法月綸太郎の本格ミステリ・アンソロジー / アンソロジー
[法月綸太郎 編] マニアには物足りないかも・・と仰ってますが、拡張型本格とでもいうべきジャンルの可能性を感じさせてくれるような・・ 本格コードに収まらないエスプリの効いた作品が多く、らしさが匂い立つセレクト。 雑食気味のわたしとしては大いに堪能させてもらいました。 自分の趣味を優先しつつ、意外に見落とされがちな短篇に光を当てることにも力を入れたとのこと。 総じて“語り=騙り”を機軸に据える本格観がそこはかとなく示されていた印象。
軽い肩ならし→密室トリック→犯人当て→異色風味と、テーマの異なる四つの章で構成されています。 辻真先さんの「仮題・中学殺人事件」の章立てに倣ってコンセプトを絞ったのだそうです。 手元の文庫新版を点検してみたら“おわかれしま章”がないので旧版を再読してみたくなってしまった。 関係ないけど;; 章間には“栞”と題された箸休めエッセイが三たび挟まれており、ハードボイルド風本格、密室短篇、海外クラシック・ベスト20、と、それぞれのテーマに沿ったオマケの作品紹介も楽しめます。
一つの方向へ釘付けにされた意識が、蓋然性と意外性を備えた全く別の発想の導入によって覆されるときの、爽快なまでの心地よい敗北感は、本格ミステリを読む醍醐味でありましょう。 法月さんが「はかりごと」を“本格スピリットの萌芽”と捉えた感覚に膝を打ちたくなった。 これがいわゆる“意表をつく着想” と“エレガントな解法”の端的な例なのかなと思わされる。
一番好きなのは「死とコンパス」。 本格ミステリのパロディなのだけど、無意味な対称と偏執狂的な反復を寄せ集めた館で××××る探偵というシンボリックな世界観が圧巻で、彼が、“個人的感情から離れた、ほとんど誰のものでもない悲哀を感じ”るところで痺れまくった。 後期クイーン問題を予言するようだ・・と解説されていて、自分は未だクイーンの後期作品を読んでないんですが、その何たるかの尻尾を掴んだ気になりました。 探偵(小説)が抱えるジレンマを物語に昇華し、優れた批評を内在させた作品。 この最終話と対をなすように配置されているトップバッターの「ミスター・ビッグ」も、(またちょっと違う意味で)本格(というよりハードボイルド)ミステリを形而上学的にアレンジしたパロディ。 高尚な哲学フィールドを弄り倒さんばかりのアイロニーが炸裂するバカバカしくも辛辣な一篇。
「偽患者の経歴」もよかった。 ノンフィクション・エッセイということなのだが、上質なサイコ・スリラーとしか思えない・・不謹慎かもしれないけど。 何が真で何が偽なのか? ラストの煙幕がまた素晴らしい。
「動機」は、乱歩が紹介したというお墨付きの超有名作らしいですね。 案の定、全く知らず。 もう、タイトルそのままなんだけど、自分の中のノックスイメージを補完してくれるような拗れた作品。 これは記憶に残るわぁ。 あと、個人的には「密室 もうひとつのフェントン・ワース・ミステリー」がツボ。 稚気満々の密室ものパロディ。 しかし、ニヤニヤしながら読んでるとラストのメタ展開に撹乱され、いなされてしまう。 ん? え? 作者が小説内人物にこの小説を読ませてる・・のか??
常々読みたいと思っていた作家、クリスピンが入っていたのも嬉しかったです。 「誰がベイカーを殺したか?」はシリーズ探偵のジャーヴァス・フェン教授もの。 なぞなぞ感覚の引っ掛け問題で、“話し方自体が重要”なことと、“不適切な疑問の一例”であるという親切なヒントが与えられるため、難易度はそれほどでもないのだけど、きちんと張った伏線を理詰めで回収していく解法が鮮やかな佳篇。 英国のインテリ層が醸し出す雰囲気も美味。
中西智明さんに幻の短篇があったなんて知りませんでした。 「ひとりじゃ死ねない」は、読者への騙しと作中での謎解きが乖離しながら両立している技巧の美しさに惹かれる。 作品に関するコメント(というか注釈というか言い訳というか)が中西さんご本人から寄せられるというファンサービスも。 詭弁?なのかどうかもわからないくらい易々と説得されてしまった。 もしかして完璧主義者? ふふ。 戻ってきて欲しいな。

収録作品
ミスター・ビッグ / ウディ・アレン(伊藤典夫 訳)
はかりごと / 小泉八雲(田代三千稔 訳)
動機 / ロナルド・A・ノックス(深町眞理子 訳)
消えた美人スター / C・デイリー・キング(名和立行 訳)
密室 もうひとつのフェントン・ワース・ミステリー / ジョン・スラデック(越智道雄 訳)
白い殉教者 / 西村京太郎
ニック・ザ・ナイフ / エラリー・クイーン(黒田昌一 編訳)
誰がベイカーを殺したか? / エドマンド・クリスピン & ジェフリー・ブッシュ(望月和彦 訳)
ひとりじゃ死ねない / 中西智明
脱出経路 / レジナルド・ヒル(秋津知子 訳)
偽患者の経歴 / 大平健
死とコンパス / ホルヘ・ルイス・ボルヘス(牛島信明 訳)


法月綸太郎の本格ミステリ・アンソロジー
アンソロジー
角川書店 2005-10 (文庫)
関連作品いろいろ
★★
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