伝って、想像以上に(特に都会では)顧みられなくなっていたみたいなのです。
クリスマスの買い物で沸きかえる町の賑わいや、クラチット家のまさにクリスマス仕様な団欒風景などは、ディケンズが当時の状況を克明に写し取った・・のではなく、こうあって欲しい! という願いを込めて描いた言わばモデルケースが巷で歓迎され、流行し定着したという方が言い得ているらしい・・と、岩波愛蔵版の脇明子さんの解説を読んで知りました。 ディケンズが廃れていたクリスマスの風習を復興させた功労者と言われるのは、ほんと文字通りの意味でもあったんですねー。 当然ですがアイテムや様式だけではありません。 ディケンズの一番の功績は、貧富の差を越えて喜びを分かち合う古き佳きクリスマス精神そのものの復活にあり、この考え方は、クリスマスが宗教を越えて広く受容されていくことと無縁ではないかもしれないと示唆されていました。


クリスマス・キャロル
チャールズ ディケンズ
光文社 2006-11 (文庫)
関連作品いろいろ
★★
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