中国民話集 / 飯倉照平 編訳
中国の諸民族のうち、人口の90%以上を占める漢民族によって語り伝えられる民話から、四十四篇が訳出されています。 口碑伝承を直に採集したような素朴なおとぎ調の昔話系。 有名どころと、あとは特に日本や朝鮮との比較研究の視点で集められているためもあるのでしょうけど、馴染み深く、懐かしく、日本の昔話の祖型として思いを馳せたくなる空気が詰まっていました。
「トントン、カッタン、サラサラ」と「ヌングアマ」と「蛇の婿どの」は、中国で最も広く知られる子供向けの三大昔話であるらしく、どれも直接知らなかったとはいえ既視感が湧きますねぇ。 “話型”の組み合わせからあちこち無限に連想が及んでいく途方のなさは、民話や昔話ならではの醍醐味。
正直者の真似をした強欲者が痛い目に遭う“瘤取り爺”型を踏襲する話が多かった気が。 「小さなドラ」は、そこに「ジャックと豆の木」や「打ち出の小槌」要素がミックスした感じなんだけど、強欲サイド(兄と兄嫁)が妙に淡々としていて、結末もシュールでいい味出てます。 好き。 この話に出てくる“長い鼻”のモチーフは、中国ではわりに有名らしいのだけど、日本ではあまり聞かない?!
定番の異種結婚譚もいろいろと。 そしてその悉くがビターエンドなのが切ない。 まぁ、日本もそうなんだけど。 日本の「田螺の息子」は(例外的に?)ハッピーエンドだったなぁーと、ふと思ったのだが、その中国版とも言えそうな「蛙の息子」の蛙は神仙の領域に還って行ってしまいます。 当然ながらさまざまなサブタイプがあり、成長した蛙が武勲をあげて王女と結ばれるなんていう展開(国王と蛙が入れ替わる借着譚型)もあるらしい。 「蛇の婿どの」も蛇に嫁いだ末の妹は幸せになれないばかりか、蛇を横取りしようとする姉に繰り返し殺される(このあたりは「花咲爺」風です)痛ましさが際立つ話なのだけど、そこは最も有名な昔話の一つとあって、ハッピーエンド版もたくさんあるという。 まぁ、おそらくは子供向けに改変されたんだろうなって気はするけど。
本編に採られている牽牛織女伝説「天の川の岸辺」は、羽衣伝説と融合したタイプの、やはり異種結婚譚で、織女は牽牛が嫌で嫌で仕方ないヴァージョン。 天帝は離婚の調停役といった感じだし、年に一度会うにしても牽牛が一年間使った食器(わざわざ洗わずに溜めている!)を一晩かけて洗わなくてはならない織女なんて・・こんなん初めて知ったよ^^;
そうかというと「長靴をはいた猫」と「花咲爺」がミックスしたような「犬が畑を耕す」のラストはこんなオチでいいのか心配になるくらいお下劣でバカバカしいのだ。 これは笑話の一種なんだろうね。 “犬が畑を耕す”というのは中国特異のモチーフなのだそうで、犬が穀物をもたらしたとする古伝承と無縁ではないらしい。 この話や「蛇の婿どの」をはじめ、三人(二人も含む)兄弟や姉妹が登場する話はどれも末っ子良い子の法則が成り立っているものの、「トントン、カッタン、サラサラ」だけは逆で珍しいなと思った。 あと、西洋ではカササギというと不吉な鳥のイメージだけど、中国では(日本もそう?)逆に人の訪れを告げる吉祥の鳥なんだね。 “喜鵲”と呼ばれるらしい。
日本の「猿蟹合戦」は、前半部が「毛蟹の由来」、後半部が「ヌングアマ」だねこれ。 柿じゃなくて桃なのが中国らしい。 「毛蟹の由来」の他にも起源譚が沢山あって面白かったな。 中国の狛犬(じゃなくて獅子だけど)が片方だけ石の玉をくわえている訳を何気に説明しているのは「魚売りと仙人」。 「人を食う蚊」では蚊の起源が、「猿にさらわれた娘」では猿の尻尾はなぜ短いか(或いは猿の尻はなぜ赤いか) が、「かまどの神の由来」では竃神のダメダメ神様縁起が・・と枚挙にいとまなく紐解かれています。
“底に沈んだ臼から塩が無限に出続けているので海の水は塩辛い”という起源譚は、同じ話を日本の昔話として読んだこともあるし、北欧(だったかな)の昔話として読んだこともあって、ずっとモヤモヤしていたのだけど霧が晴れた気がする。 中国には“塩吹き臼”の類話がほぼ見当たらないらしく、本編収録の「海の水が塩からいわけ」は台湾の民話であり、これはむしろ統治期に日本から伝播している可能性を考慮した方がよいのではないかと。 そして日本においても古くからの伝承とは捉え難く、明治以後に入ってきたヨーロッパの話の翻案が定着したとする説が妥当なのではないかと。 なるほどーと思った。
気になっているのは小鳥前生譚の一つ「トンビになった目連の母親」。 この母子にはお盆行事の由来にまつわる有名な伝説があるけれど、こんなにも強烈なお母さんだったなんて! ちらっと紹介されていた「大根」の目連尊者も不憫すぎる・・orz でもお母さんには妙に惹きつけられるものがあったりして^^; 目連救母の伝承を集めた本とかあったら読んでみたいw
それと「十人兄弟」がお気に入り。 民話の中で秦の始皇帝は悪玉に仕立てられる場合が多いらしいのだけど、その流れを汲む話。 話型が備えたオチと始皇帝にまつわる“孟姜女”の逸話とを巧みに融合させたなんとも豪快な話。 甲賀三郎伝説の中国版といった趣きの「雲から落ちた刺繍靴」には話型やモチーフがわんさか散りばめられていて楽しかった。 まるで中華ファンタジーの原石みたい。
恩返しされてつけあがる者や、仲良し同士が一方の裏切りで仲違いするパターンや、“忘恩の狼”ものまであって、非人情で残酷だったり、善人が間抜けとして語られたりする世知辛い話も目立つ中で、仏教説話風の「幸せをさがしに」に心洗われ、癒されてしまった。 「手品師の娘との恋」も好き。 からりと陽気なピカレスク・メルヘン風でとってもチャーミング。
日本の「炭焼長者」型の話を、月の模様モチーフと結びつけて語っているのが「生まれつきの運」。 日本では餅をついている月の兎が、中国では薬をこねているのだとは聞いたことがあったのだけど、月には丹桂(薬の木)が生えているという言い伝えもあるのだよね。 治水事業の痕跡を感じさせる「“年”という獣」は、 水害に勝利した(或いは勝利したいと祈った)遠い昔の人々の思いに引き寄せられる心地がした。
日本の「腰折雀」に当たる「小鳥の恩返し」、「古屋の漏り」に当たる「“漏る”がこわい」、「犬と猫と指輪」に当たる「仲たがいした犬と猫」、「絵姿女房」に当たる「羽根の衣を着た男」、「俵薬師」に当たる「エンマ様をぶち殺した農夫」など、ほとんど直接に対応している話も少なくないです。 「十二支の由来」もその一つ。 運動会風は日本ヴァージョンなのかな? “猫とネズミ”は一緒。 “ネズミと牛”は日本ヴァージョンが健闘してる。 “雄鶏と竜(とムカデ)”のテーマは知らなかった。 解説によると竜王と鶏身をした雷神との葛藤を反映しているのだとか。へぇ。
“竜宮に引き止められて暮らす”とか、“義兄弟の契りを結ぶ”とか、“みすぼらしい身なりをした物乞い老人が実は仙人”とか・・それとやはり虎が登場すると中国らしさが倍増しますね。 弱虫な虎やおバカな虎など、案外とコミカルに描かれる中、「木こりと虎」は伝説として見栄えのする報恩の虎のかっこいい話。 この民話が採集された湖北省における虎への信仰の深さとの関係が指摘されていました。 パンダ出てこないねパンダ!
中国内の地域性に根ざした類話の数々、漢民族以外の少数民族をはじめ、朝鮮や日本のみならず、モンゴルやインド、グリム辺りまでも含めてのモチーフの異同は非常に興味深く、その分岐点や交差点を探る巻末付載の「比較のための注」が参考になりました。


中国民話集
飯倉 照平 編訳
岩波書店 1993-09 (文庫)
関連作品いろいろ
★★★
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