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謎解きはディナーのあとで / 東川篤哉
流行りの美味しいミステリ系? と早とちりしておりましたが違いましたね。 これは・・執事&眼鏡萌えの向きに美味しそう(?)ではありませんか。
狂言回しを務めるのは国立署の刑事であり、大財閥のお嬢様(にしては相当にガサツ;;)でもある宝生麗子。 その上司でピエロ役を務める風祭警部は、成金趣味をチラつかせるそこそこの自動車メーカー御曹司。 麗子に仕える慇懃無礼な執事の影山が(銀縁眼鏡の縁をちょいと持ち上げながら)安楽椅子探偵役となって真打ちを務めます。 かなーり不遜なこの3人のメンバー構成を軸に展開されるユーモアミステリの連作集。
アウトラインとしては、捜査現場での麗子と風祭警部による(真相の半径5メートルあたりを右往左往するような)報われない絡みが前半にあって、後半は謎を引き摺ったまま私的スペースへ舞台を移し、“あなたの推理を聞いてやってもいいわ!”的なお願いを試みる麗子をチクチクいびりながら影山の鮮やかな謎解きが開陳されるというパターン。
捜査手順や検視の情報に基づいたアクチュアルな部分は、本格仕様で極端にデフォルメされているし、事件関係者もまるで記号のようだし、アンチ“人間が描けているミステリ”かっつーの!(麗子の真似っこしてみました)ってくらい突っ込みどころ満載なのですが、その辺は殆ど気になりません。
むしろわたしは、風祭警部×麗子、麗子×影山におけるSM的なポジショニングがちょっとギクシャクしているというか、型崩れしているところに気難しくなってしまったかも。 ボケとツッコミのバランスがよろしくないので、せっかくの掛け合いが何処となく締りに欠けてしまうのが勿体無いなぁと思うし、なにより惜しいのはその為に、要となるはずの影山の造形がピンボケしてしてるところです。
でもでも! そんなこと全て不問に付したくなるくらいには推理パートが満足でした。 華々しいトリックで読者を煙に巻くようなことのない、小粒ながら堅実な謎解きものです。 提示される手掛かりを頼りにコツコツと理詰めで真相に迫る、意外性に頼らないタイプの本格ミステリを堪能しました。 なんなんだよ。この得体の知れない緩急は^^; いいなぁ。東川さん!


謎解きはディナーのあとで
東川 篤哉
小学館 2010-09 (単行本)
関連作品いろいろ

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日本人の知らない日本語 / 蛇蔵 + 海野凪子
[副題:なるほど〜×爆笑!の日本語“再発見”コミックエッセイ] 脳がいい感じで活性化されて気持ちがいいです。 日本語学校の教師をしている凪子先生の、日本語教育の現場から提供されたエピソード(勝負ネタです!)をイラストレーターの蛇蔵さんがコミック化。 ツワモノな生徒たちと繰り広げる無国籍でカオスな珍風景と日本語トリビアを選りすぐったエッセイ。 話柄と絵の相性が抜群ですねー。
日本文化の不文律を無視した掟破りで予測不能な言動が、教室中のあちこちから容赦なく飛び出す毎日に、たじたじになりながらも懇切丁寧に応えようと奮闘する凪子先生の姿勢が微笑ましいです。
ある意味“空気を読む”とは対極的境地。 “お約束”に目を瞑らないということは文化が成熟すればするほど困難になっていくように思いますが、いわゆる異文化コミュニケーションとは、そこの盲点に光を当ててくれる絶好の場なのですよね。 自分の属する文化を相対化して客観視することで得られる再発見には、固定観念が覆される驚きと快感が伴います。 目から鱗がポロリポロリ♪
素朴な疑問ほど鋭いもので。 真摯に答えようとすれば、カタカナ、ひらがな、漢字の起源やら、言葉の語源やら、文法・語法の成り立ちやら・・の領域にまで自ずと踏み込んでいくことになっちゃうんです。
“お”と“を”をめぐる遍歴が面白かったなぁ。 時代によって全く境遇が違うんだね^^; あと、生徒たちが意外とカタカナに手こずるというのも、いわれてみればさもありなんという感じで同情を禁じ得ないものが。 文字や言葉の変遷って実は結構アバウトなことにウケる。 生き物なんだと大いに実感できました。
“私はジャックと思います”と弱気な自己紹介をしてしまったジャックさん(申しますと言いたかった気持ちは凄ぉーくわかる!)や、○だらけの答案にショックを受けて落ち込んでしまうマイケルさん(○×記号の概念が日本と逆の国って結構多いんですね)や・・ うーむ、あまり書くと興を削いでしまいますね。 趙さん好きですw
ここに登場する生徒たちはカリチャライズされていますが、学ぶ気いっぱいの健気さと、それゆえの天然の可愛らしさを併せ持っていて、ついつい応援したくなっちゃいます。 これは日本の日本語学校の逸話ですが、所変われば・・と、ふと我が身に置き換えて想像してみると、生徒たちに一段とシンパシーを感るのではないでしょうか。 他人ごとではなかろうなぁ〜と^^;


日本人の知らない日本語
−なるほど〜×爆笑!の日本語“再発見”コミックエッセイ−

蛇蔵 + 海野凪子
メディアファクトリー 2009-02 (単行本)
関連作品いろいろ

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壊れやすいもの / ニール・ゲイマン
[金原瑞人・野沢佳織 訳] 様々な媒体に発表された詩と短篇を詰め込んだ作品集・・といってしまっては身も蓋もないのですが、テーマありきというよりは、集めてみたら共通項として浮かび上がってきたのが“壊れやすいもの”でした、って感じに近いかな。 物語は壊れやすく、そこに描かれる人の心や夢もまた儚いけれど、物語によって人生の一頁がどんな風に色づいたかを想う時、儚さは強さへと変容するのだと信じて、熱いハートを文字に乗せるゲイマン。 比類なき物語り巧者が紡ぐ、小品ならではの妙趣をたっぷりと味わい尽くせる一冊♪
きめ細かい気配りで構成され、陳列された31篇は、SF、ホラー、ファンタジーのジャンルを股に掛けながら、ゴシック、ノワール、官能、ユーモア、諷刺・・と、多種多様な彩りで味付けされています。 全篇を通して澱みなく香る詩情。 一筋縄ではいかない機知。 そして可視化され難い感情の渦が物語の深部で息を詰めているような気配に、胸がぎゅっとなる感覚に見舞われたり、気持ちを掻き乱されたり。 陰翳に富んだ物語世界にずぶずぶと埋没いたしました。
イギリスで暮らした過去と、アメリカに暮らす現在と。 記憶や、そこから育まれた空想、素養、培った感受性の全ての堆積が、当たり前なんだけれど強靭なバックポーンとなっているのだろうなぁと。 そこからゲイマンをゲイマンたらしめる配合比が導き出され、この世界観が形作られているのだなぁと、感慨に耽ってしまいました。 物語とは心の共鳴装置であるという考え方に、なんかこう、求道的なまでに立脚している気構えが、世界観のブレのなさに繋がっているのかな。
太古の昔から繰り返される怪物と人間のせめぎ合いというモチーフや、神と悪魔の鏡像関係に切り込んだテーマ性が印象深かったです。
大好きなのは、シャーロック・ホームズがH・P・ラヴクラフトの世界に遭遇する「翠色の習作」、異形のサーカス団が、地下の穴蔵の夜の夢劇場で持て成す「ミス・フィンチ失踪事件の真相」、散文詩のようで、そしてどこかサイレント映画のような香気を纏う「ハーレクインのヴァレンタイン」、「ナルニア国物語」のスーザンの処遇をめぐる考察を滋味深い物語に昇華させた「スーザンの問題」、ラストの抒情と余韻が堪らんかった「ゴリアテ」、父と娘がおとぎ話を共有する原風景が愛おしい「髪と鍵」なとなと他多数。
現実と幻想の概念が逆転している世界を皮肉とユーモアで描いた「顔なき奴隷の禁断の花嫁が、恐ろしい欲望の夜の秘密の館で」や、「アメリカン・ゴッズ」(未読です;;)から二年後、スコットランド滞在中のシャドウを描いた「谷間の王者」辺りもめっちゃ好み。 「コララインとボタンの魔女」は間違いなく「メモリー・レーンの燧石」に登場したイギリスの古い邸宅に触発されて書いたのでしょうね!って発見が嬉しい。


壊れやすいもの
ニール ゲイマン
角川書店(角川グループパブリッシング) 2009-10 (単行本)
関連作品いろいろ
★★★
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黒と愛 / 飛鳥部勝則
かつて怪奇趣味風アミューズメントパークとして改装されたという奇傾城。 その廃墟は、禍々しい悪夢の展示品や、密室怪死事件の謎や、首切り幽霊の噂で飾り立てられ、毒々しさを瘴気のように纏っています。 オカルト系特番のため、ロケハンに訪れた地方テレビ局の一行の前に威容を顕す禁断の魔窟・・
マッドサイエンスを軸に、ありとあらゆる暗黒面が総出で舞台を凌辱します。 ゴス風コスチュームを纏った退廃者のアイドル的存在の美少女に、どいつもこいつも陶酔していくロリっ気たっぷりな展開からしてドンビk・・いやその、敷居を感じるのですが、ホラーとミステリの融合ものは多々あれど、言ってしまえばその極地圏的作品です。 ぶっちぎっております。 バッドテイスト炸裂です。 いっそ爽やか。
ケレンに満ちたB級っぽさや、レプリカめいたモダニズムなど、“怪奇博物館を遊園地と形容する感覚の狂い”にも似た空気が作品全体を覆っていてクラクラさせられますが、ラノベといっても通りそうな、この独特の厚みのなさによって胃もたれする脅威にはなっていない。 飛鳥部さんは2作目ですが、このチープなアブナさが癖になる。
聖性と背徳の被膜で遊ぶような象徴的モチーフや、往年の怪奇小説へと連想を繋ぐ小技や小道具がサブリミナルの如く散りばめられ、インテリ的ともいえる衒学趣味が鼻持ちならなく香っている辺りがよいお出汁になっております。
ミステリパートも、who、how、why、成功しているかどうかはともかく、それぞれに入魂の仕掛けといっていいと思います。 (→ 以後、熱くなってますので未読の方はご注意を!)
欲を言えばwhoに関して、もうちょい鮮やかな真犯人の伏線を頂きたかったかなぁ。 自分が鈍チンなんだろうけど、やられた!って手応えが全然なかったのがショックで。 てか、その前段の叙述を黙殺したい気分だったからなおさら真犯人に縋りたくなってしまったのかも;;
howの開陳の時間差的捻りが一興で、薄々読者が感づくのも計算済みと思われ。 ははん、さてはアレを使った超絶物理トリック?(って目星をつけても、やはりイリュージョン張りのバカミスの絵解きには何時だって心躍ってしまうのさ・・フフッ)、ということはつまり、犯人はアイツに違いない・・と、まさしく“名探偵もどき”の発想へと誤誘導されてしまいました。 でも、ここもちょっと一言あって、いくら“名探偵もどき”であれ、アリバイのために密室を作ったとする論理がハナから破傷しているってどうなんだ?
怪奇幻想系の土壌だとやり易いというのはあるのかな。 本格ミステリの割にwhyが有効的に機能していて、なお且つ鬱陶しくないという点も好感触。 終幕の“殉教者的情熱”の逸話が意味深で、物語に一縷の抒情的余韻を添えているのが巧いです。 ラストは仄かに希望的ではあるんだけれど「カタストロフ体験で黒から白へ反転する危うさ」も一服盛ってあるだろうか? 自分は敢えてそう読みたいかも。


黒と愛
飛鳥部 勝則
早川書房 2010-09 (単行本)
関連作品いろいろ

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猫とキルトと死体がひとつ / リアン・スウィーニー
[山西美都紀 訳] サウスカロライナ州の小さな町マーシーに越してきて程なく、最愛の夫を亡くしてしまったキルト作家のジリアンは、三匹の愛猫と肩を寄せ合うように暮らしています。 或る日、出張先から帰ってみると、そのうちの一匹がいなくなっていて、そこには何者かに連れ去られた痕跡が・・
湖にほど近い南部の長閑な田舎町を舞台にした、健全で晴朗な空気が眩しいくらいのコージーミステリでした。 ふわふわの我が子たちへの愛がムンギュと詰まった親バカ三昧ものとしての読みどころもいっぱい♪
心配で心配で猫の行方を捜すうちにとうとう殺人事件にまで首を突っ込むことになってしまうジリアンなのですが、それは同時に、傷心の日々にさよならを告げ、一歩、また一歩と町のコミュニティに踏み出していく契機にもなっていました。
小さな田舎町ならではの苦笑い級の公私混同っぷりや、口コミ情報網の無敵っぷりなどがユーモラスに織り込まれていたり、善きサマリア人的な隣人の暖かさが脈々と機能している空気なんかも折に触れて感じとれたりして。 南部気質といっていいのかなぁ。 閉鎖的なところがなくて、ウェルカム! ジリアン! って眼差しに次々迎え入れられていくのが微笑ましいの。
ジリアンの一生懸命さは一歩間違えるとウザったくなってしまいそうな危険を孕みつつ、そこを上手に回避していると思いました。 正義感が強くて慈善の精神に溢れているこの感じ、日本を舞台に同じことをやったら、おそらくわたし気恥ずかしくて読めないかも・・という悪寒を抱くんですが、アメリカだと何でこんなに様になってしまうんだか。 自分も甚だ現金だよね;;
何はさておき、猫たちがいいです! いわゆる猫ミスなんですが、ちょちょっと愛くるしい猫を入れとこ・・みたいなお粗末なものではなくて、メルロー、シラー、シャブリ。 三匹の猫たちの個性の描き分けが巧みで、その表情や仕草の一つ一つに生き生きとした臨場感があって、猫好きを決して失望さない猫度です。


猫とキルトと死体がひとつ
リアン スウィーニー
早川書房 2010-06 (文庫)
関連作品いろいろ

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記憶の隠れ家 / 小池真理子
記憶の隠れ家
小池 真理子
講談社 1998-01
(文庫)


あなたは覚えているのでしょうか。激しい愛の思い出も、暗く静かな憎しみの過去も、すべてを搦めとり封印してしまったあの「家」のことを……。記憶の深みに隠されていた悲劇の真相が、いま甦る。
再読。 家と記憶にまつわる6篇のオムニバス短篇集。 全体的に残酷物語風というのか、ひんやりとしたサイコサスペンスの色調。
ラストの意外な真相というオチへ導くエンタメ度の高い作品群で、アイデアとしても特段に目新しさがあるわけではないのだけれど、その分、シックな洗練が極められているイメージ。
“家×記憶”という趣きあるモチーフを支える匂やかな筆致、情景描写のきめ細やかさ、美しさでワンランク上のエレガントな短篇へと変身させてしまう手腕がすごい。
狂気が鮮やかで何気に印象深いのが「刺繍の家」。 刺繍で埋め尽くされた異様な部屋、再会した旧友の人物造形の妙、モヤッとしたイミフ感も残すラストが、なんかいい。
「封印の家」と「花ざかりの家」のラストで露わとなる継母像の対照性が面白い。 意図的なのかな。
最終話の「野ざらしの家」だけ、毛色が他と少し違い、極上の読み物になっている気がする。 淡い再生の予感を残し、余韻深いのだ。 この一篇をふと再読したくなって手に取ったのだけど、やっぱり好き。
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