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猫とともに去りぬ / ジャンニ・ロダーリ
猫とともに去りぬ
ジャンニ ロダーリ
光文社 2006-09
(文庫)


[関口英子 訳] 光文社古典新訳文庫シリーズの一冊。 ロダーリはイタリアの戦後を代表する児童文学作家。 日常の暮らしの中に、するっとおとぎ話が溶け込んでいるような、ユーモラスで鋭く、奇想天外な16篇の掌編集。
オチと教訓を絡めたお話というのでなく、もうちょっと漠然としたメッセージ性を秘めた感じで、(この一冊だけ読んだ時点では)思ったよりビターな味わいでした。 アイロニーペースです。
ファンタジーで包まれているので、あからさまじゃなくて、押つけがましさもなくて、楽しくするすると読めます。 でも読み終えると、ちょっと思索に耽りたくなるような余韻も残るんです。 難を言えばイタリアネタが多いんですよ。 自分がイタリア人なら、もっともっとニヤニヤできるんだろうなぁ〜と、ちょっと悔しいのです。
でも、シンデレラや白雪姫やギリシャ神話のパスティーシュとか、日本も少しだけ登場します。 日本製のビデオやパイクが。 時代ですね。 この作品集は、73年に刊行されているそうです。 箒で空を飛んで子供たちにプレゼントを配るイタリアの魔女のベファーナも、宇宙人も登場するし、コロッセオやピサの斜塔も大変なことに!
発想の柔軟さ、縦横無尽のナンセンスワールド、そして、子供たちに伸び伸びと育って欲しい、お金が全てじゃないんだよ、という著者の信念が、一貫して底に流れているような気がしました。
余談なんですけど、「猫探偵カルーソー」といい、イタリアには野良猫がいっぱいいるんでしょうか。 わたしの頭の中では名物のようになりかけてるんですけど 笑 古代ローマの遺跡に野良猫が住みついてるって・・いいなぁ。 無責任ですみません。 でも遺跡とか遺物とか、日本だと白い手袋やガラス張りのよそよそしいイメージだけど、イタリアって、もっとずっと身近で、無造作に一緒に暮らしてるような感じするじゃないですか。 そういうの、カッコいいなぁ〜とか、つい思っちゃうのでした。
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カスティリオーネの庭 / 中野美代子
カスティリオーネの庭
中野 美代子
文藝春秋 1997-09
(単行本)
★★★★

清朝の乾隆帝の命を受けたイエズス会宣教師たちの設計によって、壮麗な離宮であった円明園の一角に増設されながらも、不幸な歴史を経て廃墟を晒す西洋楼、西洋庭園へのレクイエムのような物語。
ちょっと小説的な流れが悪いので読みにくいのですが、構成としては、最後の最後で急展開するようなミステリ仕立てになっていて楽しめますし、主人公のカスティリオーネも円明園も知らなかった;;のですが、あとがきを読む頃には胸がいっぱいになっていました。
ジュゼッペ・カスティリオーネは、宣教師として支那の地に渡り、宮廷画師として雍正帝、乾隆帝の5代、6代皇帝に仕え、その技術や知識を清朝に捧げ尽くしたイタリア人のイエズス会士。 柔軟でしたたかな名君として名高い乾隆帝の“生かさず殺さず”的な支配の巧みさの中で、個性を押さえつけられながら、絵画や建築に重用され続けたカスティリオーネが、異郷の地に没するまでの50年に成した“仕事”を史実に基づき、丹念に紹介していくと共に、彼の内なる叫びが静かに綴られていくのです。
個人の信仰の自由は認めるが、布教活動は許さないという方針の下で、宣教師にとっての根源的な使命について悩み続けながら、西洋画の特徴を否定した技法や、仏画のような構図さえ要求される屈辱に耐え続けた日々。 限界を試すが如くの数多の無理難題に対して、その要求に応え続けるという方法で、もしかすると彼なりに静かに戦っていたのではないかと・・皇帝とカスティリオーネの間には、信頼と憎しみが混じり合った、目に見えない攻防が展開されていたのではないかと・・なんだかそんな風に思えてきてしまいます。
宮廷に仕える仲間の宣教師たちと共に、長い歳月をかけて完成させた西洋庭園には、故郷への慕情や、その無垢な魂を愛した皇三子永璋への追憶など、誰も知りえないカスティリオーネの想いが、密やかに込められていました。
円明園は後に、第二次アヘン戦争で英仏軍に略奪、破壊され、その後も文化大革命などを経て、壊滅的に痛めつけられたといいます。 特に中華帝国のシステムの中で息衝く西洋楼、西洋庭園は、歴史の一時期に、ヨーロッパ人にとっても、中国人にとっても醜悪な遺物とみなされ、可哀想な運命を辿ったと、あとがきで著者の中野美代子さんは示唆しておられます。 そして、この作品によって、カスティリオーネと西洋庭園を追悼しているのだと感じます。
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秋の牢獄 / 恒川光太郎
秋の牢獄
恒川 光太郎
角川書店 2007-11
(単行本)


抗えぬ力に囚われ“閉じ込められる”物語3篇のオムニバス。 前2作のような和モダン的な幻想美はやや控えめで、人間のエゴや生臭い部分が意外と前面に押し出されているような、ちょっと露悪的くらいの印象。
意図的なのかもしれないのだけれど、あからさまに具現化された悪意が小骨のように引っかかってしまって、個人的な偏愛傾向からは、少し外れてしまった気も。 いや、でも、あえて小綺麗な幻想譚にまとまらないように、わざわざぶち壊しているのかなとも思う。 汚された美しさから匂い立つ生々しい悪徳の香り・・みたいなニュアンスも嗅ぎ取れる気はするんだけれど。
とはいえ、恒川さんの描く異界は、底知れぬ奥行きと共に、えもいわれぬ余韻を湛えているのは確かだし、本作品も、そのオリジナル性を継承していることは間違いありません。
仄かな郷愁と寄る辺なさ、木々や野山の冷んやりとした佇まい、風が奏でる透き通るような旋律、不穏なざわめき、張り詰めた孤独、茫漠とした無常観、諦念、閉じた世界の完結された静けさ・・ それらが最も優美に調和されていた「神家没落」が一番好きだったかな。 怖さだったらシュールな「秋の牢獄」もよかった。 そこへ至る過程、痕跡が全て失われて、記憶だけが延々と積もっていくって・・考えるほどに、怖い。
読んだタイミングがいけなかったと思う。「愛の続き」の後では、どんなホラーだって、おいそれとは太刀打ちできませんから。 時間を置いてまた読んでみよう。
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愛の続き / イアン・マキューアン
愛の続き
イアン マキューアン
新潮社 2005-09
(文庫)
★★

[小山太一 訳] 精緻で怜悧な文章。 圧巻の筆力。 まず冒頭の気球の事故の描写が強烈なインパクト。 あまりにも悲劇的な不条理感を味わった時に、非常事態下に置かれた精神が、それまで眠っていた自我を表出させてしまったり、その後の人生を左右しかねないような意識の変貌を導き出してしまったりする怖さ。
精神の平衡をジョーは科学に求め、バリーは神に求め、ジョーとパリーは表裏一体となって、気球の事故の後遺症と戦っているような・・ちょっと変かもしれないけど、そんな風に感じてしまいます。
パリーは結局、狂気の世界から帰って来れないのだけれど、彼の閉ざされた孤独な空間は、永遠の愛で満たされている。 というより、そういう場所でなければ永遠の愛など、存在し得ない。
一方、ジョーは、恋人のクラリッサとのすれ違いから、徐々に関係が悪化していく。 現実世界には、完璧な愛などなくて、妥協点や共感しあえるものを見出せるか、見出せないか、探り合い、確かめ合い、その作業を懇々と繰り返して生きていくしかない。
などと、読み終えたから言えるようなもので、ラストのクライマックスまで、誰の言い分を信じていいのか分からないような不安感が付きまとって、ざわざわと心が乱されるのです。 それこそが作品を凄くリアルにしていたんじゃないかと思った。
もし自分がこの物語の中にいたら、いったいどんな位置に立って、何を見ているだろう・・と考えると、怖くなるし、一気に自信がなくなってしまう。 忘れられない作品。
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奴の小万と呼ばれた女 / 松井今朝子
奴の小万と呼ばれた女
松井 今朝子
講談社 2003-04
(文庫)
★★

作中作もの。 大好き^^ 「なまみこ物語」とか「円朝芝居噺 夫婦幽霊」でも騙されかけているので、この物語もどこまでが本当なのかしら? と疑わしげな眼差しをつい向けてしまったのですが、どうやら素直に評伝小説と捉えてよかったようです。
江戸時代中期の大坂で、大和撫子の美徳とは対極の信念を貫き通した女性、人々の度肝を抜いた破天荒な生き様が、浄瑠璃や、後に歌舞伎の演目にもなったという“奴の小万”と呼ばれた娘(後の三好正慶尼)は、実在の人物なのでした。
裕福な家に生まれ、美貌、頭脳、体力に恵まれ、人並みの幸せを拒み、忍従を拒み、歩いた道筋には全てのものがなぎ倒されているかの如き傷痕すら刻みながら、自分勝手に、我侭に、奔放に、世間様に喧嘩を売って、身を張って生きた姿からは、痛快さというよりも、やっぱり少し痛々しさが響いてくる。
現代に生まれていたら、あそこまで目立つこともなく、生き辛くもなかったんじゃないかと思うんだけど、女性の生き方として、彼女のような発想そのものがないような時代に、何かに触発されたというのでもなしに、型破りであることに怖気づかず、生涯、天性の気質に正直であったという眩しさみたいなものは感じたかなぁ〜と思う。
でも所詮、自分は小市民なので、心情的に彼女に寄り添うことは難しく・・ 様々に絡まり合う柵を自分の胸の内に飼い馴らしながら、世の中となんとか折り合いをつけて生きていこうとするような、彼女から見たら“つまらない人”“偽善者”“勇気のない人”と映ってしまいそうな人々をどうか馬鹿にしないでください・・と、ちょっぴり思ってしまったものでした。
でも、そんなお雪を肯定するでも否定するでもない“こういう女性がいたんだよ”という松井さんのフェアな姿勢のお陰で、良さも悪さも全部ひっくるめて、1人の女性が選び取った1つの人生なんだなって、ストーンと入ってくるものがあった。
同時代の市井の人々は、なんだかんだ言いつつ、心の何処かでは彼女に憧れ、夢を託していたんじゃないかと、最後にふと思いました。
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小美代姐さん花乱万丈 / 群ようこ
小美代姐さん花乱万丈
群 ようこ
集英社 2005-12
(文庫)
★★★★

激動の昭和を生き抜いた浅草の売れっ子芸者、小美代姐さんの一代記。 小美代姐さんは、群ようこさんの三味線のお師匠さんらしいです。 どんな語り部だったんだろうなぁ〜なんて想像してしまいます。 お話を聞きながら、お師匠さんの評伝小説を書きたくてウズウズしてしまう群さんの心境にまで、想いを馳せてしまいました。
この時期の花柳界の物語というと、最近読んだ「さゆり」を思い出すのですが、あちらは、しっとりはんなりとした風情のある祇園の芸鼓さんの物語でした。 こちらは小粋な江戸前です。 好対照♪
ちゃっかり者の小美代姐さん。 強くて逞しくて、そして可愛い。 右手の障害、東京大空襲、悲恋、夫の死、借金・・一歩違えばじっとりと重量感のある苦労話に仕上がりそうだけれど、ちっとも湿っぽくなくて、 哀しみさえもカラっとしていて、そんなところがなぜか余計に沁みるのです。
転んでもタダじゃ起きない底力、物怖じしない切符の良さ、人の心をほぐし、決して嫌な気持ちにさせない芸者魂を支える温もり、そんな陽性気質を下敷きにしたお座敷でのエピソードや人生のこぼれ話に、クスクス笑って、ケラケラ笑って、油断してるとほろほろっとやられてしまいます。 平らかな気持ちにさせてくれる自然体の大らかさが、惚れ惚れするほど恰好いい。
最後、後半生が駆け足だったなぁというのが非常に惜しまれるのですが、「小美代姐さん愛縁奇縁」という続編(?)が出ているようで、その辺りを補ってくれているのでしょうか・・読まねば!
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シャルビューク夫人の肖像 / ジェフリー・フォード
シャルビューク夫人の肖像
ジェフリー フォード
ランダムハウス講談社 2008-03
(文庫)


[田中一江 訳] 19世紀末のニューヨークで、奇怪な事件に巻き込まれていく肖像画家を主人公にした幻想ミステリ。
新興成金たちから重宝がられる肖像画家というのは、言ってみれば職業画家的な存在のようで、芸術志向の強い画家ならば、その居心地のよさに甘んずることを恥じる思いや、不確かな道であっても、才能を追求したいと欲する気持ちが疼いたり・・ 主人公のピアンボや、同時代の肖像画家であるサージェントにも同じような想いがあったのかも・・なんて、なんとなく重ね合わせて読んでしまう。
サージェントは優雅な肖像画で名を得るも、後に肖像画の依頼を断り水彩の風景画を描くようになったという実在の画家。 本書ではピアンボが憧れる存在として登場している。 そんな肖像画家の弱みや焦りや誇りが悪意に弄ばれてしまうような、サスペンスフルな展開。
世紀の変わり目というニューヨークの背景や、実在の画家たちが登場しているけれど全体的に凄く寓話的。 雪の結晶から運命を読み解く占い師とか、血の涙を流す奇病とか、赤道から来た男の謎の霊薬とか、ギリシャ神話が散りばめられたり・・ そこへアヘンの煙草の煙が霞となって立ち込めているようなミステリアスな気配。
日本の屏風や古代中国の陰陽図やカルタゴのランプやメデューサのカメオなど、小道具も好況に沸く時代を物語るように、どこかエキゾチックで煩雑で魅惑的。 それだけじゃなくて、屏風とは? 陰陽図とは? 赤道とは? 視覚とは? 作品中のありとあらゆるモチーフが、メタファーとして活かされている感じがして・・だからこんなにも深みがあるんだろう。
終盤にするするっとノーマルな世界へと収束していく感じは、ミステリ好きか幻想好きかで、ちょっと好みが分かれる気もする。
ウィキでジョン・シンガー・サージェントを開いたら、代表作の1つである「マダムX」が載っていた。 なんと本書のカバーなのね! しかも顔の部分が欠けています・・ちょっとニヤっとしてしまいます。
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時の旅人 / 長野まゆみ
時の旅人
長野 まゆみ
河出書房新社 2005-03
(単行本)
★★

再読本をちょろちょろ漁る今日この頃でございます。 浅草、上野広小路界隈を舞台に、時空を超えた出逢いの物語3篇のオムニバス。 連作ではないっぽいのだけれど、共通のモチーフが多用されているので、意味深な連作ものなのかしら? と悩まされるあたり、やっぱり長野さん。 実際、時を廻り時を渡る白珍(シロウズ)の物語なのかもしれません。
1作目のスリップは、大正12年と現代。 一番シンプルで解り易い構成♪ 大正時代の少年がMDウォークマンを貸してもらって“漆のように艶やかだか漆ではなさそうな不思議な手触り”とかなんとか言っているのが可愛らしい。 少年と地下鉄がいい感じの相性なんです。
2作目のスリップは、昭和48年と昭和34年。 アスファルトの下に埋まった路面電車の軌道が日付変更線になっているという設定が凄く印象的。 この昭和の十数年の“違い”の描き分けといい、物語の枠組みに施された細工の繊細さが光っていました。
3作目のスリップは、未来と昭和44年。 昭和とシンクロするような人工的にレトロな未来が幻影的で美しかったなぁ。 蚊帳や黒電話やランタンや露店が未来の中で馥郁たる芳香を放っていて・・
凌雲閣、宵待草、蒸気機関車、ご成婚パレード、アポロ計画・・あの時代この時代をを彩る小道具の使い方が実に上手いので、いつものことながら端正な雰囲気作りに魅せられる。 共通のモチーフは、亀、乙姫、玉手箱、魂魄、白珍(亀神?)など。 全体的に龍宮伝説のようなイメージにコラージュされている感じが、レトロな風情と響き合っていて、長野さんならではのワンダーランドが醸し出されている。
どの物語にも2人の少年の交流が描かれているのだけれど、微妙にBL未満な香りを含んだ友情っぽいかなぁ〜って、勘繰らなければ見出さずに済んでしまうくらいの微かな甘美さが好きでした。
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雨柳堂夢咄 其ノ一 / 波津彬子
雨柳堂夢咄 其ノ一
波津 彬子
朝日ソノラマ 2002-6
(文庫)
★★★★

明治の終わりから大正頃でしょうか。 骨董屋・雨柳堂の孫息子の蓮青年が、古美術品や古道具に宿る魂と、現世を生きる人たちの心を橋渡ししたり、残された“想い”を紐解いて浄化させてあげたりする、ロマンティックで切なくて時々可愛い幻想譚の連作集。 十話収録。
ふふっ、めっちゃ好み♪ 和洋折衷建築やガス灯や人力車や袴姿の女学生や華族の令嬢などが息衝いている世界です。 そこにしっぽりと佇む雨柳堂。 花魁の人形、蒔絵の鏡台、三つ襲の友禅など、絵が綺麗でうっとりしてしまいます。
妖しのものたちに“呼ばれて”しまう蓮くんなのですが、そうした骨董の品々、そこに宿るものたちに向ける眼差しが穏やかで優しい。
椿の精や千年狐や金の鳥や唐子人形や、今は亡き人がこの世に残した想いや、心の拠りどころを失くしてしまっている可哀想な人たちが、吸い寄せられるように雨柳堂に導かれ、癒されていくお話なので、胸がキュンとなるような切ない話ばかりなんですが、情念の暗い闇といった感じの後味の悪いものがなくて非常に読み口が良いです。
解説の藤本由香里さんによりますと、“能を見る”という体験は、この世のものであってこの世のものでない“あのひとたち”に会いに行くという体験なのだそうで、この作品の本質は能の世界に通じるものがあるのだとか。 雨柳堂の世界で遊ぶうちに、能の魅力が形を与えられた気がしたのだそうです。 へぇ、そういうものなのかぁ〜。
ずぅ〜っと浸っていたくなります・・
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死者のための音楽 / 山白朝子
死者のための音楽
−山白朝子短篇集−

山白 朝子
メディアファクトリー 2007-11
(単行本)
★★★

“幽”という怪談専門誌は読んだことないのだけれど、“ダ・ヴィンチ”で盛んに広告攻勢かけているので、なんとなく目に馴染んでいる。 そこから輩出されている新人作家さんの1人。 大型新人との評判で話題になっているらしいのだが、一説には乙一さんの別名義ではないかという憶測が飛んでいるって、ホントですか??
モダンホラーな短篇集。 全体的にいい雰囲気。 張り詰めた切迫感や、絶望的な寂しさが、幻想世界にすぅ〜と溶け込んでいくような、美しくて優しくて悲しくて静かで叙情的で、深い余韻に充ち満ちている。 ラストが音楽の物語だったせいか、7篇の短篇がそれぞれに光りながらも、統一された旋律を持った1枚のアルバムを聴き終えたかのような芳醇さが味わえます。
「鬼物語」はなんともいえない手触りだった。 飛躍しちゃうんだけど、天災地変に対してあまりに無力な人間を見せられているようでもあり、例えば鬼を人間の無邪気な子供に、村の人々を虫に置き換えても、すとーんと納まってしまいそうな、暗喩的な“鬼”の存在感が忘れられない。 だからなのか「SEVEN ROOMS」を思い出してしまった。 あれも保健所で処分される犬を思い起こさせる話だった。
「黄金工場」は噎せ返るほどに感覚的。 果物の腐ったような甘いにおいを放つ工場の廃液・・ 夜の森の中で月明かりに照らされて、地面に散りばめられた星々のように光る黄金の昆虫たち・・ ゾクゾクする。
「未完の像」のえもいわれぬ余韻も好き。 「鳥とファフロッキーズ現象について」は一番印象的だし、とても優れた作品だったと思うんだけど、個人的に悲しい動物ものがダメなので、感情が入り過ぎてしまい苦しかったです。
また1人、追っていきたい作家さんができて嬉しい。 “山白朝子”の2作目、3作目・・期待してもいいんですよね??
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