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宵山万華鏡 / 森見登美彦
宵山万華鏡
森見 登美彦
集英社 2009-07
(単行本)
★★★★

祇園祭宵山の一夜をめぐる物語。 “ぐるぐる回すといろんな形が見える”万華鏡のように彩られていく宵山絵巻。 祭りの非日常性が凝縮されているような、そしてどこか、祭りのソウルを鷲掴みにするようなイマジネーションの世界。
6つの短篇は2つずつペアになり、鏡像関係を描きつつ、それらが少しずつ浸食し合ったり、一見無関係な短篇同士がさらに表裏一体となっていたり・・ チーフさとディープさが混沌と絡み合う。
閉ざされた時空に封じ込められて、やがて向こうの世界とこちらの世界、陰と陽の尻尾を滲ませながら廻り出すような。 なんかふと対極図を思い描きました。
薄暗い水路を泳ぐ金魚の群れのように、赤い浴衣ををひらひらと棚引かせて雑踏をすり抜けていく女の子と、表と裏の宵山を行き来する乙川という不思議な骨董屋が物語の深部に存在し、狂騒の光と闇を乱反射させながら、祭りの奥深くに巣食う得体の知れないエネルギーを燃え立たせます。
絢爛たる空騒ぎと、ノスタルジックな物悲しさ。 燦然と妖しく蔓延する湿った熱気は細い街路にまで染み渡っていて、むせかえりそうでクラクラしました。 宵山スペクタクルを満喫♪
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ドイツ おもちゃの国の物語 / 川西芙沙
ドイツ おもちゃの国の物語
川西 芙沙
東京書籍 1996-09
(単行本)


[一志敦子 絵] ニュルンベルクやザイフェンなど、おもちゃの里の探訪記を交えながら、ドイツが育んだおもちゃの歴史を手引きしてくれる案内本。
殆ど写真ではなくてイラストで紹介されているんですが、読んでいくうちに全然違和感なくなってしまいます。 繊細さと素朴さを伝えてくれるイラストが“現実と空想の世界の橋渡し役”となって、心地よくおもちゃの国に誘ってくれるのでした。 写真も見てみたくなってしまったので、また今度♪
ケーテ・クルーゼの人形や、メルクリン社の鉄道模型、シュタイフ社のテディベアなどは有名(らしい)ですが、大人をも魅了するドールハウス、錫とブリキの意匠、仕掛け時計やオルゴール、復活祭のたまご芸術、今なお進化し続ける仕掛け絵本・・などなど、故郷がドイツであったり、ドイツの地で花開いたり、他国に移り住んだドイツ人がパイオニアとなったおもちゃは想像以上に多彩。
一番心惹かれたのは、エルツ地方に伝わる木彫りやろくろ細工の木工民芸品。 特にミニチュアセットの可愛らしさは格別なのだけど、ザイフェンにこれが多いのは、昔のおもちゃ職人たちの貧しさと無関係ではないのだそうです。
女の子の人形やドールハウス、男の子の鉄道模型や揺り木馬など、ケースに入れて飾られるだけではなく、手に取って愛されながら、家庭の中で世代を超えて手渡される本物の温もり。 精密で巧緻であって、なおかつゾリート(堅牢、頑丈)なものが多いドイツ。 おもちゃ職人にも適応されるマイスター制度が、文化伝承の大きな基盤となっていることを窺い知ることができます。
また、商業主義に操られざるを得ない現状に警鐘を鳴らし、本当に子供にとって相応しいおもちゃとは何かを模索するムーブメントという切り口で、おもちゃの位置づけを検証するなど、堅実な考察がなされています。
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人柱はミイラと出会う / 石持浅海
人柱はミイラと出会う
石持 浅海
新潮社 2007-05
(単行本)


ポートランド出身のアメリカ人、リリー・メイスが、交換留学生として姉妹都市の札幌で体験することになる不思議の国ニッポン。 東洋の神秘を地でいっちゃってるようなパラレル日本に、なんのかんの順応性を見せるリリーは凄いw
経済大国、技術立国として繁栄する一方で、人柱、黒衣、お歯黒、参勤交代などなど、古来の風習を現代風にアレンジした、やけに迷信深い暮らしぶりが、なんともグロテスクでシュール。
発想が面白かった 風刺味を含みつつ辛辣さはなくて。 思わず和みそうな、このぬくぬくの空気はなんなんだろう。
で。 因襲の中に潜む曖昧さや不透明さを隠れ蓑にした不正や犯罪を紐解いていく感じの連作短篇集です。 ずっと受け継いできて、いまさら? って、そこは突っ込んじゃいけないところね。
因みに探偵役は人柱職人さんw ちょちょっと差し挟まれるラブ要素が恥ずかしいw もっとガチなのを書く方なのかと思ってたら、これは緩めのミステリでした。
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じょなめけ / 嘉納悠天
じょなめけ 1巻 2巻 3巻
嘉納 悠天
講談社 2007-12〜2008-03
(単行本)
★★


日本近代出版の先駆者といわれる蔦屋重三郎の若き日の物語。 通油町に進出する前の、吉原大門の傍で書肆を開いていた20代の頃の蔦重です。 おバカでエッチで、でも男気があって、面倒見のよいエネルギッシュな若者です。
まだ無名の山東京伝(伝蔵さん)や、絵師のたまごの歌麿(勇助少年)、偉人なのか奇人なのか判然としない源内先生、定九郎で有名な初代中村仲蔵(蔦重の義理の甥ってホントなの?)など、脇役陣も豪華で、蔦重との絡みに笑ったり、ホロッとさせられたり。 もちろん舞台が吉原なので、綺麗な花魁との細やかな機微や、桃色絵巻なんかも盛り込まれていたりして。
元禄の最盛期から80年、活気を失くした吉原の再建を目指して奮闘する姿に惚れてしまいそうです。 吉原細見(吉原のガイドブック)のリニューアルに奔走したり、イベントを企画したり、宣伝攻勢かけたり、噂を逆手に取って巻き返しを図ったり、名プロデューサーの片鱗を遺憾なく発揮してます。
こうやって、人々の望むものを鋭く見抜く力や先見性を身につけていったんだろうな、そして少しずつ広がっていく豊かな人脈が、一つの財産になっていくんだろうなって・・ 未来の蔦重が自然と思い描けるようなストーリーテリング。 快作です。
全3巻で第一幕が終了。 第二幕はいつ頃が舞台なんだろうか。 突然オッサンになってたら寂しいかも;; ま、オッサンになってからが本領発揮ではあるんだが。

<ご参考>
蔦屋耕書堂 ← 蔦屋重三郎を紹介しているサイトさん。
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死体を買う男 / 歌野晶午
死体を買う男
歌野 晶午
講談社 2001-11
(文庫)
★★

江戸川乱歩の未発表作を匂わせる『白骨鬼』なる探偵小説を作中作に据えて、その原稿入手の経緯に絡んだ外側の出来事を同時進行で描く趣向のミステリです。
どんでん返しと共に二重構造が収斂されていく手練と、執筆に心魂を傾けずにはいられなかった作中作者の想い。 その辺りが読ませどころなんですけど、『白骨鬼』だけでも楽しかったです。 探偵役が乱歩と萩原朔太郎。 この2人、久世光彦さんの「一九三四年冬―乱歩」の中でも、忘れられないワンシーンがあって、お気に入りコンビ ちょうど「悪霊」の執筆に行き詰って出奔中の時期までも一緒
屋根裏の散歩とか、D坂とか、朔太郎の「月に吠える」とか、いろんなアイテムが要所要所に嵌め込まれていたり、ほどよい怪奇趣味な味つけもよき。 朔太郎の弾けた情熱と、気難しい小心者な乱歩の探偵遊戯がツボ
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夜想曲集 / カズオ・イシグロ
夜想曲集
− 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 −

カズオ イシグロ
早川書房 2009-06
(単行本)
★★

[土屋政雄 訳][副題:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語] 若き日のイシグロが、一時期ミュージシャンを目指していたことがあるという話は聞いたことがありました。
イシグロ初の短篇集は、音楽を介して綾取られる男女の物語。 “五楽章からなる一曲もしくは、五つの歌を収めた一つのアルバム”として、えもいわれぬ香気に包まれています。
一篇ごとに景色を変え、音色を変え、トーンを変えながら、遍く漂うのはほろ苦い余韻。 そして堪らなく甘美な何か。 遠い初恋へのオマージュのような、どこかに置き去りにしてきた夢の欠片への郷愁のような・・
淡々とした筆致の下に、極上のポエジーを輝かせた奏楽に身を委ねながら、記憶の地層を分け入って、胸の奥の忘れかけた疼きに触れてしまいそう。
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あやめ 鰈 ひかがみ / 松浦寿輝
あやめ 鰈 ひかがみ
松浦 寿輝
講談社 2008-10
(文庫)
★★★

年の暮の東京(神田や上野界隈)をさ迷う三人の男たちの三つの物語。 “ボロネオの環”というのですね。 どの二つをとっても独立しているのに、全体として一つの結び目を作って絡まり合う三つの輪のような物語。 あとがきの受け売りですが、ぴったりの表現です。
微かに地続きになる街とおぼろに交叉する人、多用されるメタファ、全体を覆い尽くす生と死のコントラスト・・ それらが分ち難く同調しています。 
主人公の男性たちは、都市の一夜の迷宮に嵌り込んで、それぞれの来し方と対峙することになるのですが、なんていうか・・ 街の白々とした喧騒やうら寂しい静けさと、彼らが醸し出す虚ろな浮遊感とが溶け合って、タナトス的な恍惚の世界に引き摺られるような感じ。
でも、死を強烈に意識する時、やが上にも生の実感が迸るのです。 生から死へのあわいを漂う“生成り”のような主人公たちの想念を追った道行き。 暗い輝きに満ちた生々しい幻視の世界です。 好き。
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鷺と雪 / 北村薫
鷺と雪
北村 薫
文藝春秋 2009-04
(単行本)
★★★

上流階級の令嬢である英子と専属運転手のベッキーさんを主役に配した昭和初期ミステリのシリーズ3作目にして完結作。
予約にうっかり出遅れた時は、呪いの言葉を吐きそうになったけれども、タイムリーに図書館の順番が回ってきました♪ 直木賞おめでとうございます 今頃、爆発してるかしら予約 ふふ・・(←鬼畜 ) 受賞本狙いで手に取られる方も、よかったら是非、1作目から読んでみて欲しいなぁ。 間違いなく流れがあるから。
はぁー。終わっちゃった。 唐突なラストが凄味を放ってるんだけど、読み終えて時間が経った今は、なんともいえないカタルシスです。 思えば、大人でも子供でもない少女期の煌めきと、戦争前夜のほんの束の間の華やぎを活写した三部作でした。 そのどちらもに否応なく終わりが訪れる時、物語の幕が引かれるのは不可避だったかもしれません。 静かな幕切れではありません。 女性への目覚めと、時代の刃が振り下ろされた鮮烈な断面を突きつけられる劇的な(そしてちょっと甘美な)終章は、むしろこのシリーズに相応しかったような気がしています。
ベッキーさんがさり気ないヒントを提示して、英子が推理する。 英子は狂言回しで真の名探偵はベッキーさんというパターンを踏襲しながら、主に日常の謎を解決していくシリーズですが、今回のミステリ要素は少し控えめかな。
それより、戦争に対するメッセージ性がより感覚的になっていて、明確な言葉が少ない分、ずっと深く刺さるように思いました。 所々に配置される暗示的な言葉は、物語のクライマックスへ向けて効果的に連動し、暗澹とした兆しを滲ませつつ、読む者の心に不安を呼び起させていきます。 それだけに、英子やベッキーさんの清冽さや、雅吉兄さんの人畜無害な温もりが際立ってくる・・切ない痛みとともに。
漫然と押し流される者、抗う者、諦観の中に沈む者、毅然と受け止めようとする者、切り開こうと立ち上がる者、それらが綯い交ぜになった割り切れさに苛まれる者・・ 荒波の予兆の中で、あまりにも無力な個人だけれど、様々な想いを胸に抱えた人々が間違えなく生きていたという当然の事実に、ハッとさせられるような瑞々しさです。 決して絵葉書の引き写しではない時代の空気が、隅々まで薫ります。
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鉱石倶楽部 / 長野まゆみ
鉱石倶楽部
長野 まゆみ
文藝春秋 2005-02
(文庫)
★★★★★

理科室で見つけた古い鉱物図鑑に導かれ、ゾロ博士の夜間学級に迷い込んだ二人の少年。 鉱石の神秘と戯れる至福のひと時でした〜♪
わたしたちの世界の鉱石と、それに呼応する“向こう側”の世界の鉱石と、そこから生まれたショートストーリーが相まって、ひとつの石のイメージがコラージュされていきます。 詩的な痕跡を随所に散りばめた18の石の18の物語は、少年たちの瑞々しく秘めやかな語らいと共に、石の発するひんやりとした静けさ、微細に揺れる色彩や質感を儚げに瞬かせています。
鉱石から水分を抽出して水飴やドロップを作ったり、発酵させてお酒にしたり、煎じて薬にしたり、細工を施して装飾品として珍重したり、しかも猫族や鳥族や、それぞれの使い道が違っていたりします。 この前読んだ「琥珀捕り」を思い出していました。 昔人たちが琥珀の効能とか起源とか、まことしやかに語ってたのが、向こうの世界の鉱物図鑑と不思議な符合を醸し出すのです。 ファンタジーと古のロマンが根っこを一つにする興趣に心が躍りました。
紫水晶(葡萄露)、水晶(氷柱糖)、蛍石(蛍玉)・・ それぞれの石はカラー写真で紹介されています。 視覚で堪能しながら、思わず舌先で転がしてみたくなるし、本に鼻を近づけてクンクンしたくなります。

<後日付記>
わたしが読んだのは図書館の単行本でしたが、返したその足で文庫版を即購入。 単行本未収録の「砂糖菓子屋とある菓子職人のひとりごと」が併録されていて、鉱石の“美味しそう”がまさに結晶化していました♪ 巻末には掌編エッセイ「石を売る舗」と鉱物ショップ案内もパワーアップ。 行ってしまいそうだ
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どこから行っても遠い町 / 川上弘美
どこから行っても遠い町
川上 弘美
新潮社 2008-11 (単行本)


とある街の住宅街や商店街を背景に、そこに暮らす人々の群像を描いたオムニバス短篇集。 都心からほど近い街。 今では下町と呼ばれているけれど、明治、大正の頃はむしろ、山の手に近い場所だったという記述があります。 小さな商店も元気で、こぢんまりと活気のある気配。
あの辺かな? なんて想像を巡らせながら読んでいたのですが、いつの間にか、何処とも知れない場所にぼんやり佇んでいる自分に出逢ってしまうような。 人と人の関係性が何処となく浮世離れしている印象なのに、見えない細い糸を縺れさせながら、家族、友達、恋人、知人、死者までもが連なって、街の輪郭をやおら浮き上がらせていく。 存在しているだけで、何かを選び取って生きているんだという言葉が胸を突きました。
なんでもない日々の営みの中で、束の間沸き立つ淡い感覚や、ざわざわと交叉する感情の残滓など、シンパシーを抱く断片はそこかしこにキラキラしていて流石。
手に余る想いとの付き合い方が上手い。 あやうい幸福感を舵取る生き方が達者過ぎて・・ みんな大人。 もっと格好悪くてもいいのに。 特に高校生なんか・・ とちょっぴり思った。 最初期の川上作品ファンとしては、好み路線とズレてきている(?)のが少し淋しいのですが、構成といい、味わいといい、熟れていて見事です。
女将の央子さんと、板前の廉ちゃんの物語、「四度目の浪花節」が一番よかったなぁ。
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