ゴースト・ハント / H・R・ウェイクフィールド
[鈴木克昌 他訳] 1996年に国書刊行会から刊行された短篇集「赤い館」の増補版で、十八篇を集成した決定版というべき傑作選集。
M・R・ジェイムズ流のゴースト・ストーリー作法を受け継ぎ、その小説形態を現代的な一つの完成の域に高めた“最後の正統派英国怪奇作家”と位置づけられるウェイクフィールドですが、二十世紀半ばから後半には長らく“忘れられた作家”状態にあったといいます。 そのころから平井呈一氏は、“恐怖・怪奇の孤塁を敢然と守り続けている現代作家”と、高く評価し、繰り返し言及していたらしい。 まさに目利きの面目躍如ですね。 今なお玄人ファンやマニアに根強く愛されるのも宜なるかなと頷けてしまう神秘霊妙なる佳篇が揃っています。 名手が極めたシックでモダンな様式美の、咽せるような芳香とシルキーな肌触り。 視野の縁の暗い影が隠微に蠢くような・・ 薄霧のまといつく嫋嫋たるゴシック調の怪異と狂気のアトモスフィアを味わい尽くしました。
関わり合いにならない以外に決して避けられない災厄、得体の知れない“何か”に対する本能的な畏れ、魅入られずにはいられない魔性、汎神主義的概念、連綿と引き継がれた名付け難い恐怖の感覚・・ そんなエッセンスが濃縮されています。 人を不安に陥れる過去からの反響音を発し、余所者を疎外する不吉で謎めいた建物、山、谷、庭、湖、畑など、忌避される場としての“魔所”、特にチューダー朝様式やエリザベス朝様式、アン王女時代風やジョージ王朝風といった古い瀟洒な館に塗り込められ、秘められた暗澹たる邪悪な記憶を扱う幽霊屋敷ものが多数。
概ね発行年代順に並べられているとのこと。 ウェイクフィールドが実際に訪れたことがあるという邸で自らが遭遇した幽霊体験をもとに書き上げたという最初の小説「赤い館」が筆頭に配置されており、これが凄く好きでした。 反復し輻輳するイメージのコラージュ、その幻視的ヴィジョンの錯綜感には“本物”の怖さがあり、複眼的で分裂的で、恐怖も然ることながら極上の幻想小説といった香しさが一入。
「目隠し遊び」や「ゴースト・ハント」のエレガントな軽妙さは言うに及ばす、個人的にはチェスをモチーフにした「ポーナル教授の見損じ」や、演劇をモチーフにした「中心人物」の(やや毛色の違う?)ディープな熱病感も美味でしたねぇ。 「“彼の者現れて後去るべし”」や「暗黒の場所」は、悪霊退治的で日本風には陰陽師ストーリーを連想させるものがあるのですが、“鬼も人、人も鬼”的な概念は介在せず、破壊的な力をふるう幽霊(天国に行けずに彷徨う死者)は完膚なきまでに暗黒面に堕ちた悪魔であり、正邪の曖昧さがないのが古式ゆかしい西洋の幽霊観だなぁと、そんなことを思わされたり。 実体のない脅威なるものと生者との間に因果や抒情の余地がない(もしくは希薄)なのも日本の怪談と比較できる点ですね。
ウェイクフィールドは最後まで幽霊の存在を信じる者の立場から執筆を続け、“科学がゴースト・ストーリーの機能を奪い、陳腐なものにしてしまった”という決別の辞を残して筆を折ったといいます。 生前最後の短篇集からピックアップされている終盤の四、五篇は格別なものがありました。 鈴木克昌さんがあとがきで“ゴースト・ストーリーにかける老作家の情念の残り火のよう”と形容しておられる通り、科学の徒への昏い挑発を孕むような・・ 何かもう、万感の風情が漲り、密度の濃い読み応えでした。


ゴースト・ハント
H R ウェイクフィールド
東京創元社 2012-06 (文庫)
関連作品いろいろ
★★★
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