変愛小説集 日本作家編 / アンソロジー
[岸本佐知子 編] “変な愛”を集めた翻訳アンソロジー「変愛小説集」の日本作家バージョンです。 変愛小説愛好界のカリスマである岸本佐知子さんが選者を務めた十二篇。 全てこの企画のために書き下ろされた作品らしい。
恋愛とは、その純粋な姿をつき詰めて描こうとすればするほど、グロテスクな、極端な、変てこなものになっていく・・ 変愛を集めてみたら“変愛=純愛”の図式が成立していることに気づいてしまった的な、確かそんなニュアンスだった翻訳アンソロジー。 今回、日本版の執筆依頼にあたっては、“愛について”というシンプルなテーマ以外、あえて何の注文もしなかったそうです。 しかしそこはやはり現代日本を代表する変愛小説の書き手として変愛通の選者が白羽の矢を立てた精鋭の競作となれば推して知るべし。 恋愛至上主義へのカウンター的意思表示ででもあるかのような一筋縄ではいかない妙篇揃い。
“愛”の範疇そのものが漠としていたためかもしれないのだけど、もんやりと複雑な気持ちを呼び覚まされはすれど、安易な共感を超越した境地に突入している作品が多く、どうにもわたしの中では、“純愛”という肌合いに直結しなかったのだよなぁ。 海外編の純愛度の方がより鮮烈に思えたのは、それだけすんなり感情移入ができたから・・なのか。 結局のところ恋愛とは人それぞれに帰着するものなのだ。 日本編を読んで一番感じたのはそんなこと。 人の恋愛なんてわからないのが当たり前なのだとすれば、ここにこそ逆説的に真の“純愛”が描かれていたかもしれないではないか、とも思うのだ。
大丈夫。真弓は清らかだよ。きっと、真弓も、お母さんも、友達も、三人とも清らかなんだ。だから他の人の清潔な世界を受け入れることができないんだ。それだけだよ。
「トリプル」の作中の言葉は、この本を読むわたし自身に跳ね返るものがあったかもしれない。 心に留めておきたい、おかねばと感じた言葉。
まぁそれでも、馴染みのある作家さんはそれぞれに“らしいなぁ〜”と思いながら読みました。 これダメでしょ、ってくらいぶっ飛んでたのが「天使たちの野合」で、告白すると一番好き。 アイロニカルな視点で見下ろされる矮小な男どもに、作者の私刑が炸裂するラストの突き抜け方が気持ちいいほどバカバカしくて。 そして「韋駄天どこまでも」の超絶技巧に痺れた。 この縛りの中で、何たる闊達自在な筆さばきだろう。 言葉遊びをふんだんにしでかしてる小説が海外にはざらにあるわけですが、訳者さんがどんなにご苦労くださっても完全には味わい尽くせてないんだよなぁーという常日頃の鬱積を帳消しにしてもらえた気分。 人の営みと文字そのものとが響き合う漢字の特質を活かし、漢字文化ならではの言語遊戯を駆動力にしたこんな稀有な小説が日本語の文章で書かれている喜び。 擬古風チックで独特な饒舌体が読者を圧伏する「逆毛のトメ」も気に入りました。 ファンキーでパンクなおとぎ話みたいだった。 初読みの作家さんでしたがマニアックな作品集を過去に一冊だけ出してるらしいので要チェック。
遠未来の神話世界的イメージが静謐で美しい「形見」は、唯一ストレートにキュンとくるものがあった。 なんとはない日常の中に潜む夫婦間の危うい均衡にズキッとなる「藁の夫」、ひんやりとしていながらフェティッシュで物狂おしい「男鹿」あたりにより強く嵌りましたが、特異な構築力とイマジネーションを満遍なく見せつけてくれる濃厚な一冊でした。

収録作品
形見 / 川上弘美
韋駄天どこまでも / 多和田葉子
藁の夫 / 本谷有希子
トリプル / 村田沙耶香
ほくろ毛 / 吉田知子
逆毛のトメ / 深堀骨
天使たちの野合 / 木下古栗
カウンターイルミネーション / 安藤桃子
梯子の上から世界は何度だって生まれ変わる / 吉田篤弘
男鹿 / 小池昌代
クエルボ / 星野智幸
ニューヨーク、ニューヨーク / 津島佑子


変愛小説集 日本作家編
アンソロジー
講談社 2014-09 (単行本)
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