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さあ、気ちがいになりなさい / フレドリック・ブラウン
さあ、気ちがいになりなさい
フレドリック ブラウン
早川書房 2005-10
(単行本)
★★

[星新一 訳] 異色作家短篇集の一冊。星新一さんが影響を受けた作家として挙げているフレドリック・ブラウンの奇想に満ちた短篇を、その星新一さんの訳で。 なんて贅沢。 20世紀半ばの作品群12篇収録。
ストーリーの組み立てと、ラストのオチや、落としどころが絶妙で、そういう意味ではショートショートに通じる作風と言えるでしょうか。
地球外の惑星や宇宙人や不思議な発明品が出てくる懐かしい王道SF風味多め。 たまらない気持ちになりました。 非SFの日常系も所々に混ざりつつ、いわゆるハードSFとはまったく違う、ウィットが効きまくったシニカルなユーモア基調。
と、一概に括れないくらい引き出しの多いこと! 技巧はもとより、テイストをここまで自在に描き分ける力量がすごい。 似通ったものがないの。 逆説的で奇抜なあの手この手、みんな違ってみんな面白い。
一番のお気に入りは「電獣ヴァヴェリ」。 とんでもないことが起こっているのに、動じない人々の超越っぷりがね 笑 郷愁を誘うしっとりと静謐な余韻が白眉。
妄想や思い込みが育ちすぎて、真実から乖離してしまう「ぶっそうなやつら」は、タイトルの複数形がミソ。
「ノック」は冒頭の2文だけで物語を成している体の作品。 逆に「ユーディの原理」は最後の2文が鮮やか。
「みどりの星へ」はブラックでシリアス寄りな一篇。 狂気の中へ閉じてしまう絶望的な孤独に無量の寂寞感がありました。
掉尾をかざる表題作「さあ、気ちがいになりなさい」はもっとも長い作品で読み応えがあります。 後半、思いもよらぬ方向へあれよあれよと連れ去られ、正常と異常が反転し、めくるめき、人間存在の底を垣間見る旅をしてきた気分になるかと思えば、人を食ったように着地してみせる。
フレドリック・ブラウンは、総じてこのクエナイ感が特徴なのかもという気もする。 「フレドリックブラウンの幸福」と題されたあとがきは、漫画家の坂田靖子さんによるもの。 愛が溢れていて、読んでるこっちが幸福になりました。
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R. P. G. / 宮部みゆき
R. P. G.
宮部 みゆき
集英社 2001-08
(文庫)


再読。 宮部さんというと、個人的には読み応えのある長篇を思い浮かべるのだけど、本作は長編ながらも削ぎ落とされたスマートさを感じさせる佳品。 場面転換がなくソリッドで、まるで舞台劇のよう。
一言で言うなら「タイトルのダブルミーニング」もの。 ほんとにもう、この一言に尽きると言っても言い過ぎではないくらい狙いがストレートで気持ちがいい。 これがやりたかったのか!って 笑
でもそこはやはり宮部さん。繋がりが希薄化し複雑化していく現代社会の病理、家庭環境や親子関係への問題提起を底流させた社会派ミステリでもありました。時代の波間を揺蕩う家族という心許ない小舟の中で、傷ついていく子どもへ向けられる眼差しの確かさ鋭さか光ります。
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日本の神話 / 松谷みよ子
日本の神話
松谷 みよ子
のら書店 2001-04
(単行本)
★★★

古事記の神代の巻をベースに、古代日本の神々の物語が国生みから、ヤマサチヒコとトヨタマヒメの物語まで連作長編趣向で描かれている。
古事記は簡単な解説本を何冊か読んだことがある程度の知識だけれど、上巻の神々の話が初心者のわたしには一番馴染み深い。 中巻、下巻と徐々に神々と人間との物語、人間(天皇家)の物語へと時代が下っていくと、系図があまりに複雑で頭が痛くなり、人間臭さや生々しい争いの場面も多くなる。 もちろんその中にも惹かれる逸話はたくさんあるのだけれど、やはり、おおらかで無邪気で骨太な神々の物語はよいなぁ〜と改めて思う。
特に日本書紀だと、出雲系の神様たちの扱いが淡泊らしいんだけど、風土記や各地の伝承からも説話を拾って、オオクニヌシノミコトの国つくりの場面も生き生きと描かれていて嬉しい。 古事記の中ではヤマトタケルノミコトが一番人気みたいだけど、わたしは元祖風雲児(?)のスサノオノミコトのファンなので、出雲の神様の話が好きなのです。
新嘗のお祭りをする尊い御殿にスサノオがクソをしました!と、アマテラスに言いつけられてますからね 笑 大人なのに・・神様なのに・・ ハチャメチャだけど憎めない。
それから、アメノヒボコ(異国である新羅の神様)とオオクニヌシノミコトが遭遇し、最初は争ったが共に国つくりに励むというのもよかった。 こういうのも好きだ。 これは風土記の説話らしい。
ヤマタノオロチを退治して、妻のクシナダヒメと過ごした出雲の御殿での日々・・スサノオが一番幸せそうな時の歌。
八雲立つ 出雲八重垣
妻ごみに 八重垣作る
その八重垣を
そして神代の巻のラストを飾るヤマサチヒコとトヨタマヒメの物語は美しい。 というか離れ離れになったふたりの恋の歌のやり取りがラストというのは心憎い。 山の神と海の姫との恋だものなぁ。
ヤマサチヒコとは、国ゆずりを受け、葦原の中つ国に下ったニニギ(アマテラスの孫)と、コノハナサクヤヒメとの間に生まれた末の弟。 トヨタマヒメとは海底のワダツミの宮に暮らすワダツミノカミの娘。 書いとかないと忘れちゃうので。
わたしは日本の神話がすきです。けれどもわたしが育った時代には、神々は、動かすことのできない歴史として教えられてきました。その思い出は戦争につながり、ある時期、わたしは神話を拒否しました。そうした現象は、おそらくわたしだけではないと思います。
しかしその後、「古事記」や地方神話にふれたとき、日本の神話のおおらかさ、無邪気さ、人間らしさに魅せられました。黄泉平坂にのこるすさまじいまでの人間の愛と真実、母なくして生まれたはずのスサノオが、母をもとめて泣きさけぶくだり、オオクニヌシとスセリヒメのめぐりあい、国引きの雄大さ、コノハナサクヤヒメのかなしみなど、古代人の心が、いきいきと時代をこえて、胸にせまってくるのを感じます。
わたしは、日本の神話と歴史を混同することなく、むかし話をたいせつに思う心と同じ心で、たいせつにしたいと思うのです。
−解説 松谷みよ子 より−
日本の昔話の伝達者であり、その第一人者である松谷みよ子さんの言葉は深い。 柔らかさの中に凛とした意思や品格が秘められていて、背筋を正したくなる。
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大奥 第二巻 / よしながふみ
大奥 2
よしなが ふみ
白泉社 2006-11
(単行本)
★★★

そっか、一巻毎に完結する連作スタイル・・なのかな? 前巻は八代将軍吉宗の御代で、男女逆転が定着し、人々がすでに環境に適応した時代だったけど、本巻は時を遡って三代将軍家光の御代。 謎の疫病によって、世の中の男女逆転劇が起きつつある、起き始めた、まさにその時代。 環境の激変に対する人々の拒絶反応が炸裂し、生まれ持った本来の性の悲鳴が轟いているような痛々しさ。 
一巻は、まずは舞台設定の妙味があって・・という感じで、上手いなぁ〜と思いながら楽しむ余裕があったんだけど、二巻はもう人物が躍動していて、本気でのめり込んでしまった。 聖と俗、清と濁の狭間でヒリヒリするほど純度を極めた結晶のような恋が生まれ落ちる・・ 戦国の世の血なまぐささをまだ引きずる時代を意図したかのように残酷な描写もしばしば。 でも全ての哀しみを抱き締めるようなラストシーン。
主軸となるのは、家光とお万の方のラブストーリーなんだけど(でも影の主役は春日局、その歪んだ愛・・)、相変わらずココゾという史実を準えていて、細部にわたる仕掛けが冴えわたっている。 更に踏み込んで、歴史ミステリとしても面白いから凄い。
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夜明けのフロスト / アンソロジー
夜明けのフロスト
 クリスマス・ストーリー
−『ジャーロ』傑作短編アンソロジー 3−

アンソロジー
光文社 2005-12
(文庫)
★★

[副題:クリスマス・ストーリー ][木村二郎 編] 『ジャーロ』傑作短編アンソロジーシリーズの一冊。 タイトルに“フロスト”の名が冠されていますが、クリスマスにまつわるミステリの短篇アンソロジーです。 7作家7篇収録。
すべてが“心温まる”ストーリーというわけではないのだけれど、どの短篇も語り口の明るさとウィットがいい感じです。 新しめのクリスマス・ストーリーではあるのですが、欧米のクリスマスシーズン特有の祝祭ムードや古き良き親密さ、日常に溶け込む静かな華やぎがあって、全体的に醸し出されている雰囲気が近しい印象。
小品が並ぶ中、表題作の「夜明けのフロスト」は中篇クラスのボリュームがあり、やはり読み応えがあります。 そして面白すぎる。 いい加減力で前進してるみたいなフロスト警部のファンになってしまいました^^ ボヤキと笑えない冗談がチャームポイント?の冴えないオッサンですが、なんて魅力キャラなんだろう。
そういえばこの一篇だけ、あんまりクリスマス感がしない 笑。 平穏無事で和やかなクリスマスであって欲しいのに、巡回中の巡査が“うっかり”不審な男を発見してしまい、それを皮切りに次々と難題に見舞われるデントン署。 こんなクリスマスは嫌だ状態です。
犯人はなんとなくわかってしまうんですが、トライアンドエラーを繰り返しながら真相に辿り着くまでの捜査のドタバタを追いかけてるだけで楽しい。 やっとクリスマスにありつけたエンディングのお祭り騒ぎめいたはっちゃけっぷりまでオイシイ。
フロスト以外では、特に「あの子は誰なの?」がお気に入りです。 喪失感が浄化されていくようなラストシーンが素敵。

<メモ>
以下は編者の解説より。
「クリスマスツリー殺人事件」は、レオポルド警部シリーズの記念すべき100篇目に当たる作品。
「Dr.カウチ、大統領を救う」は、Dr.カウチもの短篇3作目。 獣医のDr.カウチが孫娘に昔話を語るハートフルなシリーズ。
「あの子は誰なの?」はノンシリーズたが、作者は主に中短篇で多くのシリーズキャラクターを生み出している。
「お宝の猿」は、ダルジール警視&パスコー主任警部シリーズ(D&Pシリーズ)の一篇。
「わかちあう季節」は夫婦合作の短篇で、妻マラーの探偵マコーンと、夫プロンジーニの探偵ウルフ(元は“名無し”)が共演。
「殺しのくちづけ」は、ピーター・ダイヤモンドものの一篇。
「夜明けのフロスト」は、ジャック・フロスト警部ものの珍しい中篇。 短篇にフロスト警部もの番外編の「ファックスで失礼」がある。 他は長篇だが寡作なので数篇のみ。

収録作品
クリスマスツリー殺人事件 / エドワード・D・ホック(中井京子 訳)
Dr.カウチ、大統領を救う / ナンシー・ピカード(宇佐川晶子 訳)
あの子は誰なの? / ダグ・アリン(中井京子 訳)
お宝の猿 / レジナルド・ヒル(宮脇孝雄 訳)
わかちあう季節 / マーシャ・マラー&ビル・プロンジーニ(宇佐川晶子 訳)
殺しのくちづけ / ピーター・ラヴゼイ(山本やよい 訳)
夜明けのフロスト / R・D・ウィングフィールド(芹澤恵 訳)
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アムステルダムの犬 / いしいしんじ
アムステルダムの犬
いしい しんじ
講談社 1994-04
(単行本)
★★★★★

再読。 わたしは「プラネタリウムのふたご」あたりで、いしいしんじさんを読み始めて、大ファンとなった。 この作品は、処女作? かどうかは確認不足。 でも著者20代の極めて初期の作品。 まさに、いしいワールドの原点がここにあるという感じ。 最高によかった。
いしいさんが、似顔絵描きをしながら、アムステルダムを放浪する旅日記のようなお話。 旅先で、行き当たりバッタリに出会う、犬や人々とのあっさりとした、それでいて不思議と親密な関係が、めちゃめちゃ楽しくて。 そして、ふっと切なくて・・
いしいさんの作品というと、わたしはどことなく静謐なものを感じるのだけれど、この作品ですでにあの独特に空気が漂いまくっている。 今回も図書館で借りてきたのだけど、返したくなくなる。 いい加減、復刊して! ・・くれないかなぁ。
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時をかける少女 / 筒井康隆
時をかける少女
筒井 康隆
角川書店 2006-05
(文庫)
★★

[貞本義行:イラスト] 「時をかける少女」は、60年代半ばにジュブナイル雑誌に連載されたのが初出だそうです。 テレポーテーションとタイムリープを融合した学園SFファンタジーで、日本の時間SF・ジュブナイルSFの古典というべきメルクマール的な作品です。
他、2篇も“少女”を主人公にしたジュブナイル系で、同じく活動初期の作品ではないでしょうか。
初読です。 映像作品群も観ておりません;; 今更ですが、ほぼまっさらな状態で読みました。
もっとジェットコースター的な派手派手なものを想像していたのですが、意外と地味で、というか静かでシンプルで、なんかすごく良かったです!(語彙;;)
始まりと終わりがラベンダーの香りで綺麗に呼応しているのが素敵。 香りと結びつく思い出っていつまでも色褪せないんですよね。 そして泣きたくなるほど切ないの。 たとえ思い出したい記憶をなくしてしまったとしても、きっと。
まるでこの作品にもラベンダーの香りの魔法がかかっているみたい。 背景や細部をことさらに描かないせいなのか、時代特定感が薄く、古さをまるで感じないのが驚きです。
古さを感じないのは3篇の共通項でもあります。 「悪夢の真相」は、サイコ・ミステリ系ですが、ハートウォーミングな作品です。 「果てしなき多元宇宙」はパラレルワールド系SFファンタジーで、ラストは少し狂騒チックな風味になっていて、筒井さんの片鱗を感じました。
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自由戀愛 / 岩井志麻子
自由戀愛
岩井 志麻子
中央公論新社 2004-11
(文庫)
★★★

自由恋愛、職業婦人、人道主義・・デモクラシーの風を謳歌しながらも、旧時代的な壁にぶち当たったり、情動や意地に翻弄されつつ、身の内に情念を滾らせ、したたかに生き抜いていく女性たち。 大正モダンの時代のうねりと彼女たちの人生のうねりが見事に絡み合った濃厚な世界に、どっぷり惹き込まれてしまった。
モガ、モボ、ハイカラ、カフェー、銀ブラ・・よいっすねぇ。 上質な筆によってこんなレトロ空間にほんのひと時誘われるのは心地よい。
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高丘親王航海記 / 澁澤龍彦
高丘親王航海記
澁澤 龍彦
文藝春秋 1990-10
(文庫)
★★★

うわぁ〜呑まれた。 この懐の深さはなんだろうか。 宇月原晴明さんの「安徳天皇漂海記」がこの作品へのオマージュ的側面を覘かせていたというのでぜひ読んでみたいと思っていた。
高丘親王とは平安初期に実在した人物。 家来を連れて天竺への旅に出発したがその後の消息は全くわかっていないというのが史実らしいのだが・・。
この作品ではすごいことになっている。 東南アジア、南アジアの国々を巡りながら、その旅路には途方もないファンタジックワールドが縦横無尽に軽々と溢れかえり、儚くも美しく心踊るような極楽浄土への旅路なのだった。
後で、この作品は死期を悟られた澁澤さんの遺作なのだと知って暫し感慨にひたってしまった。 夢を紡いで作られたこの物語がまるごとそのまま、澁澤さんの安らかな夢であったように思えてしまって・・祈りにも似た・・
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鬼に喰われた女 / 坂東眞砂子
鬼に喰われた女 −今昔千年物語−
坂東 眞砂子
集英社 2006-10
(単行本)
★★★★

なんでこうも平安のもののけモノに弱いか;; ぞわ〜〜と甘美で、ぞわわ〜〜と怖く、ぞわわわ〜〜と哀しい。 この作品集には“昔話”の骨太な風合いが色濃く漂う。 この辺り、坂東さんの真骨頂。 荒々しく生々しい情念の世界だ。
今昔物語の説話を題材にして描かれているためか、どこか夢枕獏さんの「陰陽師」を想わせる。「陰陽師」ではスーパーヒーローの安倍晴明が事を鎮めてくれるが、この短編集にヒーローはいない。 物の怪が暴れ、やがて通り過ぎてくれるまで成す術なくおろおろするばかりの人々・・そんな様をそのままに淡々と描いている感じ。 同時に、肉に溺れる人々は抜け抜けとふてぶてしいまでの生命力を放ち、それはいっそ潔いほどに。
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