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夢魔の森 / 小沢章友
夢魔の森
小沢 章友
集英社 1997-10
(文庫)


裏表紙に、“耽美的な平安王朝幻想ロマン”とあったので、あれれ? わたしのための本かな〜と思って読んでみた。 解説で縄田一男さんが“平安ゴシック・ロマンの類い稀な成果といえるだろう”とおっしゃっていたが、そうそう、これはまさしくゴシック・ロマンの匂い。
陰陽師の鬼退治ものだ。 土御門一族の哀しみと主人公典明の苦悩がメランコリックに描かれている。 テーマやストーリーはオーソドックス。 感情移入し易いし、展開はダイナミックだし、耽美といってもこってり系ではないので、普通にグイグイいけると思うし、読後の消化不良もないタイプの作品なので、ヒーローものを読む気軽さで手に取っていいんじゃないかと思う。 この後、典明の子孫へと主役をバトンタッチしながら土御門一族の物語がサーガの様相を呈して続いていくようである。 読んでみようかなぁ〜とも思う。
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新諸国奇談 / 阿刀田高
新諸国奇談
阿刀田 高
講談社 1999-05
(文庫)
★★

世界各地の伝承や民話をもとにした幻想譚12篇。 わたしが知っていたのは、シチリア島のオデュッセイアの伝説のみだった(汗) もとのお話を知ってたらもっと味わい深く読めたんだろうなぁ〜と思うと、なんだか勿体無い気がする。 後になって、あぁ〜あの時の・・ってこともあるかもしれないのでメモしておこうかな・・と思うが、ストーリーの中のどの部分が伝承・民話から引用されているのか定かでないので、かなり阿呆なメモ書きとなるかもしれない;;

1.シチリア島 … 一つ目の魔物キュクロプスの伝説
2.朝鮮半島 … チマチョゴリの乙女が蝶になる?
3.ザルツブルグ … 乙女の涙を使った錬金術?
4.エクアドル … 乾し首の作り手は神の使い?
5.タイ … 旱魃になると現れ民を救う、ちはぎ様?
6.アメリカ西部 … 悪を撃つ謎のガンマン伝説?
7.シベリア … 人を殺めた者が落ちる深い闇?
8.サマルカンド … 不老不死の聖者伝説?
9.ニュージーランド … 地球は丸いがリンゴ型?
10.セネガル … 海風の吹く夜に押し寄せる黒い影?
11.中国 … 箱の中に封じ込む?(三連荘)
12.日本 … 山女伝説?

いちばん好きなのは、タイの「黄土色変化」。 もしかすると唯一温かい話だったか? いちばん印象深いのは、日本の「風洞の女」。 怖いよ− 怖すぎるよ−。 「ミザリー」観たばかりなのでちょっとシンクロした^^;
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千年の黙 / 森谷明子
千年の沈黙
−異本源氏物語−

森谷 明子
東京創元社 2003-10
(単行本)
★★★

[副題:異本源氏物語] 源氏物語を紐解く文学史ミステリと本格ミステリが綺麗に融合している。 因みに探偵は紫式部。
「桐壺」の帖と「若紫」の帖の間に「かかやく日の宮」という帖が存在したかもしれないという仮説があるが、その解釈は、まだ謎に包まれている。 「桐壺」から「若紫」へ進むと、物語が少し飛躍しているようにも感じられる部分があると言われていることと、「雲隠」という、タイトルだけの帖(光源氏が亡くなったことを暗示させる帖)があるということ。 源氏物語に関しては、この2点を把握していれば、通読していなくても、それほど支障なく楽しめるのではないかと思う。 逆にいえば、この2点だけは把握した上で読まないと文学史ミステリのお楽しみが空回りしてしまうので、味わいも半減してしまう。 さらに、一条朝の時代を軽く理解していると、物語の時代背景がより鮮やかに垣間見れてますます美味しい。
などと書くと、ちょっと取っつき難い作品かなとも思えてくるけど、素直に面白かった。 古典への造詣の深さと、推理小説のための丹念なプロットが、とても綺麗に調和され、平安の世の人々の心模様が、鮮やかに浮かび上がる。 今でこそ、揺るぎない古典の名作として名高き「源氏物語」が、当時は権力とは対極にあって、宮仕えの人々がワクワクドキドキ熱中して読んでいた娯楽小説であったことが、なんだか嬉しい。 よく、生き残ってくれたなぁーと、しみじみとしてしまった。
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悲華 水滸伝 / 杉本苑子
悲華 水滸伝 1 (全5巻)
杉本 苑子
中央公論新社 2001-05〜09
(文庫)
★★★★


水滸伝関係は読んだことがなかった。 活劇ものがあまり得意ではなくて、特に水滸伝は“血生臭い”“男臭い”というイメージに凝り固まっていたので。 この水滸伝は読書のお仲間さんに勧めてもらって手にとったのだけれど、どんぴしゃで肌に合いました。
官軍に抗した百八星が、梁山泊に集うまでの高揚感に満ちた痛快な前半部よりも、梁山泊を捨て官軍となった百八星が、方臘との戦いの中で、次々と散っていく終盤が女性ならではのなんとも美しい筆致。 散りゆく者、残された者の哀切、寂寥感が細やかな優しさに充ち満ちて描かれる。
英雄たちはなぜ梁山泊を捨てたの? 何のために戦っているの? それはもう、星に導かれた運命としかいいようがないのだろうか・・ ひたすらにただただ切ないのだ。 それでいながらラストは、甘美な幻想の中から立ちのぼるカタルシスに包まれる。
杉本版は、原典で面白くないとさえ言われるらしい終盤を耽美な物語に蘇らせ、そこにこそ醍醐味を持ってきてる感じ・・かな。 水滸伝に尻込みしがちな女性読者には是非に! という逸品でした。
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水無月の墓 / 小池真理子
水無月の墓
小池 真理子
新潮社 1999-01
(文庫)
★★★

モダンホラーというのかな・・ホラーというより幻想小説と呼びたい感じ。 よかったなぁ〜〜これ。 恐怖よりも哀感が静かにひっそりと綴られていて、小池さんならではの情感が濃く強く香っている。 小池さんは最近では官能小説の書き手としての呼び声が高いけど、以前の幻想的でムーディーな作品が好き。
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小袖日記 / 柴田よしき
小袖日記
柴田 よしき
文藝春秋 2007-04
(単行本)


柴田さんは「聖なる黒夜」が大好きだったし、「少女達がいた街」とか、ハナちゃんシリーズとか、忘れられない作品も多いのですが、最近は若干、相性悪い気が・・
平安にタイムスリップした少女が、紫式部のアシスト役の女房として「源氏物語」に使えそうなネタ集めをするうちに、平安の女性たちの生き方や恋愛事情に触れ、成長していくというお話。 そこへ“源氏物語ができるまで”という趣向が盛り込まれている感じ。 紫式部はあんな風に書いてるけど、実際はこんなだったのかぁ〜 へぇ〜 今も昔も女性の想いは変わらないのだなぁ〜 ジーン・・というような。
古典のパロディは本来好きなんですけど、これ自分にはムリっぽい。 現代の価値基準で弄繰り回した感が露骨すぎで。 どんどん現代のお手軽なヒューマニズムに置き換えられていく感じで(特に後半)、源氏物語が殺されていくようで哀しくさえなる。 「末摘花」あたりはよかったんだけどな。
女の自立とか、幼女を守れとか、そんなの当たり前じゃないかって気分に。 何を今さらって。 平安に押し付けるなーって。 主人公による解説や主張や言い訳が多すぎるのも鬱陶しくて。 ジュブナイル小説らしいので、これでよいのかもしれないんですけど。
柴田さんについていけなくなっていてイラついてるのかな;; たぶん愛あるナンクセです、倒錯した・・
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イニシエーション・ラプ / 乾くるみ
イニシエーション・ラブ
乾 くるみ
文藝春秋 2007-04
(文庫)
★★★★

うわっ、や、ら、れ、たー。 わたしは幸いにも予備知識ゼロで読んだので非常に楽しめた。 難解な謎解きモノは腰が引けてしまうけど、シンプルかつ完成度の高い〇〇トリック系はホント大好き。 恋愛小説の甘ったるさとラストの暗転と、鮮やかな仕掛けのコントラストがスゴイと思った。 美しいとさえ・・
“〇〇トリック”とか“ラストの暗転”とか書いておきながら言うのもけしからんけど、その程度の予備知識もなしに読むのが本当の幸せ。
そしてあのバブル絶頂期(?)のステータスが、今となってはこそばゆく、なんともノスタルジック。 長靴型のジョッキとかスマッシュヒット 笑
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優雅に叱責する自転車 / エドワード・ゴーリー
優雅に叱責する自転車
エドワード ゴーリー
河出書房新社 2000-12
(単行本)
★★★

[柴田元幸 訳] ゴーリー三冊目なのだけど、これが最も複雑めいていてわけわからんw きょうだいが喧嘩していると、まさに“自転”する自転車が現れて、二人はそれに乗っかって旅に出る、という話。
原題は「The Epiplectic Bicycle」だそうで、この“epiplectic”なる単語には、“優雅な叱責によって説得しようとする”ほどの意味があるらしいのだけど、現在は使われなくなった昔の言葉なのだとか。 このタイトルに哲学的な意味があるのやらないのやら、もうその辺からして惹きつけられてしまう。
古典的な少年少女向け冒険物語のスタイルなのだけど、言ってみればそのパロディみたいな感じで、命からがらの大冒険なはずなのに、あまりに飄々と淡々とエピソードがすっ飛んでいくんだよね。 そんなこんないろいろありますので、どうぞ省略部分はお好きにご想像ください・・ってな調子で、実際に章が飛びっ飛びだったりする。 いや、それともこの意味不明ぶりを紐解く重要な鍵が省かれた章に隠されているとでも言うのだろうか・・
身につけてもいないアイテムが“失くした”と称して初めて登場したり、カブ畑だとなんでわかるのか状態のなんにもないカブ畑を通り過ぎたり、真っ暗だから何も聞こえない納屋に突入したり・・
弱すぎるワニがお気に入り^^ 別の本の中に、この自転車とワニがダンスを踊っている絵があるらしい。 表紙を見ると自転車ったらワニ救出してるし、やはり仲良しなのね♪ しかしこの表紙、答えがあるのかないのか判じ物じみていて暫く見つめ続けてしまいました。 ポーの大鴉みたいな鳥の存在感がグンと際立つ裏表紙の謎めきぶりもいい感じ。
全体に時空マジックが効いており、ラストはなんとも軽やかなカタストロフ。 ぶっきらぼうなシチュエーションの中に、儚さと薄ら怖さと可笑しみの、名状しがたい不可思議な余韻を刻んでいます。 毒を以て毒を制するように生きることの不条理をカタルシスに変える効用がゴーリー・ワールドにあるのは確かだと思う。
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うろんな客 / エドワード・ゴーリー
うろんな客
エドワード ゴーリー
河出書房新社 2000-11
(単行本)
★★★★★

[柴田元幸 訳] 風の強い冬の晩、とある一家の暮らす館に招かれざる珍妙な客が突然やって来て住み(棲み)着いてしまうお話。 これまたシュールですねぇ。
挙動不審モード全開で飄々と好き勝手な振る舞いに明け暮れるマイペースな闖入者と、困惑しつつも鬱々とした生温かい諦念とともに受け入れている家族。 なにかとても虚無的なんだけど、眉を八の字にしながらのクスクス笑いがこみ上げてきてしまうという・・ 抑制されたユーモアの洗練が尋常でないっす。
アリクイみたいなペンギンみたいな変てこな生き物なんなの? とか、なぜに蒼古としたヴィクトリア朝風の家族なんだ? とか、追い出すという選択肢は微塵もないのか? とか(笑) 不条理でナンセンスで不気味可愛い文章のリズム、“うろんな客”の姿形や仕草といい、家族の表情や佇まいといい、モノクロームの線描から醸し出される世界観のすべてが堪らん。
慣例的な枠組みの中に慣例的な節度からちょっと、いや、かなり大胆にズレたシチュエーションを嵌め込む感じなのだよね。 しかもそこには意味性がなく教訓がない代わりに、読者の自由な思念を拘束しない底深さがある。 なんだかほのかに哲学的でさえある・・
感じた気持ちを言葉に置き換えることが非常に困難で歯がゆいのだが、ゴーリーはそういう名状しがたい感情の微妙なピンポイントを華麗に探り当て、擽り、突いてくる天才なのだよなぁ。
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ギャシュリークラムのちびっ子たち / エドワード・ゴーリー
ギャシュリークラムのちびっ子たち
−または遠出のあとで−

エドワード ゴーリー
河出書房新社 2000-10
(単行本)
★★★★★

[副題:または 遠出のあとで][柴田元幸 訳] 初ゴーリー。 なんとシュールな。 アルファベット順に、その頭文字の名前のちびっ子たちが次々と唐突に26通りの暗澹たるヴァリエーションで死んでいく。 意味や感情の“物語”がないままに、ただリズムに乗って淡々と飄々と。 古風な教訓譚を不条理ナンセンス仕様にアレンジしたパロディみたいな感じだろうか? ゴーリー自身は隠された教訓といったものすらなんにも織り込んでない気がするのだよね。 だからこんなにもそこはかとなく魅せられてしまうのではないかと。 でも(だからこそというべきか)シンプルであるがゆえ、読み手に委ねられた余白は無限大とも言えるわけで、反応はむしろ多種多様であって然るべきなのだと思う。
amazonの内容紹介に中村えつこさんの書評が載っていたのだけど、“これら26人の子どもたちが、私たちの身代わりの人形(ひとがた)として悪魔払いをしてくれる、と思わせる”の一文には目からウロコが落ちた。 その感覚、めっちゃわかる。 無性に訳もなく愛おしさが湧いて、うまく言葉にできないまま、自分は変なのか? と思っていたから、これだ! という気持ちを手にできて有難かった。 自分のイニシャルのちびっ子人形をお守りにしたいような、そんな思いにさせられるのだ。
韻を踏んだ素っ気なく軽やかな文章は、可笑しくて不気味なマザーグース調。 と思ったところで、ふとクリスティーが浮かび、「ABC殺人事件」が浮かんできたのだけども、ちょっとは目配せがあるかな?ないかな? 版画を想わせるモノトーンの線画は、可愛らしくもあり、殺風景でもあり、どこかナイーブで落ち着かない。 このクラシカルなタッチと、とんでもブラックなシチュエーションが相まって例えようのない世界観が醸し出されており、これがどうして嫌悪感をまるで抱けないのだから困る。 本当に不思議だ。 裏表紙にまで目が行き届いていてクスっとなってしまった。
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