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密室の鍵貸します / 東川篤哉
密室の鍵貸します
東川 篤哉
光文社 2006-02
(文庫)
★★★

東川さん、初読みです。 烏賊川市シリーズの1作目に当たるデビュー作。
かつて漁港の町として栄えた面影はなく、冴えないベッドタウンと化して久しい烏賊川市(いかがわしw)。 ありそうでなさそうな架空の地方都市を舞台にしたユーモア本格ミステリです。 
語り口が軽妙で、さっくり楽しい とはいえ、メインに据えられている密室トリックとアリバイ崩しという本格要素に手抜きはなく、すごく綺麗にキマッてたと思う。 小気味いいキレ味でした。
鵜飼探偵&戸村くんコンビと、砂川警部&志木刑事コンビと、どっちもどっちで、そこそこピエロを演じてくれて、もちろん冴えも見せてくれて。 ディテールのバランス感覚が抜群なのと、可愛い顔して緻密に計算し尽された構成力に唸ります。
終始、癒し系なくらいコミカルなノリなので、安心して読めちゃうっていうか。 緊張感やシリアスさ、生々しさなどは皆無なんだけど、そこが気に入っちゃいました 
終盤になるまで、犯人は誰れ? トリックはどんな? に加えて、いったい名探偵は誰れなのよぉ〜? という楽しさも相俟って。 気分転換に最適の一冊っぽい位置づけです。
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本棚探偵の冒険 / 喜国雅彦
本棚探偵の冒険
喜国 雅彦
双葉社 2005-01
(文庫)
★★★

面白過ぎる。 ギャグ漫画家の喜国さんが、いかにして古本マニア道を爆走しているかを綴ったエッセイ集です。
乱歩邸の土蔵で乱歩の蔵書にまみれて我を忘れることから始まり、古本仲間の新本格系ミステリ作家さんたちとの交流(これがさり気に美味しいw)、本棚作り、函作り、豆本作りに心を躍らせたり、古本求めて熱い血を滾らせる怒涛の日々をウォッチング。
探す楽しみ、駆け引きの楽しみ、持ち帰る楽しみ、本棚に並べる楽しみ、それを眺める楽しみ、他人に自慢する楽しみ・・ 肝心の“読む楽しみ”が抜け落ちておりますw そんな古本野郎の古本野郎による古本野郎のための古本ロマンな一冊。
どんな世界だってマニアの領域に踏み込めば然りでしょうけれど、ツワモノ、クセモノ揃いです。 古書店主の“その本は君にはまだ早いよ”ってw 物語の中の台詞かと思ってたら違うのよ 笑
人類のお宝を仮初めに手中にしている誇りとでもいうのか、快感みたいなものがあるんだろうなぁ。 誰かの手を経て、今ここにあり、やがていつかはこの手を離れていく・・ そんな古本の海に漂う人々だから、自分たちまで付喪神みたいになっちゃってます。 基本が本好きなので、うんうん! という面白さは勿論あるんですが、アナザーワールド感満喫でした!
自分はコレクター気質ではないと思っているんですけど、でも、自分色に染まった本棚を眺めてニンマリするような危険因子は少しばかり持ち合わせていると思います。 この本を読んでいると、そこんところをコショコショと絶え間なく刺激されて悶えてしまいます。 何かのはずみにうっかり踏み外さないとは限りません 笑
続編の「本棚探偵の回想」読みたくてウズウズしています。 角田喜久雄著「底無沼」の鉛筆草稿贋作事件(?)の結末も気になるし。
でも文庫の古本価格がまだ下がってないので、購入は見合わせて、とりあえずは図書館本で。 このド○チお財布感覚ではやっぱりロマンは追えないでしょうね
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比類なきジーヴス / P・G・ウッドハウス
比類なきジーヴス
P G ウッドハウス
国書刊行会 2005-02
(単行本)
★★

[森村たまき 訳] 英国にあっては、ホームズ&ワトスンと並び称されるといわれる、ジーヴス&バーティーの名コンビが活躍するシリーズ第一弾。 エドワード朝の貴族階級の日常を諧謔たっぷりに描いた、古き良き娯楽小説です。
比喩や引用や反語法を駆使し、律儀に言葉を組み立ててジョークを構築しておきながら澄まし顔をしているみたいな。 英国ユーモアのスープ漬けです^^ クラシカルで香り豊かな作品でした。
短篇に加筆を施して長編に仕立て直したという体裁なので、たくさんのエピソードを盛り込みながら、連作に近いようなスタイルで物語が進んでいきます。
簡単に言ってしまうと、おバカでグータラな若主人バーティーが厄介事に巻き込まれ、有能な執事のジーヴスが難局の解決に暗躍するといった趣向で、ちょっとのび太くんとドラえもんチックなんだけど、ジーヴスは黒ドラえもんです。 てか黒執事。 道具ではなくて機知でもって華麗に危機回避。 慇懃さの奥に潜むノアールな香りがヤミツキになりそう。 はっきり言って悪知恵なんですが、そうは感じさせないスマートさがたまりません。
ジーヴスも然ることながら、実はバーティーの、それこそ“比類なき”語りによって、この物語には命が吹き込まれているということを見逃すわけにはいきません。 バーティーの独白という一人称スタイルの中に、自虐ネタに通じるようなウィットがあるんです。 バーティーの操る言葉によって、ジーヴスが厳かに立ち現れる・・というレトリックこそ、隠された醍醐味なのかもしれません。
訳者の森村さんによると、英国独特の社会構造に由来した感覚を前提としたウッドハウスの笑いは、国境を越えるのが難しいのだそうです。 確かに古典の引用など全然わかってなかったし、文化に根ざした機微には、やはり反応できてないんだろうなぁ〜という想いは過ぎるものの、自分なりには十分楽しませてもらった気になってます。
寝る間も惜しんで一気に! というタイプの読み物ではないのですけれど、手元に置いて少しずつ、大事に大事にシリーズ全部読みたいです。 そんな気分。
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わらしべ長者、あるいは恋 / 服部真澄
わらしべ長者、あるいは恋
− 清談 佛々堂先生 −

服部 真澄
講談社 2008-11
(単行本)
★★

[副題:清談 佛々堂先生] 知る人ぞ知る関西きっての風流人、佛々堂先生シリーズ第二弾。 四季を彩った4篇の連作短篇集です。
二月堂のお水取り、利休竹、山椒、山野草、養蜂、和紙・・ 今回も風趣豊かな和のトリビアが満載。 好事家・数寄者の趣味の世界の空気を思う存分吸い込める悦び・・ あぁ、やはり垂涎のシリーズです
書画骨董に歳時の風物あれこれと、古雅な趣味人の世界を束の間垣間見させていただきました。 黒幕となる見せ場や仕掛け方が、若干弱くなってたかな?とも思ったのですが、でも満足です。
ガラクタ(のようなもの)で溢れかえった、けったいなワンボックス・カーが大活躍です。 便利屋風情、植木職人風情、その日暮らしの爺むさいおっちゃん風情と、神出鬼没に諸国行脚を満喫しながら西へ東へ・・ フットワークの軽さをみせてくれています。
趣向を凝らした遊び好きが、人助けに役だってしまって、一石二鳥というか。 “お宝は天下の回りもの”とばかりに、先生のプロデュースで、お宝たちは収まる所に収まっていって、一石三鳥四鳥・・と、ハッピーの輪が広がっていくみたいな気持ちよさが好きです。
衣食住を包括した美しい暮らしの達人然とした佛々堂先生。 博覧強記っぷりと審美眼と子供のような好奇心とコテコテの関西弁で魅了してくれます。
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紅水晶 / 蜂飼耳
紅水晶
蜂飼 耳
講談社 2007-11
(単行本)


新鋭の現代詩人である蜂飼さんによる初めての小説集。 “言葉を紡ぐ”ことによって生まれた文章から丹念に織り上げられた空間は、とても美しかったです。
樹木や虫や鳥や魚たちの呼吸音が、しんと深く冴え渡り、喧しいほどの静けさとなって立ち込めています。 一瞬の儚い均衡が、永遠の生命を繋いでいくかのように。
まるで空気の震えに呼応するようなレベルで、自分と他者との境界線を喚起させられる想い。 それは薄い膜であり、深い溝であり・・ 他者との距離感を測りかね、模索し続ける女性たち。
匂やかなイメージの散りばめられた淡々とした筆致から、めらめらと湧きあがり、抑えても抑えても滲みだして零れてしまう、キリキリとした鋭敏さ、肯定して欲しい焦燥、侵されたくない自己、孤独への脅え・・
若さから滴る甘苦い樹液をそっと舐め取るような。 生臭さと瑞々しさに掻き回されるような。 そんな気分を味わいました。
自分は、彼女たちとの相性があまりよくなかったのか、上手く共鳴できずに読み終えてしまったのが残念だったのですが、作中に埋め込まれていたハンナ・アーレントの“存在するものは、すべてだれかに知覚されるようになっている”という言葉が深く胸に残りました。
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大人のための残酷童話 / 倉橋由美子
大人のための残酷童話
倉橋 由美子
新潮社 1998-07
(文庫)
★★

大人の童話系作品の定番中の定番です。 走りといってもいいのでしょうか。“後に来る者の特権”で、この手の作品は、今や多くの秀作が世に出回っていますが、色褪せ感はありません。
アンデルセンやグリム童話、日本の昔話、ギリシア神話にイギリスや中国の民話など、世界各地の古典的お伽噺をモチーフにした26篇の創作童話集。 毒とエロスのフレーバーを効かせ、大人向けにアレンジされていますが、小手先のテクニックではない、骨太で削ぎ落とされた印象を残します。
情で解決しないところや、自業自得の精神を基盤に構築される物語世界は、残酷ではあるけれど、ストンと胸に落ちるような率直さがあります。 そんな昔話の持つ魅力を濃厚なエッセンスとして抽出したような作品集。
一篇毎に“教訓”が付記されているのですが、これが人を喰ったような一台詞で、読んでいくうちに思わずハマります。 誰でも知っている話が結構含まれているので、換骨奪胎の手際の鮮やかさを堪能するのも楽しいです。
「異説かちかち山」の怜悧な残酷さがあまりに鮮烈でした。 メドゥサの首に材を取った「ゴルゴーンの首」のウィットと皮肉も好きでした。 谷崎潤一郎の「春琴抄」を下敷きにした「鏡を見た王女」の苦い暗さも忘れなれない・・
どれも極めて後味の悪い物語ばかりなのに、嫌悪感が残らないのが思い返せば不思議なのですが、不合理なものを感じさせない整然とした摂理に裏打ちされている・・そういうことなのかな。
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五分後の世界 / 村上龍
五分後の世界
村上 龍
幻冬舎 1997-04
(文庫)


龍さんが丸くなられたのかどうなのか・・何かに大きく加担する描き方をしていなかった「半島を出よ」は、とても好きな作品だったんですが、15年前に上梓されたこの作品は、自分には過激すぎました。 容赦のなさとご都合主義が混在しているので読み方に戸惑う部分もあったし、男のナルシズム?がキツ過ぎて;;
太平洋戦争が終結しなかったパラレルワールド。 列強の国々が本土に上陸し占領統治を試みた地区が、やがてスラム化してまだらに点在している荒涼とした日本。 生き残った26万人の優秀な国民(純粋な日本人)は、アンダーグラウンドを拠点にゲリラ戦を続けている。
舞台設定といい、緻密な戦闘シーンといい、読み物としてはとても面白いです。 ナショナリストたちが、あからさまに美化された世界のように感じられます。 極限状態の緊張感の中での研ぎ澄まされた精神性には甘美な恍惚感があります。 でもその先に何があるのか、よくわかりません。
ぬるま湯のような現代社会に対して、ここまで突き詰めた批判を強いるのならば、この仮想空間にせめてもっと手応えのあるリアリティを提示して欲しかったし、勇気やプライドの毒気と、優劣の価値観の押しつけにあてられて、逆に萎えてしまう自分のヘタレ加減に凹みこそすれ、ポジティブな心境には程遠い読後感でした。
グローバルスタンダード重視はわかるけど、オンリーワンは必要ない。 ナンバーワンでなければ意味がないという姿勢・・かな。 物語の根底に日本人の劣等感があるような気がして、そこも読んでいて息苦しさを感じる要因だったかもしれない。
玉石混淆の雑駁な文化の、無駄の中から生まれる何かを信じたい・・なんて言い分は、平和を享受している者だけが口にできる戯言以外の何ものでもないのでしょうか。
・・なんて、マジメに反応していていいのだろうか。 もしかすると、わざと反感を抱かせようという逆説的かつ実験的小説だったの? まんまと踊らされたのかな。
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茗荷谷の猫 / 木内昇
茗荷谷の猫
木内 昇
平凡社 2008-09
(単行本)
★★★★

初めて読む作家さん。 風情があってコクがあって良いお味でした♪ 植木職人たちが新種造りのロマンを追いかけていたころの染井村(今の駒込・巣鴨あたり)であったり、本郷、茗荷谷といった、昭和初期の文豪たちが愛した街であったり、終戦後の闇市で暗い賑わいをみせた池袋であったり・・ 東京の(昔の?)山の手を中心に、集落や住宅街を舞台にした9篇から成る短篇集。
江戸末期から昭和30年代まで、一篇ずつゆっくりと時を下って描かれる中に、時代を象徴するようなモノや場所や人物などが織り交ぜられていて、そこに暮らす市井の人々の哀愁がさざめいていました。
物語は少しずつ、ふとしたところで地続きになっていて、名もなき人々が刻んだ足跡を辿り、そんな人々が繋いできた名もなき歴史を追っていくかのような密やかな誘いもあったように思います。 なんだか太平洋戦争前夜に浅草の映画館の片隅で、映画に未来を託していたあの青年が、監督となって届けてくれたオムニバス映画を観ているような錯覚に陥り、ちょっぴりセンチになりました。 凄みのある笑いや滑稽な憐れみの中に、しんみりとした情趣が息衝いていて。
基本は短篇集なんだけど、読み進むに連れて、街や人の交叉が立体的になってゆき、過去の物語がどんどん深みを増していくという不思議な感覚を味わいました。 あの人やあの場所がこんなところに! みたいな細部に渡る仕掛けの楽しさや、もしやこの人は? みたいに詳らかにされない余白の魅力は、エンタメ的なお遊びに留まることがなく、骨太な物語に匂やかな陰影を刻んでいます。
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見知らぬ町 / 坂東眞砂子
見知らぬ町
− Coffee Books −

坂東 眞砂子
岩波書店 2008-11
(単行本)


[磯良一 画] 岩波書店の“Coffee Books”という叢書は初めて手に取りました。 “実力派小説家と気鋭の画家による花の競演” という惹句が目に止まります。 コーヒーブレイクのお供に。 気軽で、ちょっとビターで、ちょっとお洒落で。 そんな感じのコンセプトなのかな?
9篇のショートストーリー。 此処ではない何処かが垣間見える刹那、背中をザラリと撫でられるような悪寒と紙一重の甘美な気配。
薄ら寒いような、生暖かいような、殺伐としているような、ぬかるんでいるような・・ 奇妙な肌触り。 狂気を孕んだ停滞感と焦燥感が奏でる不協和音は、どこか遣る瀬なくて蠱惑的。
せわしなくガツガツとページを繰ってしまったので、挿画との親和や余韻を若干置き去りにして読んでしまいました;;  やっぱり、エアポケットのような時間にこそ相応しい本という気がします。 前にも書いてるけど、坂東さんは土俗的な話の方が良いな。
磯良一さんは、小川洋子さんの「夜明けの縁をさ迷う人々」の挿画を手掛けた方なのですね。 色を抑えた版画タッチの、ノスタルジーとシュールが混在したようなテクスチャーは、物語をこの上なくモダンに引き立てていました。
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消えた山高帽子 / 翔田寛
消えた山高帽子
− チャールズ・ワーグマンの事件簿 −

翔田 寛
東京創元社 2008-08
(文庫)
★★

[副題:チャールズ・ワーグマンの事件簿] 明治6年、激動期の日本。 横浜の外国人居留地界隈を舞台にした連作ミステリ。
探偵役のチャールズ・ワーグマンはイギリスのニューズ特派員として、幕末から明治の大変革期の動向や、日本人の暮らしぶりを精力的に海外へ発信した実在の人物なのだそうです。
日本古来と西洋伝来と、その接触によって生まれた和洋折衷の風変わりな文化とが、一見平穏に混在している風景の中から、不可解な事件が顔を覗かせます。 時代の変転と異文化の交錯に揉まれる人々を見つめるワーグマンの眼差しは、冷静で、あくまでも温かく。 事件解決後、本国に送る電文記事にはワーグマン流の検閲が入って、いつも真相が微妙にぼかされたりするのですが、そこに彼の優しさが集約されているような感じがします。
着物や骨董、ゲイシャなど、日本かぶれな西洋人とか、日本人を蔑んでいる神父とか、苦界に落ちた元武家の娘とか、生糸産業で浮いたり沈んだりする貿易商人たちとか・・ 役者は結構揃っているし、考証も手を抜いていないけれど、時代の奔流をこれ見よがしに描こうとしたり、蘊蓄をこねようとしたりといった力みがなくて、あまりガツらずに自然体なのが何だかよかったです。 正統派のミステリが背景や人物に支えられて綺麗に浮き上がってくるのが心地よくて。
医師のウィリスや居留地取締長官ベンソンといった探偵チームの脇役陣も、セオリー的な役割をきちんと果たしているのが嬉しくなってくるし、彼らが日本人と西洋人、どちらかに加担するような論法をとっていないのも気持ちがいいのです。
日常の謎的な表題作の「消えた山高帽子」が一番好きでした。 シェイクスピアと歌舞伎を絡めた趣向が楽しかったです。 ミステリなので悲しい話もあるんですけれど、読んでいてキリっと清々しい作品ばかりでした。
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