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二つ枕 / 杉浦日向子
二つ枕
杉浦 日向子
筑摩書房 1997-12
(文庫)
★★★★

遊郭を舞台にした初期の作品が集められている。 遊女と客の何気ないひとコマを切り取った、しっぽりと小粋な短篇集。 芝居がかった戯れの中のささやかな実、他愛もないやり取りから滲みだす一揺らぎの機微。
物語として読んでる感覚ではなくなっちゃう。 江戸吉原の郭の一室のとある風景にそのまま身体が溶け込んでいくような。 ここは江戸なんだなぁ〜って。 日向子さん、江戸に連れてきてくれてありがとう〜ってくらい浸ってた。
等身大の江戸なんて、絶対味わえないわけなんだけど、やっぱりこの作品の中に、それを感じてしまう気持ちを止められない。 あ〜もぅ、語ることが野暮に思えてくる。 読んで感じて。 それしか言えないです・・ 北方謙三さんの巻末解説もラブリー♪

<余談>
表題作の「二つ枕」は、4短篇のオムニバス形式なんですが、すべて浮世絵風の画線で描かれています。 4作目の「雪野」の線は歌麿っぽいなぁ〜と思って、そこではたと気がついたんですが、作品毎のタッチが微妙に(というか、よくよく見ればまるで)違うんです。 無性に気になりだして調べてみたら、それぞれ春信、英泉、国貞、歌麿の画風に準えて描かれているみたい!
しかも作品の構成は山東京伝の洒落本「傾城買四十八手」に準えているのだということも知りました! 奥が深い。。。
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堕天使拷問刑 / 飛鳥部勝則
堕天使拷問刑
飛鳥部 勝則
早川書房 2008-01
(単行本)
★★★

タイトルと表紙に引き気味ですが・・面白かったー。 新潟県の架空の町が舞台。 閉鎖的な田舎町(って、最近こんなんばっかり;;)の謎めいた共同体ものに嵌っております。 閉所フェチが進行中・・っていうか末期気味。
モダンホラーと本格ミステリを融合させた極上のB級ノヴェルですが、阿部和重さんの「シンセミア」みたいな雰囲気がお好きな方は是非。 ってことで、マニア向けです 笑
日本古来の土俗的な因習と、なぜか(!)中世ヨーロッパのそれとが渾然一体となった奇天烈極まりないフレーバーを醸し出しているこの呪われた町が素敵すぎ! 現代社会の在り方としての基本的な方向性を全力で間違えている町民たち。 のっぺりとした狂気のドツボに町ごと囚われた強烈な磁場です。
ケレン味たっぷりに描かれる文化の暗黒面が眩暈がするほど香ばしい。 この禍々しいチープ感がたまらん。
悪魔召喚の黒魔術とか、魔女狩り、異端審問、そこへ和仕様のツキモノハギ(憑き物剥ぎ)や種々のタブーなこもごも、おまけにアングラなあれこれまで。 古事記の国生み、はたまたバベルの塔や創世記戦争も絡んできます。
ここまで雑駁にして全く空中分解を起こすことなく練り上げる腕っ節。 惚れましたw

<触発されて読みたくなった本>
失楽園 / ミルトン
やさしいダンテ「神曲」 / 阿刀田高
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マジック・フォー・ビギナーズ / ケリー・リンク
マジック・フォー・ビギナーズ
ケリー リンク
早川書房 2007-07
(単行本)
★★★★

[柴田元幸 訳] リンク初体験。 9篇の短篇集。 同系(?)みたいに紹介されてたジュディ・バドニッツの「空中スキップ」は、(面白かったけど)自分には毒っ気というか、殺伐とした気配が強すぎると思う部分もあった。 リンクはより寓話的で、この一冊で決めつけるのは軽率だけど、ずっとずっと瑞々しく、毒々しい印象は全く受けなかった。 透明感とさえ思う。 切ないとさえ・・
気色悪いし、不気味だし、妙ちくりんな事この上ないのに、人々のささやかな切実さが詰まっていて、痛くて不器用な可笑しみや、泣きたくなるような可愛らしさ・・そんなものたちで溢れた世界に映るのが不思議で、この著者魔法使いなの?とマジで思った。 でも人様に気軽に薦めることは躊躇われる。 激しく読者を選ぶタイプの作品だろうなってことも理解できる。
柴田さんが解説で“ありきたりな素材を解体する”という表現を使っていた。 ホント、ひとつひとつのディテールに絶妙のセンスを振りまきながら、分解と再構築を繰り返していくかのよう。 ごくごく普通の日常からズレていくんだけど、そのズレた世界を完全に構築しようとはしないで、ひたすらズレ続けていくような・・ プロットそのものがまるで物語を壊そうとしているみたいな。
でもそんなへんてこりんな空間の中から、人々の声が水際立って届けられる感じ。 痛切なんだけど、不気味可愛い笑いでくるんじゃってて、なんかこう、どこかシャイな気配がして堪らない。
「妖精のハンドバッグ」は、自分にとっては今年一番の短篇だったかも。 「猫の皮」や「マジック・フォー・ビギナーズ」も大好き。 「石の動物」を読んでいた時、ちょっとだけ、ヴィアンの「うたかたの日々」の不可思議な感覚を思い出したり、「猫の皮」では、いしいしんじさんの世界をふと思い浮かべたりもしたかな。 人間のコードでは解読不明な「大砲」に至っては、おそらくはゾンビコードで書かれたものと思われ^^ 年の瀬に素敵な本が読めました。
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神のロジック 人間のマジック / 西澤保彦
神のロジック 人間のマジック
西澤 保彦
文藝春秋 2006-09
(文庫)
★★

アメリカの南部とおぼしき荒野に佇むミステリアスな学園。 正面には、車で昼夜走らなければ隣町に辿り着けない一本道。 裏手には金網越しにワニの潜む沼。
生徒は少年少女6人。 食事の不味さに不平を言ったり、テストの点数によって支給されるお小遣いでジュースやお菓子を買うお楽しみ。
授業の一環として取り入れられているワークショップの課題というのが意味深で、奇妙な出来事を設定し、そのシチュエーションに乗っ取ったストーリーの結末を考えて発表するというもので、設定された事件の関係者1人1人の役を割り振り、生徒たちはその人物に成りきって、その視点から事件を観察するというディスカッション形式の推理ゲーム。 さらに、学園には変化を嫌う“邪悪なモノ”が潜んでいて、新入生がやってくる度に目覚めるというのだが・・
陸の孤島さながらの施設に、何のために幽閉され、共同生活を送っているのか。 生徒たちは誰も真実を知らない。 思い思いに仮説を立て、推理を巡らせ、それぞれの固定観念の中に囚われていく。
生徒たちのキラキラとした子供らしさに寄り添う不穏な気配と共に、物語はひたひたと進行し、やがて悲劇の急展開へと雪崩れ込んでいく。
ミステリなので、あまり書けません;; 何かを主観だけで信じきることの究極の怖さを暗示するような作品でした。 これもしゃべり過ぎなんですが。 自己完結できていればそれはそれで幸せなのかもしれないけど、人は社会の中で生きていくしかない生き物なわけで・・
自分を信じることと相手を受け容れることの間に齟齬が起きた時、どうやってその齟齬にアプローチしたらよいのか。 個人対個人、国家対国家・・人類の永遠の課題なのかもしれません。 主人公との同化が解ける時、世界を鮮やかに反転してみせてくれます。
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源氏物語 巻七 / 瀬戸内寂聴 訳
源氏物語 巻七
紫式部 著 / 瀬戸内 寂聴 訳
講談社 2007-07
(文庫)
★★★

「柏木」から「紅梅」まで。 源氏四十代後半から五十代前半。 「雲隠」と8年の空白を経て、孫世代が主役となる宇治十帖の序章へ。
やっと本編終了です。はぁ〜。 ホントにこの物語は女をなんだと思っとるんじゃいゴルルァと思う自分を抑えるのに難儀しました。 でもここは平安京なのですから。 これもひとえに現代人の感性にフィットするようなアレンジなど挟まず、瀬戸内さんが忠実に原文を訳しておられる賜物なのかしら。
柏木の“一途な情熱”もあまりに独り善がりで酷い男です。 彼は自分の死を引き換えにして読者から許してもらえたのでしょう。 死によって昇華され美化される柏木ですが、女三の宮からの返歌を読んで、死の床で歓喜するのが痛いです・・最後まで。 女三の宮は自分自身の哀れさを詠んだだけなのに・・
ちょw 夕霧ぃぃ! んもうー不器用なんだから。 本編ラストに差し掛かり、憂愁に包まれていく荘厳さの中で、悪目立ちったらないです。 中年にして恋に狂い咲く堅物親父と鬼嫁のホームドラマさながら。 なんで紫式部はこのストーリーをこんなところに差し挟んだんだ? センス良すぎ! なのか? 後の帖で“月に15日ずつ、律儀に通い分けている”と、騒動の後日談がちゃんと書かれているのが笑いを誘います。 子沢山父ちゃん頑張れ〜。 やっぱりコメディだよw
夕霧は生真面目一方といわれますが、根っからそうだったのかな? とつい、考えてしまいます。 若い頃から源氏の君に抑圧され続けてきただけなのでは・・ お父さん、相当睨みを利かせてましたから。 “自分のようにはならないでもらいたい”などと息子のためを思っているかのような、もっともらしい事を云いながら、その実、六条の院周辺の女君たちに横恋慕されることを異様に警戒してましたし、息子が自分以上に“洗練された色男”になるのはプライドが許さなかったとしか思えないんですけど。 夕霧はその辺りを結構鋭敏に感じ取ってたと思う。 紫の上の死後、変わり果てた情けない姿の源氏の君を甲斐甲斐しく支える夕霧を見ていて、やっと精神が安定したように映ったくらいです。
あと印象深いのは、出家後の女三の宮が、いい女になってます。 頼りなく、あどけないばかりだったのが、背負ってしまった重さを精一杯受け止めているような、凛とした気高い美しさを宿しているのです。 紫の上を失って、悲嘆に為す術もなくなった源氏の君が、慰めて欲しくて女君たちの元を訪れるのですが、女三の宮は源氏の女々しい感傷に付き合いません。 案の定、源氏の君は心の中で紫の上と引き比べて女三の宮を軽蔑するんですが・・
結局、源氏の君が“世話をしてやっている”と思っている女人たちは、最後は源氏の君を置き去りにして、精神的な高みへと昇っていく。 そしてその人たちの慈悲の中で、源氏の君は生かされている。 けれどそのことには気づけない・・一生。 なんだかそんな物語だった気がします。 いや、どうだろう。 そこが瀬戸内訳の狙いだったのか?
意地悪な事、いっぱい書いてごめんね源氏;; せっかく読んでるんだから好きになれたらいいなぁーと思ってたんだけど・・ まだ自分には受け止めてあげられるだけの度量がないのだと思う。 もっと齢を重ねてから読んでみたい物語でもありますし、他の訳も気になります。 てか、まだ終わってないし。 宇治十帖は一休みしてからにしようかな・・
「柏木」「横笛」「鈴虫」「夕霧」「御法」「幻」「雲隠」「匂宮」「紅梅」
女三の宮、薫を出産ののち出家。死去した柏木の横笛を源氏が預かる。夕霧、女二の宮と結婚。紫の上の死を悲しみ源氏出家。源氏亡き後、元服した匂宮と薫の物語が始まる。
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源氏物語 巻六 / 瀬戸内寂聴 訳
源氏物語 巻六
紫式部 著 / 瀬戸内 寂聴 訳
講談社 2007-06
(文庫)
★★★★

「若菜 上」「若菜 下」。 源氏、三十代の終わりから四十代後半まで。 紫式部が並々ならぬ魂を込めて描いたといわれる帖に差し掛かりました。 第二部の幕開けと共に、悲劇のシークエンスへと雪崩れ込んでいくかのようで、一気に物語は重厚さを増して迫りくるのです。
源氏物語の真髄は若菜以降にあると言われるそうですが、今までの長い長い物語は、「若菜」のために存在していたんじゃないかって、読んでいると確かにそんな風に思えてきます。
源氏の君の手によって源氏好みの女性へと育て上げられた紫の上。 後ろ盾もなく、源氏の君の愛情に縋って生きることしか許されていない自身の寄る辺なさに、はたと気づいて立ち止まり、人生を振り返ってしまいました。 空っぽの人生を。 以降の紫の上は不幸です。 ひたすら不幸です。 源氏の君の他愛もない浮気心を敏感に察知して、可愛らしくヤキモチを焼いたり拗ねたりと、サービスを尽くして喜ばせる術を心得ている彼女が、ヤキモチを焼かなくなっていく過程が本当に哀れです。 気持ちを外に出せなくなって、深く暗い孤独の淵へと落ちていきます。
特筆すべきは、紫の上の身体に異変が起こるまで、源氏の君は全く兆候に気づかないこと。 表立っての仲睦まじさに変わりのない二人の、内面の温度差が素知らぬ風に描写されていて、なおいっそう胸を抉られます。
紫の上の心離れ、六条の御息所の消えない情念、そして、女三の宮と柏木の密通、裏切りは、そのまま延いては2人の父親である朱雀院と太政大臣(もとの頭の中将)にスライドして見えてくるようでもあり、長年に渡り溜めこまれた源氏への無意識の遺恨の結晶であるかのようにさえ感じられます。 また一方で、源氏自身と藤壺との過ちが二重写しに見えてくることは言うまでもありません。
“報い”という言葉を使っては安直に過ぎるのでしょうけれど、源氏の君に対する人々の許容量が、遂に目には見えない飽和点に達してしまったように映ってなりません。 人に痛みを強いてきた源氏の君の心は、明確な悪意を意識していない(つまり相手の痛みをわかっていない)だけに、残酷で罪深いものに思えるのです。 それをずっとずっと許してもらってきたのに、それなのに・・
人の厚情、大きな赦しに甘えて生かされてきたことに、ここに来ても未だ気づくことができません。 心に余裕がある時は隠しおおせていた醜さが一気に顕在化して、源氏の君の人間像に暗翳が投じられていきます。 どこまでもどもまでも、自分の痛み、自分の哀しみしかわからない・・ “あなたのために”という言葉が虚しく響きます。 けれど源氏の君が決して特異な人間ではないということなのです。 自分自身の姿のように見えてくるのです。
「若菜 上」「若菜 下」
春、玉鬘が源氏の四十の賀に若菜を進上。朱雀院の愛娘女三の宮が六条の院の源氏に降嫁。明石の女御が3人の皇子を次々と出産。柏木が蹴鞠の日に女三の宮を垣間見て恋慕し、密通。冷泉帝が譲位し、明石の女御の第1皇子が東宮となる。朱雀院の五十の賀宴を催す。
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あなたに似た人 / ロアルド・ダール
あなたに似た人
ロアルド ダール
早川書房 1976-04
(文庫)
★★

[田村隆一 訳] 1953年刊行、ダールの最高傑作との呼び声高い大人向け短篇集。 毒と苦みとユーモアと哀愁の絶妙なブレンド。 何かに取りつかれて現実と狂気の間に踏み迷ってしまったような、哀れで滑稽で不気味で禍々しく、世にも痛々な人々を鮮やかに切り取った奇想譚15篇。
心理戦のような束の間の緊迫感、それに、人物の表情や容姿の描写が凄っ! グロテスクなくらい辛辣で容赦ないんだけど、目前に迫ってくるような瑞々しさが、ひときわ生彩を放っている。
一番好きだったのは、幻聴男の妄想を描いた「音響捕獲機」。 これら作品群の中に混ざると、ちょっと小奇麗でソフトな印象なんだけど、このくらいのテイストが自分には一番合った。 ほんとこれ大好きで、すんごく笑ったし、読み終えた後の少しほろ苦い余韻もよかった。 「韋駄天のフォックスリィ」のようなラスト一行の鮮烈さと皮肉が効きまくった一篇や、「告別」のねっとりとした復讐劇、賭け事へのめり込む暗い情熱が哀しすぎる「南から来た男」もよかった。
紳士、淑女、執事、晩餐会、豪華客船、美食家、画商、ギャンブル・・ 華やかなりし英国の香りと、えもいわれぬ恐怖、泥臭いほどの渋み、シャープでシニカルな機智を堪能。
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迷宮百年の睡魔 / 森博嗣
迷宮百年の睡魔
−LABYRINTH IN ARM OF MORPHEUS−

森 博嗣
新潮社 2005-05
(文庫)
★★

女王の百年密室」の続編。 前作に続き、エナジー問題を解決して物質的豊かさを完全に手に入れた人類が、その豊かさを如何にして内面・精神面へ取り入れられるか模索している百年後の未来を描いたSFミステリ。
今回、辺境ライターのミチルが訪れたのは、周囲を絶壁と高い城壁で取り巻かれた迷宮の島・イル・サン・ジャック。 ちょっぴりオリエンタルな風趣を醸した孤島です。 自主独立を維持した排他的な共同体に眠る秘密と、ミチル自身の背負った運命とが深く共鳴していて、あまりにも複雑すぎる曖昧模糊とした“生命”というものの定義について、存在の根源にまで遡って考えさせられてしまいます。
前作のラストに明かされたミチルの秘密が今回のテーマにもなっているので、順番を間違えずに読むのが得策です。 前作同様、“謎は人の意識の中にある”といった感じですが、前作以上にトリックや動機がテーマと有機的に絡んでいて、メッセージ性もなお強く、ズシっと響く作品なのに、優雅に漂う詩情でコーティングされていて、決して素顔は見せてくれないようなもどかしさが心地よくもあります。
何の権利があって人が人を殺すのかと同じくらい、何の権利があって人が人を生かすのか・・ 自分は進歩的な人間ではないので、“生きること”の限界への挑戦、未来人が挑む飽くなき知的探求の方向性には、かなり困惑するんだけど、あ〜でも、いつの時代だって歴史の中で、搾取する者、される者、結局は全てが人類の進化の過程に内包されたプログラムなんじゃないかとか思えてきちゃう・・
ミチルのフィルターを通すと、あたかも感情豊かに見えてしまうウォーカロンのロイディの魅力がバージョンアップしています。 自分はけっこう無機愛(?)が強い人間なんで、前作くらいのプリミティブなロイディが堪らなく好きだったりもするんですが、相当に学習効果を上げましたね^^ それこそウォーカロンと人間の違いがなんなのかわからなくなってきちゃうくらい。
ロイディを苛めながら可愛がりながら、ロイディに甘えてるミチル。 まるで2人だけで世界が完結してしまっているような・・寂漠とした孤高の気配をまとった2人が少し切ないです。 でもラストに風穴が開くような明るさが感じられた気もして、この先が気になります。 また新たなミチルの秘密が明かされたし、今度はそこをテーマにした続編・・なんていうのは、もうないのかな?

<追記>
この百年シリーズは三部作の予定らしいですね! 森作品のシリーズものの中で初めて読んだのが本シリーズだった自分には、ついていけない伏線がいろいろあるようで・・検索していて知りました;; 他シリーズを読んで出直してきます><

<後日付記 ネタバレ注意>
出直して来ましたが、頭の中ぐっちゃぐちゃです・・orz メグツシュカとデボウは真賀田四季の何なのか? ミチルは真賀田四季の娘の何なのか?
低温睡眠による寿命操作、クローン、精神と肉体の分離、精神の複数人格(複数肉体)支配、ウォーカロンの人間化・・と、ここまで生命、個の定義が曖昧になると、もはや“誰が誰”だかきちんとした型に嵌めて把握することが困難と思われ・・思考停止に陥りそうです;;
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左近の桜 / 長野まゆみ
左近の桜
長野 まゆみ
角川グループパブリッシング 2008-07
(単行本)


武蔵野の裏路地。 古めかしい木造家屋の残る一角にひっそり佇む連れこみ宿“左近”。 女将と板前と番頭だけで切り盛りする古宿の長男・桜蔵は、知らず知らずにこの世ならざる妖しのものらを“拾ってくる”質。 生も死も男も女も・・日常では明確に思えるはずの境界がおぼろに滲んだ曖昧な空間で営まれる艶めいた交感。
桜蔵っていったい何者なの? 登場人物の中で唯一(?)ごくごく普通の感性の持ち主のように思えるのに、この得体の知れなさはなんなんだろう。 ありふれているほど、どんどん曖昧になっていくような不思議。
四季折々の和のモチーフが美しい12章からなる連作長編。 桜の季節から次の桜の季節まで。 ひと月毎に時が刻まれ、高校2年生の桜蔵の一年が描かれていく。
長野作品って、ふわりとソフトなのに甘さがないのも好き。 苦いのでもなくて。 無味に近いような感じ。 こんなにエロティックなのは初めてなんだけど、男性同士の際どい描写も、ねっとりと絡みつくような厚みがないので脅威にならない。 ひんやりするような綺麗な官能美。ドキっとするような。
作家生活20周年を記念する新シリーズと紹介があり、続編にワクワク。
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遊郭のはなし / 長島槇子
遊郭のはなし
長島 槇子
メディアファクトリー 2008-05
(単行本)


吉原・江戸町の格式高い遊女屋、“百燈楼”という大楼に伝わる怪談話。 妓夫、女将、内芸者、幇間、遣手、禿、花魁・・たちが入れ替わるように語り手となって、一見の客を案内し、もてなす行程を再現しながら、遊郭の七不思議を一つ一つ明かしていく。 そのうちに客は段々と抜けられない闇に落ちていく・・といった構成の連作長編。
松井今朝子さんの「吉原手引草」のような趣向で、吉原ツアー化け物屋敷バージョンっぽい感じ。
郭は魔窟。 妓楼は伏魔殿。 自害や心中、折檻で責め殺されたり、火事や疫病で非業の死を遂げた娼妓たちの幽魂が彷徨う郷。 何が出たっておかしくないといわれる江戸の遊郭は、怪異譚の聖地さながら幽霊との相性が抜群。 さらに幽霊沙汰は、妓楼に箔が付くとばかり、自ら噂を広める女将もいたとかいないとか・・
郭言葉や隠語をふんだんに使っていても全く鼻につかないし、解説も親切なのに煩わしくない。 張りと意気地の裏側に切々と流れる哀調。 嘘を買うのが通人といわれる遊郭の仁義。 見栄や粋で塗り固められた郭情緒が、滴るほどコアに描かれていたと思う。
文章が殆ど長唄調で構成されてるのも面白かった。 道で軍艦マーチに歩調が合っちゃって決まり悪くなるのに近いかも。 読書中、脳内に長唄が流れ続けているみたいで、なんだかこそばゆかったし。
途中までは面白かったんだよな〜。 すんごく喰いついて読んでた。 短篇毎に紹介される説話めいた怪談もそれぞれよかった。 後半になると短篇同士がリンクしていくような“予感”がして、パズルのピースが揃うと一枚の大きな怪談絵巻が・・って、期待を膨らませ過ぎちゃったのもいけなかったんだけど。 思ったよりもピースの収束感がなくて・・勝手だよなぁ。読者って。っじゃなくて、わたしって;;

以下、未読の方はご注意を! 備忘録です。
作中の“百燈楼”に伝わるという七不思議。 これは長島さんのオリジナルなの?(だったら神) それとも伝承を踏まえたもの?(それでも稀有な職人です)
ちょっと調べたくらいではわからなかったので書きとめておきます。 気になる。
【赤い櫛】 赤い櫛が落ちているのを見かけても、手に取ったり、拾い上げたりしてはいけない。 拾った者は必ず命を落とす。
【八幡の鏡】 使わない鏡を置いたままにしておくと、映った空間が取り込まれ、鏡の中にあるはずのない世界が生まれる。
【遣手猫】 色気の抜けない遣手婆が猫に化けて客に媚を売るとか、年老いた猫が遣手に化けて客に色目を使うとか・・
【鼠の道中】 妓楼に巣食う鼠は、食べられない小間物なども引いていき、集めた綺麗な小間物で飾り立て、花魁道中の真似事をするという。
【無常桜】 咲いたそばから散るという枝垂れ桜の名木。 花魁になれないままに若死にした禿や新造の霊魂が宿っているという。
【木魂太夫】 妓楼に棲む声だけの主。 古の太夫の変化だという。 滅多に現れないが気ままに出没し、人を助けたり惑わせたりする。
【一つ目の禿】 古道具が一つ目の子供に化けたおばけ。 遊郭では場所がらか禿に化けるという。 赤いべべ着て手鞠唄を口ずさみながら生首を鞠の代わりに突いているとも。
番外【紙縒の犬】 相手から来た文を裂いて紙縒りに縒って犬をつくり、飾っておく。 待ち人を呼び寄せるための娼妓のおまじない。
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