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夜は短し歩けよ乙女 / 森見登美彦
夜は短し歩けよ乙女
森見 登美彦
角川書店 2006-11
(単行本)
★★★

京都の街が舞台だけれど、なんだか箱庭の国の物語のようだった。 レトロでキッチュでファンキーなファンタスティックワンダーランド。 京都の四季と京都の街並み+妄想パワー+男汁+乙女(笑) ちょっとピントがズレた濃い〜感じの人々だらけ。 1人だけがコレだと浮くが、登場人物みんなコレなので調和している。 素晴らしいハーモニーだ。
昭和初期風の格調高げな文体で、のべつまくなしバカバカしいことを語ってくれる。 このギャップが好きよ。 この笑いはクセになるよ。 スラップスティック的なテンポの良さの中に人々の“繋がり”が楽しく優しくロマンティックに描かれる。 不器用な人々のとびきりキュートで、とびきり純な青春ラプストーリー。
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花闇 / 皆川博子
花闇
皆川 博子
集英社 2002-12
(文庫)
★★★

幕末の世相を反映し、その芸において爛熟の極みに昇りつめた歌舞伎役者、三世澤村田之助の物語。 美貌と才能と人気を欲しいままに、江戸歌舞伎最後の花と謳われた女形役者。 その花の真っ盛りに脱疽を発症し、次々と四肢を切断。 それでも舞台に立ち続けるという凄絶な生き様を晒した人物。 けれど、芸に対する絶対的な自信、強烈な自惚れが魂に宿っているかのようで、“苦悩”とか“悲壮感”とは何か違うような。 そしてどこかマゾ的というか・・四肢を失った己に酔っているんじゃないかとすら思えるほどの役者魂なのです。 だからこその危険なまでの美しさ、だからこその最期という気がしてしまう。 傍らからの哀れみだとか敬意だとか、ヒューマニズム的感慨は一切放棄したくなります。
対照的に退廃の乱舞に閉塞感、危機感を抱き、やがては文明開化の流れを受けて歌舞伎の地位と権威を高めることに貢献した人物として、九世団十郎が描かれている。 歌舞伎役者の地位や自分への評価に対して屈辱的な思いに苛まれ続けた団十郎の胸の内は、これもまた、決して田之助には理解できないことなのかもしれません。 団十郎によって、田之助を輝かせた江戸歌舞伎の仰々しさや血生臭さや淫猥さは排除されていく。
ただただ滅びゆく美しさを高い純度でもって見せつけてくれた作品。 田之助と江戸歌舞伎の心中物語でもあるかのようでした。
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恋のからたち垣の巻 / 田辺聖子
恋のからたち垣の巻
−異本源氏物語−

田辺 聖子
集英社 1990-06
(文庫)
★★★

裏源氏シリーズ(勝手に命名;;)の3作目。 1作目の「私本・源氏物語」のストーリーは、原典に忠実で、言ってみれば原典の裏読み的なお話。 2作目「春のめざめは紫の巻」は、原典の変奏曲的作品で、田辺さん流にストーリーもアレンジされていた。 そして今回は、副題に“異本源氏物語”とあるように、すっかり原典を離れて、田辺さんのオリジナルワールドが炸裂している。
相も変わらず、姫や貴婦人の開拓に余念のない源氏の君。 前2作には、原典のマドンナが登場していたけれど、本作のマドンナは全て田辺さんのオリジナル。 そしてほぼ全敗・・寅さんも真っ青。 いや、ふられるというよりは、勝手に一人でコケているといった感じ。 お婆さんを遠目に見て一目惚れしてしまったり、女好きを逆手に取られて痛い目に・・いや本人気づいてないし;; 女装して下町の雑踏にも出没。
・・とまあ、今回も遺憾なく三枚目っぷりを発揮。 これがね。 若い娘には案外とウケがいい。 おかしく滑稽な男がカワユイ時代なのだそうで・・。 遂に紫式部先生まで登場! 紫先生は、お歳のせいか若い娘達の“カワユ〜イ♪”にはついていけず、哀愁の漂った二枚目スターがお好み。 なので、ウワサに名高き貴公子、源氏の君の本性を知ってしまって、かなり幻滅モード。 どうやって美しい物語にすり替えるか悪戦苦闘中なのであった。
そうそう、伴男を忘れてはいけません。 そんな源氏の君に振り回される舎人のヒゲの伴男は、実に油の乗った中年ざかり。 2人のものの見方や女性の好みの対比が本作の(というより三部作通しての)読みどころでもあります。
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秘密の花園 / フランシス・ホジソン・バーネット
秘密の花園
フランシス ホジソン バーネット
福音館書店 2003-06
(文庫)
★★

[猪熊葉子 訳] 召し使いにかしづかれて育ったつむじ曲がりのメリーと、癇癪持ちのコリン。 嵐の晩、時間の澱んだような暗い大きなお屋敷の中で出逢った少年少女が、広い敷地の一角に、閉ざされて見捨てられた庭を見出し、秘密を共有し、甦らせることに夢中になっていく・・
1911年発表、児童文学史に残るバーネットの代表作。 図書館で見かけて、懐かしさのあまり連れ帰りました。 やさぐれた大人にもよく効きます。 肥えた土の匂いや草いきれが、肺の隅々まで沁み渡るような気分。 地上の生きとし生けるものへの愛に溢れています。
生まれてから十年間、愛情を注がれずに育ったメリーとコリンは、同じく十年の歳月、忘れ去られほったらかしにされてきた小さな庭とパラレルの関係を呈しています。 鍵を見つけて扉を開く・・ 眠りから目を覚ます・・ 植物の成長と庭の再生にシンボライズされた2人の心象風景の軌跡を、20世紀初頭の英国、ヨークシャーの四季と生活風景に照らして闊達に謳いあげた物語。
キーキーとした不協和音が聴こえてきそうな、この上なく不毛な雰囲気を帯びた序盤から、紆余曲折するでなく、着実に一歩、また一歩と“大きくて、いいもの”(それは、魔法とも自然とも神様とも科学とも言い換えることができるのかもしれません)に導かれ、伸びやかで健全なリズムに満たされていく真っすぐなベクトルが愛おしく、それはちょうど、作中の季節が灰色の冬から色彩豊かな春へ塗りかえられていく様子と呼応しています。
土のなかの球根のように心の中に“喜びのもと”があるんです。 慈しんで見守られ、育まれ、芽吹く日を待ちわびて、生きる力は眠っている・・
大人になった今、読み返してみると、(お金ではなく愛情に裏打ちさた)幸福な親子の在り方についてのメッセージ性がありありと感じ取れます。 近代以前、上流階級の母親は、自分の子供を小さい頃は乳母や家庭教師に任せきりにして、少し見栄えがよくなればアクセサリーのように傍に置き、成長すれば家の繁栄のための道具のように扱うのが、決して不道徳ではなかった時代が長く続いたんですよね・・
精神的環境は、肉体の健康にも多大な影響を及ぼすのだという現代的価値観を、命が甦るためのプロセスに投影して描いているんだなーと思うと、大げさかもしれないけど、新しい時代の幕開けを予感させるような・・ やはりどこか“萌芽”を感じさせる大きなテーマが見え隠れしているようにさえ思えてくるのでした。
親子の在り方が混沌としてしまった21世紀に、この、シンプルな力強い物語の息吹きをもう一度・・ そんな祈りのような気持ちに包まれてしまいました。
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吉原手引草 / 松井今朝子
吉原手引草
松井 今朝子
幻冬舎 2007-03
(単行本)
★★★

吉原にかかる多方面の人々、引手茶屋の内儀、見世番、番頭、番新、大籬の楼主、遣手、床廻し、幇間、女芸者、抱え船頭、指切り屋、女衒、新造・・などなど(これらの言葉に馴染みがなくとも作中で解説されているので大丈夫)総勢17名(かな?)の語りによって物語が進む。 彼らはまるで“吉原ツアー”の水先案内人のよう。 窮屈なスタイル(手法)にもかかわらず、花街の内実や因習の考証が微に入り細に入り、見事な吉原像を結実させている。
謎の先がなかなか見えてこないのだけれど、それぞれの語りが面白くて興味深くて全く飽きさせない。 読み進めると、あの人の語ったあの事が伏線になってたんだなーとミステリの楽しさも膨らんでくる。 ピースが揃った終盤は一気に種明かし。
吉原解説本として一級品であると同時に、ストーリーはすこぶるエンタメ性が高い。 直木賞のお手本という感じがする。 多種多様なしきたりにも多種多様な抜け道があり、喰ってるようで喰われていたり、芝居が真実に、真実が芝居になり得る郷。 人と人の綾が織り成す吉原絵巻を堪能した。
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ゆめこ縮緬 / 皆川博子
ゆめこ縮緬
皆川 博子
集英社 2001-04
(文庫)
★★★

時代は大正から昭和初期ごろ。 旧家の屋敷や中州を舞台にした生粋の和モダン幻想譚8篇。 わたしは泉鏡花を触り程度しか読んでいないのだけれど、この短編集は鏡花の直系なのではないかと、読書中ずっと感じていたのだけれど・・。
妖しの世界は何処か平然とこの世に寄り添い、人々に馴染み、したり顔で存在し続けているようで背筋にぞわっとくる。 現実と異界との境界線が曖昧で、自分の立ち位置がどんどん心許なくなる。 個々の作品は独立しているのに、時代背景的に同一のフィールドであると感じさせることと、モチーフが多用されていることで、読めば読むほど深みにはまっていくような怖さ。
黒髪、絵師、地蔵、玉藻前、玉虫、胡蝶塚(シャガ)、青火、蛇屋、人形・・等々、並べるだけで匂い立つようで・・ 艶で美しく残酷な極上の小説空間に誘われて参りました。 ため息。
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銀座開化事件帖 / 松井今朝子
銀座開化事件帖
松井 今朝子
新潮社 2005-02
(単行本)
★★

明治7年から8年の文明開化に沸き立つ銀座の光と影。 風景から室内の小道具に至るまで、生き生きと描きこむ筆力は本物。 ガス灯や人力車や赤レンガや十字架や外来語が、江戸の風情と混ざり合って渾然一体となったり、はたまたチグハグで浮き足立ったりしている街の喧騒が色鮮やかに立ちのぼってくる。 はじめは、そんな街角の様子がシニカルに描かれ、ふふっと笑っていたりしたのだけれど、段々と笑えなくなる。 シリアスな社会派ミステリ張りに・・。
産みの苦しみとでもいうのだろうか。 新しい時代の矛盾や混沌は深い歪みとなって、そこに暮らす人々の生活や心情を苛み弄ぶ。 それでも、異人さんとの恋や、身分の差を取った友情や・・ 新しい風は確かに吹いている。 それら全部ひっくるめて、明治の御世の大きなうねりがズンズンと響いてくる。

<追記>
この作品は「幕末あどれさん」という作品の続編であるらしいことが判明。 あ〜やっても〜た〜;; 独立した作品として楽しめるように作られていたとは思う・・けど、やっぱ緩やかな長編的な要素? あるな。うん。あったわ。
これからお得意の逆さ読みしますわ(>_<*)v
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散りしきる花 / 皆川博子
散りしきる花
−恋紅 第2部−

皆川 博子
新潮社 1990-03
(文庫)


ゆうと福之助の新たなる旅立ちの場面で終った「恋紅」の続編。 「恋紅」を読んで“ゆうがただ伸びやかに呼吸できる居場所を追い求め、福之助が心底芝居が好きだから、2人の苦労はどこか・・幸せそうに映る”などと記したわたしでしたが、続編では霞を食べては生きられないのだよ・・という話になっていた><。
「恋紅」の幻想美や情熱や愛や夢に陶酔したわたしには、かなりショッキングな続編となった。 「恋紅」が薄紅色の世界なら「散りしきる花」は泥色の世界。 ゆうが泥まみれになって生きていく苦闘の日々が濁々と描かれ、異様な凄みを放っている。
作者って、やっぱり自分の書いた小説の主人公には想い入れがあるだろうし、何かしらの華を持たせてあげるものなんじゃないかなんて、そんな思い込みは皆川さんには通用しないのだわ。 そういえば桐野夏生さんもミロを突き放してたよなぁ〜などと脈絡もないことが頭を過ぎったり。
なんだか、「恋紅」で作り上げた世界をぶち壊すために描いたんじゃないかってくらい、恋紅全否定みたいなものをわたしは感じてしまった。 あとがきで皆川さんは更なる続編への取り組みを示唆しておられたのだけど、お書きになられた気配はないです。 お書きになられても、わたしは読まないだろうなぁ。 ぐすん。
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恋紅 / 皆川博子
恋紅
皆川 博子
新潮社 1989-04
(文庫)
★★★★★

文章が美しい。 そしてところどころに描かれる染井吉野の情景が、読み終えてからよりいっそうに甘美な余韻となって残ることに気づく。 物語の中に吸い込まれる感覚・・凄い吸引力だった。 吉原の遊女屋の娘と小芝居役者の恋をさらりと描く。 なのに2人の息遣いまで聞こえてきそうなほどに深く響いてくる。 生々しい筆致ではないのに、生娘から“女”になる主人公ゆうのなんと官能的だったことか。 ゆうがただ伸びやかに呼吸できる居場所を追い求め、福之助が心底芝居が好きだから、2人の苦労はどこか・・幸せそうに映る。 続編「散りしきる花」で、その後の2人は、どんな風に描かれるのだろう。
この作品には、実在する歌舞伎役者の三世澤村田之助が、福之助とゆうの目線から描かれており、彼の壮絶な生き様の一端を垣間見ることになる。 皆川さんは田之助を主役にした「花闇」という作品を発表されているらしい。 俄然読みたい。
幕末から明治維新にかけての動乱の様子、特に文化面の混乱や変転の様子が、遊郭や芝居小屋を通して細密に描き込まれ、それはもう、ゆうと福之助を引き立てる背景などに納まるものではなかった。
このごろの東京の芝居は、守田勘弥と九世団十郎が中心になって、芝居の絵空事や荒唐無稽をとりのぞき、それといっしょに毒っ気や洒落っ気もぬきとられた、固苦しい史実にのっとったものばかりが高く認められる風潮だそうだ。でも、史実の“実”とは何だろう。絵空事や荒唐無稽でなくてはあらわせぬ真実もあるのだ。そうして、また、人の心の奥にひそむ魑魅は、舞台の魑魅に誘いだされ、日常では許されぬ魔宴をともにし、いっとき堪能し慰められて、また闇の眠りに帰ってゆくのだけれど・・・
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女學校 / 岩井志麻子
女學校
岩井 志麻子
中央公論新社 2006-02
(文庫)


ガーリッシュというのか・・それよりゴスロリっぽいのかなー。 これはもう、雰囲気に呑まれた者勝ちかも(笑) 舞台設定やストーリーは、どこか恩田ワールドを彷彿とさせるような、クローズドで展開されるめくるめく幻夢譚なのだけれど、とにかく選りすぐられた甘美で蠱惑な言葉の洪水! ここまでやっちゃうんだぁ。 作家ってスゴイなぁ。
朱子のリボン、珊瑚の唇、瞳には星、背景には薔薇・・的な。 可憐で邪悪な蜜色の世界。 これがまた大正モダンとよく似合う。 禍々しく毒々しいまでのヒロイニズムとストーリーの螺旋に思いっきり悪酔いするのも一興かと。
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