絵のない絵本 / ハンス・クリスチャン・アンデルセン
[矢崎源九郎 訳] グリム兄弟が研究者なら、アンデルセンは詩人なんですね、本質は。 “旅することは生きること”と語り、生涯旅を愛したアンデルセンの体験と夢想が豊かに実を結んだロマン溢れる散文詩のような掌篇集です。
都会の片隅で孤独に暮らす若い絵描きの屋根裏部屋の窓辺を、折りに触れ月が訪い、光を滑らせながら見つめてきた世界各地の人々の息遣いをそっと語っていくひと時。 三十三夜のアラベスク。 さぁ、わたしの話すことを絵におかきなさい、と。
この小品は“物語”であると同時に“絵”でもあるのでしょう。 詩人にではなく絵描きに語った月。 絵描きのスケッチから迸る詩美性が結晶化したかのような言葉の世界。 “絵のない絵本”というタイトルが不思議な眩惑をもたらし、映像美溢れる此処ではない小宇宙へ一気に誘ってくれます。 イギリスの批評家が“胡桃の殻の中のイリアッド”と評したといいますが、何かとても感じ入るものがあります。
子供や動物に向ける眼差しの温かさ、諧謔やユーモア、ほろ苦い哀調、歴史を刻んだ町、遠い異国の風土、荒々しい自然、人の営みのささやかな数刻・・ 月明かりのキスはイマジネーションのギフト。 ピリオドの先の情景までも読み手の心にしんと刻んでいくのです。


絵のない絵本
ハンス クリスチャン アンデルセン
新潮社 1952-08 (文庫)
関連作品いろいろ
★★★★
| comments(0) | trackbacks(0) |
C O M M E N T








http://favorite-book.jugem.jp/trackback/967