モダンガール大図鑑 / 生田誠
[副題:大正・昭和のおしゃれ女子] 大正末期から昭和初期にかけて流通した絵葉書や絵封筒、雑誌、パンフレット、広告チラシ、ポスター、マッチ箱、流行歌の楽譜、写真などから、往年のモダンガール像を探ることを試みた解説付きの図版集。 服装や髪型や定番アイテム、職業、娯楽、スポットなど、様々な角度から鑑賞できるよう、分類、陳列されています。 1925年(大正14)のパリ万博の影響でアール・デコ調にすっぽりと覆われつつも、大正ロマネスクの余香を残したこの時代のモード、いわゆる“昭和レトロモダン”にはえもいわれぬ空気感がありますねぇ。 因みに表紙はサッポロ・アサヒビールが作った絵葉書の代表的な一枚。 日本酒メーカーは和装、ビールメーカーは洋装の女性をポスターや広告に挙って描いたそうです。
近代日本の新風を一身に浴びてモダン都市を闊歩した、短い華やかな一時代の寵児だった“モダンガール”。 大震災から復興した新しい都市の象徴的存在だったというのがまず基調にあって、そこに洋の東西を問わず大衆文化が花開いた大戦間の気風に乗じて西洋の文化芸術が滔々と流入し、更には機械文明の進歩による大規模な消費文化の台頭や、幅広い労働力を求める多様性のニーズに後押しされて・・といったような、モダンガールが一躍モダン都市文化の広告塔へと躍り出た背景を、数々の図版は物語るかのようでした。
著者が収集と研究の対象にしているという絵葉書の図版がやはり最も充実していて、特に多く紹介されているのが資生堂の「現代化粧百態絵端書」。 販売店や顧客のための宣伝用絵葉書として作ったシリーズらしいのだけど、今となっては当時のモダンガール風俗を知る貴重な資料にもなっているんですね。 画家や写真家がお洒落デザインを競ったという三越百貨店のPR誌「三越」の表紙のセンスも光ります。 逆に、有名画家や図案家のパクリなんかもやらかしながらキッチュな賑やかしに満ち満ちていた怪しげなマッチ広告などは、ナイトシーンを彩る闇の花のようです。 当時流行りのエロ・グロ・ナンセンスの息吹きでしょうか。 アール・デコっていう形態は、上品さもアングラ感も分け隔てなく呑み込んでしまう驚異の親和性があります。
浅草〜上野間に日本初の地下鉄が開通したのが昭和2年。 この時のポスター「東京唯一の地下鉄道」を描いたのが杉浦非水で、この一枚だけは見たことがありました。 極端な遠近法を使ったデザイン性の高い洗練された作品です。 モダンガールの描き手としては、大正ロマンの血を引く高畠華宵、蕗谷虹児らの叙情画家や、そこへ西洋のエスプリを吹き込んだ東郷青児らの本職画家系と、今でいうデザイナー的な位置づけにあった小林かいち、高橋春佳ら図案家や、斎藤佳三といった統合芸術家系、また、名前も残さなかった夥しい無名の作家たちが加わり、妍を競うような饗宴を繰り広げています。
ちょっとなおざりタッチの細い線画でとろんと虚ろな瞳が印象深い須山ひろし、デスォルメされた構図が冴え冴えとクールなSIN、美人美人してないところに味がある鈴木寿雄、モダンとメルヘンが綯い交ざったような伊藤としを・・ 無名に近い(?)ながらも作者不明ではない作品も多く紹介されています。 ただ、惜しいことに全てがカラー刷りではないんですよね。 特に和装のモガと画家の描いたモガのセクションが2色刷りだったのは残念至極。 その分、お手ごろといっていいお値段ではあるかと思うのですけども。
男性から自立し、職業に就き、古い因習を飛び出して自由を謳歌する“近代的で新しいタイプの女性”の総称がモダンガールであり、そこには光と影のイメージが乱反射しています。 男性の銀ブラに同伴サービスする“ステッキガール”なる職種が出現するのは時代ならではですね。 しかも女性たちはこの名称を気に入らず、“ガイドガール”と自称していたというから面白い。 昭和4年は兎の襟巻、翌5年は狐の襟巻が流行したそうで、絵を見るだけで描かれた年がわかるらしい。
大宅壮一は昭和5年に刊行した自著「モダン層とモダン相」の中で、“化粧は恐ろしく念入りで、どういう過程を経て、あんなにまで微に入り細にわたってやれるものか、私には見当が付かぬ”と、モガの化粧熱について語っていて、こういう生態は今も昔も変わらないよなぁとニヤッとなります。 耳たぶにも紅をさすのが定番だったらしい。 イヤリングは普及してなかったんですかね。 猫がアール・ヌーヴォー芸術を象徴する動物であったなら、アール・デコのシンボルとなったのは犬だったという点にも興味をそそられました。 愛犬とモガのショットも盛んに素材とされていたようです。


モダンガール大図鑑
 −大正・昭和のおしゃれ女子−

生田 誠
河出書房新社 2012-11 (単行本)
関連作品いろいろ
★★
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