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ダブル・ジョーカー / 柳広司
“魔王”こと結城中佐率いる帝国陸軍秘密諜報機関“D機関”の暗躍を描いて喝采を浴びた「ジョーカーゲーム」の続編です。 帝都東京、中国大陸の前線部隊、仏印(フランス領インドシナ)、ナチス政権下ドイツ、アメリカ西海岸と舞台を移し、今回も多角的スケールで、太平洋戦争前夜の水面下の緊張を活写します。 小気味よく切れ味よく、相変わらずスタイリッシュ〜♪
戦局に翻弄される軍人や庶民の足元の感情にスポットを当てることで、パーソナリティを捨てた男たちのクールな生き様がより深い陰翳を刻む・・というテクニックが前作以上に端的に顕れていた印象です。 ドイツ人スパイハンターのヴォルフ大佐の回想によって、“魔術師”の異名を残した現役時代の結城中佐を垣間見れたことがファンには美味しかった^^ 鉄壁の仮面から僅かにこぼれ落ちる人間味・・そこが堪らんシリーズでもあるんだなぁ。
日本の敗戦を冷徹に見越した上で、自国の被る不利益を食い止める観点から、太平洋戦争を回避させるべく、帝国陸軍やヨーロッパ諸国やアメリカの動向を適宜に捉え、開戦へと傾斜させようと蠢く不穏な目論見を速やかに潰してきたのでは・・ それがD機関の(結城中佐の)究極の指針ではなかったでしょうか。 悲しいかな日本に結城中佐は一人しかいなかった・・ということか。 そして病気や不慮の事故はD機関を持ってしても回避することはできない・・そこに否応ない人間の限界が、歴史を狂わす罠が、あるのかもしれません。
平時におけるスパイ技術“死ぬな殺すな”の理念のもとで華麗なる暗躍を見せてくれたD機関は、開戦と共にその役目を終える・・というニュアンスで締めくくられた第2弾でした。 なんともほろ苦い幕切れです。ぐすん。


ダブル・ジョーカー
柳 広司
角川グループパブリッシング 2009-08 (単行本)
関連作品いろいろ
★★
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当世浮世絵類考 猫舌ごころも恋のうち / 蜜子
ほの淡く腐の薫る浮世絵師物語♪ 春信、歌麿、写楽、北斎、国貞、国芳、広重、暁斎、芳年・・ 江戸後期から明治初期に活躍した浮世絵師がザックザクw 萌え要素を前面に押し出して煮詰めて凝縮させたキャラがバリ立ちです。 大満足の面白さでした。 絵がムンムンと可愛いよぅ。
“浮世絵や逸話から想像を膨らませて絵師の心情を考察する”という作業を作者さんがきっちり踏んでおられるので、とっても説得力あるんです。 浮世絵師たちの逸話に因んだ掌編集なのですが、お友達関係がまたよろしくて。 まず、人物紹介を見て、相関図を見て、ニヤニヤ面が元に戻らなくなるの。ぐふふふふ・・
戯作者の馬琴が友情出演してるんですが、北斎×馬琴のキャットファイトが心擽ります。 いいぞっ! 馬琴っ! ナルシーでマザコンだけど実は意外と硬派な歌麿や、暗黒面に揺らめく鬱気質の芳年や、ちょっぴり天然系のトロさがカワユい広重や、それから国芳門下の落合芳幾って初めて知ったんですけど、クールなメガネ男子なのに師匠愛に厚いところが( ´艸`) 鳥居清政説を採用した泣き虫ヘタレ写楽や、国貞のちょっと性格悪いんじゃないの系も何気にお気に入りw
今、小さい国芳ブーム来てません? この漫画でも国芳は中心的存在として描かれていて、河治和香さんの「侠風むすめ」に始まる国芳一門浮世絵草紙シリーズに出てきたエピソードのあれこれがここにも! ってことは創作ではなくてしっかり典拠があったのかー! と今更気付いて感動してました^^; 「猫絵十兵衛御伽草紙」の十兵衛の師匠も国芳がモデルだし♪
でもね。ニヤニヤして油断してると、歌麿の「女姿」の蔦重の台詞がジーンと沁みたり、暁斎の「子どもの気持ち」にはうっかり泣いてしまった><。 ペーソスの混ざり加減も程よかったと思う。
月代のお兄さんが出てくるだけで3割り増しくらいにテンションが上がってる自分は確実にハゲージョ認定だと思った。 ハゲージョはマイノリティに違いないと自覚はしているのです。ちゃんと。 でもこれ続編出て欲しいよぅ。ハゲしく切望。
北斎と同棲中の英泉と、写楽の世話女房の十返舎一九ももっと出してー。


当世浮世絵類考 猫舌ごころも恋のうち
蜜子
ふゅーじょんぷろだくと 2009-10 (単行本)
関連作品いろいろ
★★★
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宇田川心中 / 小林恭二
黙阿弥×近松っぽい感じ? 歌舞伎へのオマージュのような・・伝統的な江戸狂言の世界観を体現したかのような作品なんですが、ラストはカタストロフィというより、もっともっと救済のあるロマンティックな愛のイデアに仮託されていくのが素敵。 渋谷センター街を歩く少年少女が“袖振り合う”シーンにキュンとなりつつ、芝居を観終わった時のような充足感が胸に広がっています。
ごく普通に小説として読んだら、もしかすると入り込めなかったかもしれないんだけど、物語を俯瞰する神の目線を持った静かな語り手と、今生という短い幕間劇と永劫の魂の流離いを演じる役者のような登場人物たち。 そんな戯曲めいた構成が物語世界と見事なまでに調和していました。
悲劇の恋に身を滅ぼした娘を想い、恋に呪いをかける鎌倉時代の山賊、大和田道玄。 和田の合戦に連坐して落魄れたものの、元は武士であった道玄が、谷だらけの渋谷の地形を生かして張り巡らせた洞窟の地下要塞。 その上に建立された道玄寺は、恋に破れし者の鎮魂を目的とした日本でただ一つの寺といわれている。 土地と人の因縁が錯綜する地場に亡者のように立ち現われていく懊悩・・
江戸末期を生きる登場人物たちの運命が、道玄寺の奥院(元の地下要塞)にある寺宝“荘厳の鉦”をめぐる因果応報の闇に呑み込まれていきます。 不条理な運命に弄ばれる地獄めぐりの人生。 業火に焼かれながらあまりに無力で小心な悪党たち。 鎌倉から江戸へ、数百年の時を超えて廻る因果の末、恋に惑う者たちの罪業が愛の祝福に転化されていくスペクタクルに痺れました。


宇田川心中
小林 恭二
中央公論新社 2007-03 (文庫)
関連作品いろいろ
★★★
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日本文学者変態論 / 爆笑問題
日本史原論シリーズの文豪篇。 日本近代文学の歴史の中から24人の代表的な作家がピックアップされ肴にされています。 田中さんが文献資料に基づいた作家の横顔(波乱の境遇や内面の苦悩)を紹介し、太田さんが塵芥の茶々を入れ・・という掛け合いパターンで展開されますが、田中分担が真っ当に機能している本なので、初心者には取っ掛かりとして適書かなと。 普通に広く浅く一般常識の範囲内なので、踏み込みたい向きには物足りなさが残るかもしれません。
太田さん、ボケの合間に鋭い爪を見せてくれてもよかったかな・・と考えつつも、あえてナンセンスなボケに徹してるところに厭味なく笑える空気があったかも。 どーでもいいけど下ネタちょと多め^^;
で、個人的には太宰にビビっと来ました。 ここまで来るともはや喜劇のにおいが。 イヤだねぇ、この男。 母性本能が疼くんだよクソッ。剣呑。剣呑。 ロンドン留学時代の夏目漱石とか、尾崎紅葉と泉鏡花の師弟萌えとか・・ エンタメ度の高い小説の中に、そういえばこの時期のこの作家がチラっと登場していたなぁ〜なんてことをいろいろ頭の隅に浮かべながら読みました。 下層社会に紛れて生活していた頃の二葉亭四迷が出てくる話もどこかで読んでる気がするんだけど思い出せず。
そういえば太宰治の生誕100年に当たる今年。 この機会に3冊くらいは読みたいものだと目論んでいたはずなのに、蓋を開けてみればゼェロォ〜。 漱石、鏡花、賢治、それに安部公房・・年初の抱負が痛すぎる;; 今年も読む読む詐欺発言をよくも繰り返したものだと、ちょっと早めの振り返りモード。 せっかくここで喚起してもらえたので、滑り込みを画策したいところです。


日本文学者変態論
爆笑問題
幻冬舎 2009-03 (単行本)
関連作品いろいろ

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奇術師 / クリストファー・プリースト
[古沢嘉通 訳] プリーストを読むのは「魔法」に次いで2作目なのだけど、SF的な小道具を洗練された幻想文学の中にシンボリックに映し込む手法とか、地に足のついた日常が眩惑的な空気に浸食されていく不穏感とか、読者を惑わす騙りの技巧とか・・ プリースト色がちょっと見えてきたかも。 なんて。 独特な肌触りに改めて感じ入りました。
19世紀末から20世紀初頭に“瞬間移動”のマジックで一世を風靡した二人の英国人イリュージョニスト。 長きに渡り敵対していた彼らが残した著書と日記を読み進める新聞記者のアンドルー。 現代を生きる外側の語り手の運命が作中テキストによって翻弄され、やがて衝撃の結末へ。
ゾクゾク感とエーッ?ってなるのとが相俟って、ざわざわと心掻き乱される終幕。 (これって、金貨の偽造が伏線になってましたね。凄っごい違和感あったのにぃ!)
とにかく、ボーデンの著書もエンジャの日記も、自分の見せたいものだけを見せることに長けた奇術師に相応しいミスディレクションが仕掛けられていて、それぞれの瞬間移動の奥義に絡んで故意に重要な情報がぼかされているのです。 二人の奇術師の宿命的な確執とプライドをかけた意地の張り合いの連鎖にぐいぐい牽引されていく物語の力も凄かったし(この辺り、むかーし読んだアーチャーの「ケインとアベル」を思い起こしたなぁ)、なんといっても600ページに渡り、読者の意識を喚起し続ける種と仕掛けの構成力に酔いました。
存在の本質的なジレンマ、実際に目に見えていることは行われていないというマジックの法則・・といった隠喩的なイメージが派生し変奏し、秘かな暗示に満ちたテーマ性を醸し出していそうな気配。 掴み切れないのが心許無いのだけれど、こういう芳醇なもやもや感はイヤではありません。
電気の発明に沸いた時代、電気仕掛けのパフォーミングアートといった演出は、やはり当時の舞台の呼び物だったんでしょうか。 また、降霊会が真っ盛りだった時期でもあるんですね。 科学と超常現象が混沌と入り乱れている世紀末世界の隙間を縫うように奇術師たちは華々しく妖しく雄飛し、発明家のニコラ・テスラ(伝説多き実在の科学者でエジソンのライバル)はぶっ飛んだ奇才っぷりを発揮して、トリックと超科学が奏でる魅惑の物語を結実させています。


奇術師
クリストファー プリースト
早川書房 2004-02 (文庫)
関連作品いろいろ
★★
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大奥 第五巻 / よしながふみ
綱吉の治世の続きです。 戦国の血生臭さが払拭され、世の中は武から文へ。 元禄真っ盛りです。 そして大奥もまた、奢侈に傾いていく正史の流れを男女逆転の世界の中でも見事に掬い取って見せてくれています。
政から遠ざけられ、世継ぎを産むことに専念させられた綱吉の、女将軍ならばこその魂の慟哭。 そこにはまるで遊女のような悲哀が漂います。 反目していた右衛門佐が、気だるげで投げ遣りなポーズの裏に、死に場所を求めるかのように生き続けている綱吉の闇を覗いてしまった一夜の・・ 束の間、心の契りを交わし合う名シーンは、熱く語り出したら止まらなくなってしまいそう。 高熱の最中に走馬灯のように廻る綱吉の回想シーンも、ひとつひとつのカットが無性に沁みてきます。
本巻のもう一つの目玉はやはり忠臣蔵。 それまで残っていた男系奨励政策が廃止され、武家の女子相続が決定的となり、男女逆転が徹底されていく契機として赤穂浪士の事件が活かされているシナリオの運びが上手いですねー! そしてこの事件の采配において、綱吉から発せられる言葉には、政にも俗世にも惑わされない(それ故に受け入れられない)、シンプルに本質を見抜く鋭さが垣間見えるのです。 これすらも哀しい・・
しかし、一巻目で主役を張った吉宗へと続いていくストーリーの円環を感じさせるラスト。 綱吉と少女期の吉宗とのただ一度の邂逅シーンは、愁いのベールを纏った綱吉の生涯が、突き抜けたところから差し込む光の中に救済されるような余韻を残します。 今までで一番心に響く巻だったな。わたしには。


大奥 第五巻
よしなが ふみ
白泉社 2009-09 (単行本)
関連作品いろいろ
★★★
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それゆけ、ジーヴス / P・G・ウッドハウス
[森村たまき 訳] 完璧な執事のジーヴスと不甲斐ない若主人バーティの名コンビが活躍するシリーズ2冊目(翻訳本の順番では3冊目)の連作集です。 10篇のうち前半の5篇は、前作「比類なきジーヴス」の諸短篇に先立って雑誌発表された作品群なのだそうで、果たして1篇目はジーブスとバーティの出逢いとなるジーヴス登場(降臨!)シーンから始まっています。
サー・ロデリック・グロソップの娘のオノリア・グロソップ嬢とバーティとの婚約破談を画策する話はうっすら記憶に残っていたのですが、今回は旧友と(またもw)グロソップ嬢との婚約破談を助けることになる話が収録されていたり、他にも前作の後日談的な部分にニヤリとできる構成になっているのではないかと思われます。 己の忘れっぽさが痛過ぎて、3冊目はなるべく時間を置かずに読もうと決心を固めました。
記憶の中ではもっとジーヴスが黒っぽかった気がしてたんですが、免疫ができたせいかな、今回はそうでもなくない? ちゃんとバーティの利益に則して動いているっぽいし・・なんて思いきや、ラストのジーヴス視点を用いた変則的一篇によってジーヴスの心の裏が垣間見れちゃいました! パーティの悶える姿が見たかったんですねジーヴスw
なんといっても手綱を握っているのはジーヴスで、その掌中にすっぽり納まってしまうバーティ。 2人とも蜜の中にいるように幸せそうです・・と脳内腐センサーをプルプル震わせていていいのだろうか;; ま、アガサ伯母さん曰く、“バーティはふにゃふにゃの無脊椎動物でジーヴスはバーティの飼育係”ですから^^
友人の窮地を救おうとして、古き良きブルドックの勇気を振い起すも空しく、のっぴきならない状況に巻き込まれて、スープに眉毛の上まで浸かってヘロヘロになっているところを危うくジーブスの知略によって救出されるパーティ・・みたいな王道と、持って回った英国的言い回しに何時の間にか酩酊しています。 “窮地”といったって、お金持ちの伯父さんや伯母さんを収入源に確保できるか否かの瀬戸際とか、そんなんばっかりのナンセンスさが堪らなく好き。 訳者の森村さんが“知恵の砥石たる愛すべきおバカのサンプリング”といった風な形容で称賛されていたのが頷けます。


それゆけ、ジーヴス
P G ウッドハウス
国書刊行会 2005-10 (単行本)
関連作品いろいろ
★★
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あの子の考えることは変 / 本谷有希子
あぅ〜若者よ。。。 独特のドライブ感というかグルーヴ感(!)のある純文学崩れっぽさが、微妙に毒々しくて清々しくて、気持ち悪かったです(褒めてます)。 本谷さん触ったことなかったんですけどエッグい洗礼を浴びました。
アパートの一室で共同生活を送る二十代前半の女子。 ダブルのアンチヒロインのかな〜りアウトなセルフイメージが暴走し炸裂しています。 もう、おまいら、ドンツキまでいっとけ^^; でもセンチメンタル過剰は卒業してるので、その辺はヤケにドライだったりするところに一抹の哀愁があるんだよねぇ・・
同居人の日田を変人だと小馬鹿にしている巡谷視点なのですが、その巡谷の考えることも実は変で、さらに巡谷は日田に憐れまれていたりもするという、目ク○鼻○ソ持ちつ持たれつなのが読んでいるうちに少しずつわかってくるのです。 二人の間に潜在する純な交感の一揺らぎも。
エネルギーの半端なさ(そしてその狂った使い道)や、細部に異様にフォーカスされた微視的感覚や自意識異常というのは、若者の特権という気がするし、自己と他者や社会との間のデリケート過ぎる違和を持て余して墓穴を掘るようにもがいている感は個人的には買いなんだけれども。 この子たちが自分の世界に浸透してくるのを思わず拒みたくなるのは、何かのセンサーが反応してる証拠なんだろうなきっと。 日田を変人視してアイツよりはマシと思っている巡谷をお前も変だよと指摘する読者のわたし・・を見ている誰かも確実にいるわけで。。。
自分のダメさを分かっていてもどうにもならなくて、理由を見つけて安心したい。 何かのせいにしたい症候群・・なのかな。これも一つの。


あの子の考えることは変
本谷 有希子
講談社 2009-07 (単行本)
関連作品いろいろ
★★
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浮世女房洒落日記 / 木内昇
浮世女房洒落日記
木内 昇
ソニーマガジンズ 2008-12
(単行本)
★★★★

作中作の趣向を利用して、江戸後期を生きた町屋の女房の“架空の手記”という遊びを含ませた作品に仕上げられています。 そのせいか後世の創作臭さが何処となく漂う気がするのもオツなんですよねぇ
神田のとある長屋の表店で、小間物屋の小商いをしていた一家の女房のお葛さん(27歳のちょい年増)の目を通して、世知辛くも微笑ましい長屋暮らしのよしなし事が日めくりのように綴られています。
もうねぇ。古川柳や古典落語の風景そのまんまなんです。 “紅葉狩り、行ってくっかなぁ〜”ってキョドり気味の亭主が言い出した時は思い切り吹いてしまいました。(←「風流江戸雀」ご参照) カラッと小粋で温かくて・・笑う門に福が来ちゃってる感いっぱいです♪
帳面と睨めっこしては頭を揉み、家事に育児に精を出し、ぐーたら亭主の尻を叩き、日々、うつつに打たれて逞しくなっていくばかりのお葛さんですが、時には火事場見物で火消しの男っぷりにポッとなったり、お肌のお手入れは余念なく、甘味やお喋りの誘惑も尽きることがありません。
働き者の清さんと、お年頃のさえちゃんとの恋路の行方にヤキモキしたり、糸の切れた凧のような亭主へのぼやき節がまたよいんだなぁ 喧嘩っ早くて忘れっぽい江戸っ子の吹き流しっぷりに怒れども怒れども笑いの種になるばかり。
四季折々の節句や諸行事、暦に合わせて市が立ち、季節によって様変わりする屋台や振り売りの声・・ 春夏秋冬の風物詩を愛でる当たり前の感覚が、慎ましくも活気に満ちた営みの中にキリッと溶け込んでいます。
特別なことが起こるわけじゃないんだけど、毎日の他愛のない喜怒哀楽と共に、人の情が廻り廻っているのが見えるようだ・・ 身過ぎ世過ぎの勘どころがしっかりと埋め込まれているような。
泣き笑いしながらほっこり読めて、じんわりと滋味深い。 「茗荷谷の猫」に続いて大好きな一冊となりました〜。
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シカゴ育ち / スチュアート・ダイベック
シカゴ育ち
スチュアート ダイベック
白水社 2003-07
(新書)
★★★

[柴田元幸 訳] 最近、読書の時間作りができなくなっていて、ちまちまと細切れに読んでいる状況です そのためか、どうにも終始モチベーション不足なのが辛いところ。 この本は一気に読みたかったかも・・と思いました。 絶対に味わい尽くせてない自信があるので、いい小説なだけに心残りなのです。
独立した短篇集ですが、シカゴという街を主人公に据えた連作の趣き・・を通り越して、一篇の作品として結晶化しているというか、ひと続きの街が一断片によって結びつき、泥臭くて美しい、不思議な奥行きと広がりを見せてくれるのです。
イメージを立体的に膨らませて頭の中に街を構築していく作業に、あぁ〜、もっと没頭したかったです。 それでも、生きたことのない時代の、行ったことのない街の気配が、脳裏に充満してくる感覚は得難いものがありました。
1950年代(あるいはもう少し後?)のシカゴの下町を舞台に、東欧系移民(大体三世くらい)の少年たちのリアルな息遣いが活写されているのに、なんでこんなにも詩的なんでしょうか。 瓦礫と化した過去と拘束に過ぎない未来の狭間で迷子になっているような心許なさと、風が吹き抜ける一瞬、心に留め置く輝きを謳いあげた力強く繊細な、まさに詩のような作品でした。
ガード下の音楽、工業廃棄物の臭い、ダウンタウンの高層ビル群、偏見や貧困、ポンコツ車でかっ飛ばす湖岸高速道、ワイルドなブルース・シャウト、ホワイトソックス、酒場のデュークボックス、ラジオ、ドラッグ、ロックンロールとポルカ、やがて伝説となる噂・・
移民たちの民族的な血と、アメリカンなニューウェーブによって織り成された、移ろいゆく一時代の風景です。 叫声や軽口に取り紛れて、その奥でひっそりと深く悲しい思いを共有しているような雰囲気が通奏低音のように響いている・・
「冬のショパン」と「荒廃地帯」が大好き。 ただしつこいようだけど、親和しきれずに掴めそうで掴みそこなった短篇を放置したまま読み進めてしまいました。 集中力不足(ばかりでもないけど;;)が悔やまれます。
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