怪しい店 / 有栖川有栖
“店”を主題にした5作を収める作家アリスシリーズの短篇集。 “宿”にまつわる短篇を集めた「暗い宿」の姉妹編といった位置づけで、タイトルもシンメトリックですね。 腹案は十年も前から温めていたらしい。 荒俣宏さん編纂のアンソロジー「魔法のお店」に触発され、“店”の魅力や怖さを本格ミステリの枠内で書いてみようと試みた、とのこと。 有栖川さんご本人がおっしゃる通り、“商品やサービスを介して人間と人間が交わる場面で生まれるドラマ”を主体としているので、ミステリアスという意味での“怪しい”雰囲気はそんなに強くなかったものの、日常の中にふとした異空間を生じさせる“店”の持つわくわく感やざわめきが、ホットに描きとめられていた印象。
「古物の魔」は、あまり繁盛していない商店街の骨董屋で起こった店主殺害事件。 人称と視点の使い方が巧妙。 一瞬トリッキーに感じるんだけど、読み返すとちゃんと理に適っている。 犯行時刻の偽装がアリバイづくりとは無関係に企てられていて、その理由の特異性がミソ。 まさにタイトルを物語っているかのよう。
「ショーウィンドウを砕く」は芸能プロダクションの社長が完全犯罪に挑む倒叙もの。 短篇で時々書いてくれるこのスタイル、結構好きなのです。 火村&アリスを他視点から眺められて。 初対面時の犯人曰く、火村先生は“勝負師を連想させる”そうで、アリスは“人畜無害”とな。 合ってるし^^ それだけに、犯人がラストで示す火村評には波紋を投げかけられるしゾクッとなる。 “店”が唯一、実際の舞台ではないモチーフとして扱われており、やや観念的な意味合いを帯びてもいて、人の心とサイコパスの交差点を探るようなそこはかとないシリアスさが感じられる。 証拠をひねり出すロジックと、そのプロセスが光りました。
表題作の「怪しい店」は、繁華街から大きく外れた裏路地に粗末な看板を掲げる謎の店“みみや”で、風変わりな商売を営んでいた女性が殺害される事件。 趣向の見せ場はあるのだけど、基本は“射程の長い憶測が的中する”といったパターンなので、決定的な証拠ドーン!じゃない分、前述2作より見劣りする気がしないでもないかなぁ。
3篇の幕間を成すように挟まれた「燈火堂の奇禍」と「潮騒理髪店」の2篇は、ほとんどハートフルな日常の謎系。 辻褄合わせゲームを楽しむことに特化したタイプの気の利いた小品。 「燈火堂の奇禍」は、大家の婆ちゃんの誕生日を祝いに火村先生の下宿を訪ねる途中、ふらっと入った白川通の古本屋で、臨時店員と常連客からアリスが仕入れた古本万引事件の謎。 「潮騒理髪店」は、調査旅行で出向いた日本海沿いの小さな町で、ローカル線の待ち時間を潰すため、ノスタルジックな地元の理髪店の一見客となった火村先生に、店主が語ったとある女性の行動。 その真相がどちらも火村&アリスのなごなご安楽椅子モードで回想され、紐解かれるところに萌え要素あり。
筆がはかどらず、散髪に行こうと思い立ったところで、“理髪店が舞台のミステリ”へと連想を遊ばせたアリスが、脳内トリビアを列挙してくれるくだりや、火村&アリスや登場人物が披露するちょっとした商売哲学や“店”の美学談義、隠れ家的な喫茶店でのアリス&コマチ刑事チームの反省会あたり、プラスアルファのお楽しみ・・かな。 因みに「燈火堂の奇禍」で万引された本は「乱鴉の島」に登場した孤高の象徴派詩人、海老原瞬の詩集『黒色僧徒』でした。


怪しい店
有栖川 有栖
KADOKAWA/角川書店 2014-10 (単行本)
関連作品いろいろ

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